十三夜の約束「今日は月が明るいな」
開け放った戸の間から空を見上げて、豊前江が口にした。
審神者は目線を手元に落としたまま、そうですね、と相槌を打つ。はらりと吹き込んできた風に、彼女の手元を照らす灯りがわずかに揺れた。
「十三夜ですし」
「ああ、今日の栗料理は美味かったな」
片見月をよしとしない風流な面々によって、今夜の夕食には団子や栗料理などが振舞われた。
桑名江を中心にして育てられた旬の食材はいずれも美味で、それらは月を愛でる間もなくなくなっていった。
「クレーターっつったっけ?窪みまで見える気がする」
「月といえば、土地の名前も面白いですよ。蛇の谷、喜びの湖、虹の入江…」
「主は月に行ったことあんのか?」
「いいえ、土産話は聞いたことありますが」
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