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    piiichiu5

    @piiichiu5
    大抵未完成小説をあげます。その後もし完成すれば完成品を支部にあげます。ネタバレに配慮ありません。

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    piiichiu5

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    キサタケ小説の続き
    あれで終わりのつもりでしたが、反応いただけて嬉しかったので蛇足を……
    未完、未校正です

    re:restart28月。
    夏は生と死の濃い季節だ。
    太陽がコンクリートに照りつけて、光と影の境界がくっきりと鮮やかに、色んなものを映し出す。

    8.3抗争以降、俺と稀咲は黒龍での足場固めを始めた。
    現状の黒龍での俺の立場はやや曖昧だ。
    まだ10代目総長の大寿君が君臨する中で、俺は大寿君に次期総長として指名されている状況だからだ。幹部の主だったところは、あの夜公園にいたからか表だって反対をしていない。
    明らかに反抗の意思を示しているのは、むしろ末端のメンバーだった。
    黒龍は歴史は古いが、9代目の後に一度断絶している。今入ってきているメンバーは、ほぼ大寿のカリスマ・黒龍のネームバリューに惹かれた者たちなのだ。大寿くんと並ぶと、俺は実際、かなり見劣りすると思う。そういう奴らを、まとめていかなくてはいけない。
    今日も俺と稀咲は俺の部屋で作戦会議をしていた。

    「雑魚どもの言うことは気にするな。実績があればついてくる。むしろ、当初の想定よりずっと有利な状況だ。柴大寿がこれほどお前を見込んでくれるとは思っていなかった」

    ちらりと稀咲がこちらを見上げる。俺はポテチを一枚ずつ食べながら、ベッドに転がっている。

    「ああ、そうだ。あの4人用のトップクが出来たそうだ。あとで持っていってやれよ」

    稀咲の言葉に、俺はじとりと稀咲を見やった。あの4人と言うのは溝中のいつものメンバーのことだ。タクヤ、マコト、山岸、そしてあっくん。

    ーー俺が黒龍11代目総長に決まったと伝えたときのアイツらの反応は見ものだった。
    最初は冗談だろうと笑い飛ばしていたが、本当だと知ると目をキラキラさせてはしゃぎ、自分のことのように喜んだ。
    それでも「じゃあコネで俺らも入れてくれよ〜」とは言わないのがアイツらの良いところだった。だが口に出しては言わずとも、「入りたいな〜」と思ってるのはひしひしと伝わった。だから、一応は稀咲に聞いてみたのだ。
    正直、俺は「駄目だ」と一言のもとに却下されるものと思っていた。「馴れ合いじゃないんだぞ」とか。スゲェ言いそうだ。

    だが、意外にも稀咲は二つ返事で彼らの入団を認めた。

    「幹部にはさせられねぇぞ。今後の働き次第だが、まずは下っ端からだ」

    もちろん、コネで幹部になれるなんて誰も思ってはいなかった。
    入団できることを伝えると、溝中メンバーは興奮しきりだった。特に山岸は黒龍の歴史をよく知っていて、伝説のチームに入れる事にワクワクしているようだった。
    そんなダチの反応に、俺は急に不安になってしまった。

    ーー稀咲は、また何か企んでるんじゃないのか。捨て駒とかにされるんじゃないか。
    俺一人のことなら、苦しくたっていいけど。
    あっくん達を、巻き込みたくない。

    突っ込んでくるSUVの運転席に乗った血まみれの男。屋上から飛び降りる背中。

    “いつからこうなっちまったんだろう?”
    “オレは今や稀咲の兵隊だ”
    “怖ぇんだよ”
    “ただひたすら、稀咲が”

    ーー未来のあっくんに何度もヒナと俺を殺させたのは、稀咲だった。

    俺は思わず、キッと稀咲を睨みつけていた。

    「……あっくん達に酷いことしたら、許さねぇからな」
    「オイオイ。今はナカマだろうが。ちょっとは信用しろよ」
    「それは……それは、悪い。でも。稀咲は絶対反対すると思った。怪しいだろ。俺ら、あんま喧嘩強くねぇし」

