あ、来た。
視線が向かう先ははるか頭上だ。先ほどまで涙をこぼしていた空を覆う雲に亀裂が入り、太陽の光が漏れ出ている。
薄明光線。友人の到来を告げる先触れだ。
すちゃりとサングラスを装備する。遠くから聞こえてくるざわめき。感嘆の溜息。
左右に割れる人なみのなか、ゆったりとした足取りで歩いてくる男が待ち人であった。
みずから発光しているかのように輝かしい男だ。光を紡いで織り上げたような金の髪が、サングラスのレンズ越しに目を焼いた。
「待たせてしまったようだ」
「ああ、いや、今来たところだよ」
そうか、と口元に微笑みを刻むだけで、周囲から息を飲む音が聞こえてくる。失神者が出ていないだけ上等というものだろう。
今日の予定はなんてことはない。ただの肝試し、オカルトスポット巡りだ。
大学院に入ってまでやることがそれかなどと言ってはいけない。人生、なにごとも多少のスリルが必要なものだ。
まあとはいえ、眼前の級友が参加するとは思っていなかったのだが。
そういえば珍しい話の一環として、怪談も好んでいた。優雅なふるまいの男が、わざわざ寂れたトンネルだか、なんだかを巡り歩くのを想像してみると、妙な面白さがある。
他の参加者とも合流して、山道を歩く。なんでも事故死した女の霊がでるだのなんだのといった噂が有名なトンネルが目的地だ。
目的地にたどり着くまでに、サングラスをかけた集団にかこまれた優美な男がひとりという珍妙な光景に、通行者とすれ違うたび二度見されるのにも慣れてきたところで、薄暗いトンネルの入口が見えてきた。
とりあえず記念に一枚と、トンネルを背にシャッターを切った。
どれどれ、と写真の出来栄えを確かめるべく、デジカメの液晶パネルをのぞきこむ。
あれ、と声が漏れる。輝かしい男のそばに黒々とした謎の影が映っていた。人ひとりぶんの大きさの影だ。輝かしい男のまねをしてか、似たようなポーズの輪郭でうつっている。
疑問の声に反応して、同じように液晶パネルを見た級友は、ああと納得の声をあげた。
「いつも写るんだ、私がいると」
「ホラーじゃん。こんなとこまで来なくても、おまえと写真撮ればもうそれで納涼出来てたんじゃないか、俺たち」
「かもしれんな」
くすくすと微笑む姿はいたずらっけに満ちていて、どうにも稚気が残る。
「えー、お祓いいったほうがいいんじゃないの?」
「ふむ、写真に一緒にうつるくらいで、特になにか不都合があるわけではないし……それに案外便利だぞ?」
「というと?」
「宴会芸になる」
なるか? と思ったが、まあ本人が自信満々だったので、そういうことにしておいた。