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    転生の毛玉

    あらゆる幻覚

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    転生の毛玉

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    【創作】フエくん誕生日おめでとう!日付設定は5/31の話
    「可塑性は如何」の続編です

    ##創作

    延性は何時迄「…………」

    その日も、ヌビア学研究所では、実験が行われていた。
    対象者は、【ヌビアの子/パワー】と【ヌビアの子/美貌】。
    ヌビアに等しい力を、細身の体から発揮する仕組みの解明。並びに、ヌビアと同じだけの筋肉量を持ちながら【パワー】にはならない【美貌】の構造の解明。
    それが今日の実験の目標だった。

    *****

    「おつかれさまでしたー」
    「乙でーす😀」

    そう言って実験室を出る影が二つ。
    その姿を捉えると、だっと駆け出す別の影があった────

    「あっ、フエ!」
    「!」
    先にそれに気づいて声を上げたのは、【ヌビアの子/パワー】のラリベラ・ギョルギスだった。呼ばれたフエは、ぎょっとした顔で立ち止まる。しかし、すぐに常のへにゃりとした笑みに戻った。
    「ラリベラさんじゃない。何してたの?」
    「今?ナスカと一緒に実験を…………あれ?」
    ラリベラが【ヌビアの子/美貌】───ナスカの名前を口にしながら見やった先には、既に誰の影もなかった。ラリベラは、「急ぎの用でもあったのかな」と首を傾げる。その後ろで、静かな廊下を白眼視するフエには気付かないで、「ネットのゲームでもしに帰ったのかな?」と結論づけた。

