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    転生の毛玉

    あらゆる幻覚

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    転生の毛玉

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    【創作】器用さとパワー
    本当はフエくん誕に向けた作品にしようと思ってたのにその要素がどこかに消えた

    ##創作

    可塑性は如何ヌビア学研究所、居住区。
    その一室に、【ヌビアの子/器用さ】と命名された青年が住んでいた。
    彼─────フエ・グエンは、机に向かって、ドライバーやはんだごてを使いこなす。そうして、つい先程まで見る影もなかったゲームコントローラーを元の形に組み立て直していた。

    「本当に助かるよ。ありがとうね」
    フエにそう言ったのは、同じく【ヌビアの子/パワー】と命名されたラリベラだった。フエを背後から覗き込んでは、白銀の髪の下の麻呂眉を下げる。フエは、顔を上げてふにゃりと微笑んだ。
    「ラリベラさん、気にしなくっていいよぉ。ボク、こういうの得意だもの。…って、知ってるよね」
    「それはもちろん。【器用さ】だからね。でも、本当にありがとう」
    フエの言葉に、ラリベラは微笑んだ。

    *****

    つい先程、ラリベラはフエのもとに、粉々になったゲームコントローラーを持って駆け込んできた。
    ラリベラ曰く、
    『きょうだいに買ってやろうと思った』
    『だけど、中古だから3日以内に動作確認をしろと言われた』
    『サプライズで渡してやるつもりだったから、自分で動作確認をした』
    『壊れた』
    ということらしい。フエは、いかにもラリベラらしい理由だ、と思って苦笑した。
    修理代も出すし、それとは別にお礼もするから────とラリベラは言った。しかしフエは「ちょうど暇してたんだぁ」と答え、見返りゼロで粉砕されたゲームコントローラーの修理を請けたのだった。

    そして、今に至る。

    *****

    「しかし、本当にフエはすごいね。粉々だったのが嘘みたいだ」
    ラリベラは目を丸くしてフエの手元を覗き込む。普段は細められがちな黄色と紫の瞳を、よくよく開いている。
    既に、コントローラーは『コントローラーらしい形』を取り戻している。所謂十字ボタンもスタートボタンも整った、立派なコントローラーだ。
    フエは、作業をしながらに、ゆるりと首を左右に振った。
    「ボクは、これが取り柄だから……。むしろ、握力だけでここまで壊しきれるラリベラさんの力が羨ましいくらいだよ。かっこいいと思う」
    「アハハ、そうかなぁ?ありがとう。あんまり役には立たないけどね」
    ラリベラは素直に言葉を受け取り、頬を搔いた。
    「むしろ、嫌なことも多いくらいさ。フエがいなかったら、バイト代が無駄になるところだったよ」
    ラリベラは肩を竦める。フエは「そうかなぁ」と濁し気味な相槌を打つと、「ところで」と続けた。
    「今、バイト代が…って言ったよね。外でアルバイト、してるの?」
    「ん?うん、してる」
    「えっ、何で?」
    フエは作業の手を止めて顔を上げた。その顔に浮かぶのは、純粋な驚きだった。

    *****

    フエが驚くのには、理由があった。

    彼ら【ヌビアの子】は、今やこの世において、法律で保護された存在だ。
    故に、最低限の衣食住は常に保障されている。

    加えて、ヌビア学研究所で行われる実験の数々に対して、報酬が支払われる。いわば、【ヌビアの子】としてのアルバイト代だ。この報酬には『ヌビアの子としての実験に嫌気が差して、逃げられるのを防ぐため』という役目があることから、一般の賃金相場に比べてかなり高く設定されている。

    これらのことから、よほど贅沢をしなければ、【ヌビアの子】らは平均以上に豊かな生活を送ることができるようになっている。
    だからこそ、進んでアルバイトをしようなどという【ヌビアの子】は、稀有なのだ。

    *****

    「大変でしょ。大学も実験もあるのに、わざわざバイトなんて」
    フエはゲームコントローラー(になりかけのもの)を机上に置くと、ラリベラを覗き込むように見上げた。ラリベラは「んー」と、気楽そうに首を傾げた。
    「オレ、高校時代からずっとバイト漬けだったんだよねー。だから、別に大変とかは思わないかなー」
    あっけらかんと言い放つラリベラが、フエには理解できなかった。フエは惑ったように濃淡のオレンジ色の瞳を泳がせると、おずおず唇を窄める。
    「お金によっぽど困ってる、とか?」
    「昔はね。今は困ってる……とまでは言わないかなー。ヌビア学研究所から、オレ一人が暮らすのに不自由しないくらいのお金は貰えてるよ。でも、ウチは7人兄弟だからね」
    「7人!結構大家族なんだね…!」
    ラリベラの言葉に、フエは大きく口を開く。ラリベラは頷いた。
    「しかも、オレが一番上だから。全員をそれなりの学校にやって、その上不自由なく暮らそう…と思うには、研究所がくれるお金じゃあ、ちょっと足りないよね」
    「そっ……かぁー」
    ラリベラは、ふわー、すごいや、とため息をついた。
    「ラリベラさんって、【ヌビアの子】の中でもお兄ちゃんだけど………おうちでも、頼れるお兄ちゃんなんだね」
    「頼れはしないんじゃないかなー?オレ、馬鹿だもん」
    けらけらっ、とラリベラは笑う。フエは苦笑して、作業に戻る。
    「じゃあ、可愛いご兄弟のために、早くゲームを直してあげなきゃね」
    一声言うと、一時手を止めて、腕まくりをする。ぺろっ、と唇を舌で濡らして、目の色を真剣なものへと変えた。
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