長い。
自身の口内に押し込まれた舌が、あきらかに長い。
唐突にくちづけられたことよりも、その異様さに気をとられたのが間違いだった。
あっさりと主導権を握られて、舌が口の中を暴れまわるのを許してしまう。
苦しさが勝って、自分よりよほど薄い肩を掴んで押しのけようとしたが、びくともしない。
じろりとにらみつけても、にまにまと目元が笑っている。
調子に乗って舌をからめてくるのに、どんどん苛立ちが湧き上がり、口内に侵入してきた舌を噛み切る勢いで歯を立てた。
ぶつりと皮のやぶれる感覚、どろと口内に広がった液体。血の味と匂いを錯覚した。
しかし、次の瞬間、あきらかに舌の傷からの出血とは思えない量の液体が口内を満たして、喉奥を目指す。ぞわ、と悪寒が走る。
自然と後ろに下がろうとしたのを留められて、顎を掴まれた。
ゆうるりと至近距離で水銀の瞳がとろける。
口内では固形を保っていたはずの侵入者の舌が輪郭を失い始めていた。
まるで飲ませようとしているかのように、さらに深くくちづけられそうになって、ラインハルトは咄嗟に足を振り上げた。
そちらからの衝撃は虚をついたのか、今度はあっさりと離れていく。
ラインハルトの友人は残念そうに唇の近くについた液体をなめとる。
その舌はかけた様子もなく、傷もなかった。
何事もなかったかのように。
自分の口内に残った液体を吐き捨てようとして、口の中になにも残っていないことに気が付いて、ラインハルトは自身の喉を片手で押さえた。
友人は微笑んでいる。
ラインハルトは顔をしかめた。