    「あっ、そうだ、それより」
    ほとんど叫ぶように言いながら、ラリベラはフエに向き合った。フエは一瞬にしてぽやんとした顔になる。ラリベラは、ぐんぐん大股にフエに近づいた。
    「わ、」
    フエはその迫力に思わず声を上げた。
    細身であるために分かりにくいが、ラリベラはヌビアの子の中でもかなり背丈が高い部類に入る。ハンザやナスカと並んで劣らないレベルだ。反対に、フエは平均的に見ても小さい部類に属する。本人が『男の子の中で一番小さいのはボクじゃないか』と不貞腐れているほどだ。故に、彼らが近づけば、必然的にフエはラリベラを大きく見上げることになる。
    「ぼ、ボクに何か…?」
    「うん、用事」
    「な、なぁに?」
    「フエって、誕生日は、いつ?」
    「えっ……明日」
    「明日!?」
    ラリベラは細めがちな目をまん丸にして叫んだ。そのまま、「それはおめでとう」とか、「でもどうしよう」とか言いながら、忙しなく手を彼方此方へと彷徨わせる。フエは、そのラリベラの様子にタジタジしながら、伺うような声を上げた。
    「ボクの誕生日に、何か…?」
    「あぁ、そう。何か、プレゼントをしようと思って」
    「あ……そうなの」
    至って常識のある回答を得て、フエはそっと胸をなでおろす。
    「でも、気持ちだけで嬉しいよ。プレゼントなんて」
    フエはやんわりと眉を下げた。
    誕生日にプレゼントを貰わないとおかしい、と思えるほどフエとラリベラは親しいわけではない。加えてフエは、ラリベラが弟妹のためと労働し稼いでいることを知っている。その相手に、物が欲しいと強請る気にはなれなかった。
    ところが、ラリベラの方が強情だった。「いーや」と首を横に振る。
    「絶対に誕生日は祝わせてもらうよ」
    「なんで、そんな」
    フエは、気圧されたように上目遣いになる。ラリベラは、空恥ずかし気に唇をへの字にした。
    「………前に、ゲームコントローラーを直してもらったことがあったよね」
    「えっ?あぁ、うん」
    フエは頷いた。
    それは少し前のことだった。ラリベラが、弟妹のために買ったコントローラを【パワー】ゆえに自ら破壊してしまったのだ。結局、フエがコントローラを直したことで、事なきを得たのだった。
    「あれ、無料で頼んじゃったでしょ?」
    「そっ、それはボクがそう言ったからだよ!ラリベラさんが悪いわけじゃないって!」
    フエは慌てて声を上げた。
    確かに、フエはコントローラを見返りゼロで修理した。しかしそれは、フエが『暇つぶしだから』と、自ら進んでそう申し出たのだ。
    「でも」とラリベラが申し訳無さそうな顔をするのが、却ってフエにとっては辛かった。
    「オレも、フエの優しさに甘えちゃったんだよね。でも、シスターに怒られたんだよ。人にそんなことを頼んでおいて、お礼もしないのか、って」
    「シスター…」
    「あ、オレの妹ね。オレの次で、マリアっていう17歳の子なんだ。オレよりずーっとシッカリしてて、頭の出来も良いし気も遣えるんだ、それに、オレが言うのもなんだけどなかなか美人になったと思うし、責任感だってあって……」
    ラリベラは申し訳無さそうな顔から一転、嬉々として妹の良いところを並べ立てていく。『シスター』と言われて修道服の女性を思い浮かべてしまったフエは、「はー」とか「ほー」とか曖昧に頷いていた。
    たっぷり一分間ほど、ノンストップでラリベラのシスタートークが続く。やっと、ラリベラがハッとした顔をした。
    「ごめん、話が逸れた。それで、シスターが言うには、『それなら誕生日のときに、きちんとプレゼントをしてお祝いしてあげて』って。流石シスター、賢いよね!」
    「ああ、はあ、うん」
    「それで、フエの誕生日を聞きたかったんだけど……そうか、明日か……。何か買いに行くにしても間に合わないなぁ。そもそも、フエってどんなものが欲しいのかな」
    フエは(誕生日プレゼントなんて、いいのに……)と呟く。しかしこのラリベラの行為を無下にすることは、マリアなる妹君の好意を否定することになる。それはラリベラにとって嬉しいことではなかろう、と判断し、フエは「うーん」と唸るに留めた。
    「ボク、自慢じゃないけど、ほとんどのものは自作できちゃうから。何が欲しいっていうのは、あんまり無いんだよね」
    「そっか…。それもそうだよね。じゃあ、ええと、荷物運びとか」
    「荷物運び?」
    「そう。オレの方が、フエより得意なことって言ったら肉体労働かなー、と思って」
    「それは……そうかもしれないけど…………あ」
    フエは突如閃きの声を上げた。「何?」と、ラリベラの声も期待の色が滲む。
    「1日……欲を言っていいなら2、3日、家事を代行してもらえるかなぁ。特に片付けと掃除」
    「片付けと掃除?そんなことでいいの?」
    ラリベラが肩透かしを食ったようなため息をつく。フエは、やや顔を赤くして頷いた。
    「………実はボク、ラリベラさんとは反対なんだぁ」
    「反対?」
    「そう。甘やかされ放題の末っ子なの。だから、……幸い能力のお陰で料理と裁縫は得意なんだけど、………片付けとか掃除がからっきし駄目だし、嫌いなの。だから、請けてくれるとすごく助かるんだぁ」
    フエは暖色の瞳をきらきらさせた。ラリベラは笑顔で答える。
    「分かった、任せて。これでも中学時代は、近所の家事をやって駄賃貰ってたんだ。主夫スキルはあると思うよ」
    「それは安心」
    うふふっ、とフエも笑った。

    *****

    じゃあ早速来週にでも、と日付を約束して、実験棟を出る。そこでフエとラリベラは別れた。ラリベラは居住区ではなく、研究所外に住んでいるために、帰る方向がばらばらになったのであった。
    ラリベラの姿が見えなくなるまで、フエは笑顔で手を振る
    ─────と、すぅ、っと表情を冷ます。
    「はぁーあ」
    そばかすのある頬に手を当ててため息をついた。
    「……誕生日前に、ナスカくん捕まえようと思ってたのに。………まぁいいか」
    時間はたっぷりあるんだし。と、ぽそっと吐き落す。
    既に誰もいない実験棟の前、夕焼けの中に、その声は溶けて消えた。
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