「あなたの隣には誰もいない」
かつて聞いたことのある言葉にラインハルトはひょいと眉を上げた。
何の話をしていたのだったか、ゆるゆると記憶を辿るが、この夜闇の如き友人がつらつらとなにかを喋っていたことしか思い出せない。
城の私室でチェスをして、その後酒をなめながらまったりと話をしていた。途中から意識がふわついて、ぼんやりし始めてしまった。友人の声はどうにも眠気を誘う。
いつのまにか側にいた友人に手を取られて、指先に口付けられる。指先の後は手の甲と、徐々に上ってくるキスの位置。
「あなたの孤独を誰も理解しない」
どこか優越感の滲む声だ。
頬へのキス。唇へのキス。ちろりと唇を舐められる。
いつもならばここで唇を開いて、侵入を許すところだったが、なんとなく止めた。友人の肩を押して、身体を離す。
なぜ止められたのか分からないと友人はぱちくりと瞬いた。
「私の隣には誰もいないのだろう」
いたずらっぽく笑う。言われたことが癇に障った訳ではない。単なる気まぐれであった。強いて言うなら悪戯したくなったになるかもしれない。
え、とまだ戸惑っている友人の胸を強く押せば、この部屋からその存在が消えた。
ここは彼の城だ。城主の意のままに動く。城の心臓もウキウキで実行した。
まあ魔術などは友人の方が一枚上手であることは間違いないので、すぐに戻ってきてしまう気もするが、それは一旦置いておく。
消える直前の友人の表情を思い出して、ラインハルトはくすくすと笑った。