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    転生の毛玉

    あらゆる幻覚

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    転生の毛玉

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    【創作】ヌビアの子
    またハンザくんの話。ハンザくんで描きたいものが多すぎる 出演はアイール

    ##創作

    たるもの・かくあれ「あ」

    それは偶然だった。
    広い食堂とはいえ、机や椅子が所狭しと並んでいる以上、通路は広くはない。二人の身体同士がぶつかり、その一人、アイールが顔を上げる。
    「すまない」
    そう答えたのは、世界にほんの13人しか仲間のない【ヌビアの子】の仲間のひとり、ハンザだった。白米と魚と味噌汁、今日のランチのBセットの盆を持っている。
    「こっちこそごめんね」
    アイールが持っている盆の上には、トーストと、サラダと、サイドのおかず。ランチのCセットだ。

    「ハンザくん、ご飯一緒に食べて良い?」
    「……私で良ければ、構わん」
    「かまわない、構わない」
    アイールはルンルンとした調子でハンザの隣の席を取る。制服、或いは軍服じみた坊主の大男と、ロリィタ服を身にまとった水色髪の少女────その実、少年なわけだが────が並んで座っているというのは、嫌でも目を引く。特にこのヌビア学研究所の中において、オッドアイが二人並んでいるというのは嫌でも【ヌビアの子】同士のつながりを示す。視線を鬱陶しく感じながらも、ハンザは律儀に「いただきます」と礼儀を示した。
    「ハンザくん、それっぽっちで足りるの?」
    「足りる」
    「へぇ、アイちゃんの偏見だけどもっと食べると思ってた」
    一人前大盛りの量でハンザの前に準備された昼食を見て、アイールは首をひねる。ハンザは割り箸を2つに分ける。パキンと小気味いい音が立った。
    「…………」
    ハンザはそのまま、無言で昼食に齧り付く。食事中に黙ることは、寧ろ礼儀上正解であるのが、ハンザにとっては幸いだった。

    ─────実のところ、ハンザはアイールを苦手としていた。

    *****

    元々、テネレのみならずアイールも当然女性だと思っていた頃は、そんな苦手意識を持つこともなかった。それが、アイールは男であると分かった瞬間から、ハンザの中でのアイールは『わけのわからないもの』になったのだった。

    ハンザ、それからリヨンは地方の地主の一族に生まれた。中央都市からもたらされる文化よりも、地元の因習を重んずる傾向が強かった。そこで彼が幼い頃から得てきた価値観の上では、『男子が女子の格好をするなど有り得ない』のである。ゆえに、ハンザにとってアイールは有り得ない生き物、わけのわからないものなのだった。

    *****

    アイールは自分のサラダをじっと見て、少し不機嫌そうな顔をしていた。そして徐ろに口を開く。
    「……アイちゃん、ブロッコリーあんまり好きじゃないんだよね。ランチメニューの写真よく見てなかったぁ…失敗したなぁ」
    独り言のようでもあるが、実のところ、ハンザに話しかけている。流石に、それを理解しないハンザではない。ハンザは端的に「そうか」とだけ答えた。
    サラダを私に押し付けでもする気だろうか、と思ってハンザは横目でアイールを見る。アイールはというと、嫌そうな顔をしながらも黙々とサラダを食べていた。ハンザには、それが意外に思えた。わけのわからないものも、どうやら、我儘をするわけではないらしい、と。

    「テーネがね」
    アイールは呟く。ハンザは、白米を食べる手は止めないながらも、応える代わりにアイールに視線を向けた。
    「今日は、リヨンちゃんと一緒にご飯食べるって言ってたの。だから、アイちゃんとは今別々でね」
    「リヨンと」
    ハンザはその名が出たことに反応した。自分の従妹に、積極的にテネレと食事をしようと思うほどの繋がりがあるとは思っていなかったのだ。
    「『女子会』とやらか」
    「そんな大層なものじゃないと思うよ?でも、まあ、そういうことなのかなぁ」
    アイールは少し声色を落とす。
    「……アイちゃん、【ヌビアの子】として、ここに来てから、テーネと過ごす時間が減っちゃって。正直、淋しいんだ」
    それは、ぽつり、と零されたものだった。
    「家で過ごしてた時は、たった二人の兄妹で、しかもヌビアの子の仲間でもあって………側にずうっといるのが、当たり前だったんだけどね」
    間を多分に開けながら、声のトーンは低いながら、それでもアイールの言葉はぽつぽつと紡がれていく。ハンザは、箸を止めている。
    「アイちゃんより、妹のテーネのほうが、ずっと、社交的な頑張り屋さんなんだ」
    「………似ている」
    「えっ?」
    アイールは顔を上げた。先程までアイールに視線のみを向けていたハンザは、箸を置き、身体ごとアイールに向けている。
    「………私の場合は、従妹だが……私より、リヨンのほうが遥かに社交的で努力家だ」
    「……ハンザも、淋しいもの?」
    アイールは上目遣い気味にハンザを見上げる。顔を覗き込まれる感覚に、一瞬ハンザは萎縮したようだった。しかし、すぐに平静を取り戻し、続ける。
    「従妹だから、元々ずっと一緒にいたというわけではない。だから寂しいかと言われれば嘘になるが─────」
    ハンザは、自分の価値観や思考が中央都市でのそれと異なることを薄々感じていた。それでも、自分を今更捻り曲げることは難しい。どれだけ、中央都市では当たり前のことと言われても、『男子が女子の格好をするなど有り得ない』と思うし、『男子が男子を愛するなど有り得ない』と思うのである。その価値観の間で葛藤するハンザを支えてきたのは、いつだって他ならぬ従妹だった。ハンザは言葉を続ける。
    「……そうだな、淋しいわけではない。ただ、時折、心細い」

    「じゃ、お揃いだ」
    少しの間の後、アイールはふんわりと微笑んだ。それは、雪を溶かすような笑顔だった。
    「アイちゃん、ハンザくんのこと誤解してたかも。アイちゃんと、似たところあるんだね」
    「似て─────いるだろうか」
    「うん、そっくり」
    ねっ、とアイールは肩をすくめて小首をかしげる。『可愛らしさ』を絵に描いたような仕草だったが、不思議と、ハンザの胸中に靄が溜まることはなかった。
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