    稀咲は小さく鼻を鳴らし、仕方がないと言うふうに口を開いた。

    「今の黒龍は約100人。その中での4人ってのは、お前が思ってるより大きな戦力なんだよ。普通の軍隊で考えてみろ。一万人規模の軍隊と考えるなら、単純計算で4人ってのは400人。大隊規模の価値がある戦力ってことだ」
    「大隊キボ……」
    「もちろん、そんな単純なモンじゃねえけどな。4人くらいの雑魚なら、どっかから引っ張ってくるのは簡単だ。だが、お前のツレにはそこらの雑魚にはない価値がある」
    「……なんだよ、それ」
    「忠誠心だ。今の黒龍は柴大寿の黒龍だ。そういう中で、4人の忠誠を信頼できるメンバーってのは、十分以上の価値がある」

    こういう時、俺は毎回あっけに取られてしまう。つるんでみて分かったが、稀咲ってマジで頭の回転が俺とは全然違う。ただお勉強が出来るだけではない。視点が広いというか……うまく言えないが、こういう風にコイツは東卍のNo.2に昇り詰めて行ったのだろうなと思わせた。

    「……忠誠心って……アイツらは、ダチであって家来じゃねえぞ」
    「友情と言い換えようか?何でもいいさ。要は、お前がヤベエ時に体張れるかってことだ。お前の“ダチ”は、ダチがヤベエ時に体張れねえフヌケかよ?」
    「違えよ!違うけど……」

    口籠って、結局言葉が出てこなくてうつむく。
    ずっと、長い間稀咲こそが敵だと考えてタイムリープを繰り返してきた。
    血まみれのあっくん。刑務所の面会室で会ったドラケンくん。目の前で殺された千冬。

    ーー目の前でトラックにひかれて、おかしなほうに手足が曲がった稀咲。

    「ーーーーい」

    「オイ!!」

    はっとして、二、三度瞬きをする。そのまま、何度か首を振った。
    そうだ。あの時、ちゃんと稀咲と向き合いたかったと後悔したはずだった。
    今こそ、そのときではないかと思う。

    「稀咲、オレ……」

    口を開いた俺を、稀咲は掌を見せて遮った。逆の手に嵌められた腕時計を見ながら、言う。

    「花垣、お前、一度未来に帰れ」
    「…………えっ??」

    ぽかんと口を開けた俺に、稀咲は言う。

    「何を驚く?せっかくタイムリープなんてチートな能力を持ってるんだ。使わないバカはいないだろ。俺達は一度方針を決めた。ここで未来を確認して、望んだ未来でなかったらまた方針を立て直す必要がある。今日は8月23日。もうすぐちょうど17:00だ。12年後の今日この時間オレはお前と一緒にいるようにする。お前は未来の情報を少しでも覚えて戻れ」

    確かに、言われてみればそうかもしれない。
    ナオトの時と違って、過去のトリガーも事情を共有していると言うのは、こう考えてみるとかなり便利だ。12年後に待ち合わせができるし、こうやって好きなときに頻繁に未来に戻ることができる。

    「まぁ、リスクがないわけじゃないけどな。12年後に何が起こっているかわからない危険性はある。だがメリットがドでかい。まったく、“前”の俺に同情するよ。完全にチートじゃねえか」

    部屋の時計を確認する。長針がもう数周すれば、17:00ピタリだった。

    「……稀咲。その、色々あんがとな」

    右手を差し出す。稀咲はぴたりと口を閉じて、それから一度舌打ちした。

    「礼なんかいらねえよ。お前、約束は忘れてねえだろうな」
    「約束?」
    「2006年2月22日」
    「……ああ。忘れてねぇよ」

    そう答えながら、俺は正直、半分忘れていた。
    関東事変の日まで誰も犠牲を出さないでいられたら、俺は稀咲のものになる。確かにそういう約束をした。
    そんなことで。そんなことで場地君が、エマちゃんが、イザナが、そして稀咲が死なない未来が掴み取れるなら、俺は稀咲の奴隷になったって一向に構わない。まあ、俺なんか奴隷にしてなんか役に立つのかなとは思うけど……。
    稀咲は一度頷き、右手を差し出し返してくる。
    ぎゅっと握りしめた手のひらは、思いのほか温かかった。

    ーー ドク ン ーー

    12年後の8月23日。
    俺たちの方針が正しければ、誰も死なない未来があるのかも……。

    ーーーーアレ?
    方針って、なんか具体的に稀咲言ってたっけーーーー?

