おのれの腹に突き刺さる聖槍を見た。
ぱちりとまばたく。
眠りの浅瀬でたゆたう意識が、脇腹に埋まった槍の穂先に依って肉体のうちに収まっていく。
ラインハルトの覚醒に反比例して、槍の方は形を失い始めていた。もとより陽炎のようなものであるらしい。
脇腹に指を滑らせれば、爪先はつるりと肌の上を滑り、傷跡にひっかかるようすはない。穂先が埋まっていたというのに傷はないようだ。痛みも感じない。すこし感覚を伸ばしてみても、城に異変はなかった。静かなものだ。
ほろほろと槍が解けていく。同時にラインハルトはおのれの記憶と記録が量を増していくのを知覚していた。まるで陽炎の聖槍を構成していたものが、身のうちに溶け込んでいくような感覚。
記憶の海に足先を浸すようなイメージ。記憶の中身は既知感のそれとちがって現在のものではない。本来であればもっと先の、つまり未来の記憶を確かめていくうち、ラインハルトはことりと首を傾げた。
はて、カールのしわざだろうか。
浮かび上がった考えを、ラインハルトはすぐさま否定した。
出来るか、出来ないかだけで言えば出来るだろうが、あれはこういうやりかたを好む性質ではない。なにより既に知っていることを厭うている男だ。