湯船につかって、はふりと息をつく。蓮は髪をまとめて上げた養父を期待に満ちた目で見た。
「そこまで気に入ると思わなかったな」
湯のなかに沈んでいた養父の腕が持ち上がり、ざぱりと湯船の中に波を生む。指揮棒のようにその人差し指が振られると、波打つ水面からするりと水が伸びあがって、湯船のふちで小さな人型になった。水だけで衣服や手に持った道具などもわかりやすくつくられた、精巧な人型だ。
それらは蓮にむかってひとつおじぎをすると、湯船のふちをまわるようにワルツを踊り始めた。不思議とどこからか音楽まで聞こえてくる。
わくわくとそれらを眺めながら、蓮もまた手の中で水をこねくりまわして、人型をつくろうとした。棒人間のようなそれにむむんと不満げに唸る。
「なあに、すぐ上達するさ。卿の父親はこういうのが得手だったからな」
「む、そんなやつのことは知らない」
ぷいっとそっぽを向いてしまった蓮に苦笑をしつつ、養父は自身の指先についている水滴に息をふきかけた。
すると途端にそれらは浴室のなかに飛び散って浮遊し、きらきらと輝き始める。代わりに浴室の明かりが勝手に閉まって暗くなる。きらきらと輝くそれらは、なるほど星座だ。
星の光が照らすなか、ちいさな人型がくるくると踊っていた。