    ***

    「……あ、れ?ここ、どこ……」

    豪華な、ホテルっぽい感じの部屋の中だった。
    窓の外には東京の街並みが眼下に広がる。夕焼けが赤く綺麗だった。もう少しして暗くなれば、さぞ美しい夜景が眺められることだろう。
    その窓辺に、真っ白のテーブルクロスがかけられた丸いテーブル。その上に乗せられた、フレンチっぽい料理。
    そして目の前には……。

    「おかえりと言うべきかな。それとも久しぶり、か」

    稀咲が、ワイングラスを揺らしながら座っていた。
    スリーピースの高そうなスーツに、方耳にスクエアピアス。
    それは以前会った未来の稀咲と変わらなかったが、今回は髪型がちょっと違った。
    きっちり隙なく整えていた以前と違い、目の前の稀咲は少し前髪を遊ばせたゆるめのオールバックに整えている。そして、メガネをかけていなかった。
    コイツ、メガネはずすと実はイケメンの部類だな、と初めて気づいた。

    「稀咲……。ここ、どこ?」
    「はは。その呼び方、懐かしいな」

    稀咲が告げたホテルの名前は、俺でも知っているような有名ホテルだった。

    「急なトラブルでもあって邪魔されるのは御免だからな。ルームサービスにした。まあ、まずは乾杯しよう」

    トクトクと片手で注がれる赤い液体。「再会に」と合わさったグラスが、リィンと美しい鈴のような音を立てる。口をつけてはみるが、俺にはワインの良し悪しなんかよくわからない。ただ、唇に触れたグラスの薄さばかりはわかった。

    「食べながらこの"未来"の現状を説明しよう。ああ、マナーは気にしなくてもいいぞ。他に誰もいないしな」

    促され、目の前の料理に口をつけた。大きな白い平皿にちょこんと盛り付けられた、多分なんかの肉。ソースが絵画のようにあしらわれているが、コレは塗って食べたほうがいいのか?
    とりあえず口に入れてみると、うまい。柔らかい肉と、とろけるような脂のうまみ。ワインの良し悪しはわからなくても、肉がうまいかはわかる。

    「ん!ウマ!!」

    思わずばくばく食べてしまう。ふと顔を上げると、稀咲が面白そうにこちらを見ていた。

    「う……なんだよ」
    「いや?うまそうに食べるなと」
    「……この未来の俺は、うまそうに食べないのかよ?」
    「そんなことはないけどな。うまいモン食べつけてるから、そんなに目ぇキラキラさせて食べるのは新鮮だ」

    そう言いながら、稀咲はまたひとくちワインを舐めた。

    「まず、橘ヒナタは無事だ。小学校の教諭をしている。橘ナオトは商社勤めで、やはり一般的に健康な生活を送っていると報告が来ている」

    稀咲の言葉に、ほっと息をつく。
    警察官ではないナオトというのは意外だが、ナオトなら商社マンでも絶対うまくやっていくと思う。

    「黒龍は関東全域に大きな支配権を維持している。№2は俺。九井、乾、柴兄弟。それからイザナと鶴蝶が最高幹部だ」
    「……は?」
    「東卍については……2006年、解散した。佐野エマと場地圭介は生存している。場地は松野とともにペットショップを経営。佐野エマはドラケンとの結婚が間近だと聞いている」
    「え!すげえ、それって最高じゃん!マイキーくん、絶対喜んでるだろ!」

    その言葉に、稀咲がピタリと止まる。

    「……佐野万次郎は、失踪している」
    「……え?」
    「先に悪いニュースを伝えるべきだったかもな。2005年10月31日。血のハロウィンで、羽宮一虎は佐野万次郎に殺されている。マイキーは少年院を出てから、放浪生活を送っていた。去年、フィリピンに向けて出国したのを最後に消息を断った」
    「マイキーくんが……一虎くんを殺した……?」

    ありえない、と言いそうになって思いとどまる。
    そもそも、最初の未来では。一虎くんはマイキーくんに殺されていたはずだった。
    だが、それは一虎くんが場地くんを殺したからだったはずだ。
    でも、この未来では場地くんは生きている。

    「なんで……」
    「俺が仕向けた」
    「ハ!?」

    立ち上がった拍子に、ナイフフォークが落ちた。
    問いただそうとする俺に、稀咲が掌を示して止める。

    「まず話を聞け。……お前の今までのタイムリープの話を聞いて、過去の俺はいくつかの計画を立てた。他の世界線で死んでしまった人間を生き延びさせる……これは、目標が明確だ。問題はマイキーだった。『黒い衝動』ってなんだよ?そんな曖昧なもの、どうやって止めればいい?」
    「それは……」
    「過去の俺は、それを『憎悪』と読み変えた。兄を殺され、幼馴染を殺された。かつての友人への憎悪だと。だから、羽宮一虎とのタイマンの場を用意した」
    「タイマンって……だって、マイキーくんに敵うわけないだろ」
    「まあな。羽宮もそれはわかってて、最初から3対1でヤることになったから、正確にはタイマンとは言えないな」

    3対1。
    タイマン張ろうってときに、普通ならありえない勝負だ。
    だが、マイキーくんはそれでも絶対勝つ。

    「そうだ。マイキーの圧勝だった。だが完全に負けってところで、羽宮が刃物を持ち出した」

    目に見えるようだった。追い詰められた一虎くんがナイフを取り出す。それを深い黒の瞳で見つめ返すマイキーくん。

    「そこに、場地が割って入った。羽宮はわめいてたよ。『場地、お前まで裏切るのか』って。三人で揉み合いになった。それで、グサリだよ。ほとんど事故みたいな出来事だったが、マイキーは自分で証言した。殺意があったってな」

    俺は言葉をなくして、どすりとまた席に座った。

    「……それで、どう思う?この未来はどうだ?」
    「どうって……だって、一虎くんが死んでて、マイキーくんも行方がわからなくて……」
    「だが、場地は生きてる。イザナも、エマも。マイキーもどこかで生きているかもしれない。羽宮のことは残念だったが、自業自得とは思わないか?タイマンにナイフを持ち出して、返り討ちにあったんだぞ?」
    「それは……でも」
    「一人の人間が死んでるから、この未来は"失敗”か?なぁタケミチ。お前、凄く傲慢なことしてるって、気づいてるか?お前が否定してるのは、俺たちが生きてきた、12年間全部なんだぜ」
    「……っ」

    何も言えずに口を閉ざした俺に、稀咲はふっと諦めたようなため息をついた。

    「そんな捨て犬みたいな瞳をするな。意地の悪いこと言ったよ。2006年2月22日まで、誰も死なせない。契約を守れなかったのは俺だ」

    クイ、とワインを煽る稀咲は、ずいぶん丸くなったようだった。

    「……お前、印象変わったな。なんか、ちょっと丸くなったっていうか……」
    「そりゃあな。どこの時点の俺と比較してるかは知らねぇが、お前のリープの記憶を垣間見て、俺だっていろいろ考えたさ。それに……12年もお人よしの馬鹿の傍にいると、感化されちまうらしい」

    稀咲が俺のほうをじっと見る。俺はなんだか座りが悪くなって、「トイレ!」と席を立った。

    豪華なホテルのトイレは、ここに誰か住むのか?ってくらい豪華だった。大理石造りの手洗い場の曇りひとつない大きな鏡に映った自分を見て、「えっ」と声を上げる。

    「コレ……」

    やけに高そうな細身のスーツに、ハーフバックにされた髪の毛。
    そして、右耳に光るスクエアピアス。

    「稀咲と、おなじヤツ……?」
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