WDL後ロンドンにやって来たジョルといちゃつくデン「エイデンーあんたのコレクション借りるぜ。」
寝室からリビングのエイデンに声をかける。
「使わなくて済むよう祈るよ。」
なかなか帰ってこないエイデンに痺れを切らしてロンドンまでやってきたが、まさかここでも仕事をすることになるとは。クローゼットを開け放つ。ハンガーにかかっているのはスーツ数着と皮のジャケットくらいだが、クローゼットに服があるだけ以前に比べれば進歩している。備え付けのチェストの引き出しには、M1911からグレランまで、バラエティに富んだ武器が揃っていた。必要なものを厳選して鞄に詰める。車で近くまで行って、ギャングの拠点の外からデータを奪う。殺しはなし。俺は運転手。楽な仕事だ。
クラン・ケリーが葬り去られてから間もないが、南部ではすでに後釜争いの抗争が始まっている。デッドセックにより悪事を詳らかにされたアルビオンは国際的非難を受け壊滅状態だが、一方でアルビオンに権限の大部分を奪われていた警察組織の回復は未だ道半ばだ。つまるところ今回の仕事は証拠を見つけて警察に流すデッドセックの案件だった。
カバンを持ってリビングに戻る。エイデンはまだキッチンに向かっていた。リビングテーブルに、料理の匂いに、鍋を混ぜるエプロンをかけた男。これ以上ないくらい家庭的で平和な光景。背中を向けた男のベルトに銃が挟まれてなければだが。
「食べてから行くんだよな?腹ペコだ」
「いや、それでも食べとけ。」
机の上の4個パックのカップケーキを左手で示される。
開けにくいプラスチックのパッケージを力技で開けて、大ぶりのカップケーキにかぶりつく。チョコチップ入りだ。
「ギトギトしてる。アンタが作ったやつの方がうまい。」
「文句言うな」
笑ってそう言われる。
「その鍋は食わせてくれねぇの?」
「帰ってきたらな。」
鍋の火を切って蓋をしたエイデンがキッチンを後にする。すれ違いざまに口付けられた。柔く唇を喰まれる。空いている左手で肩を抱いて、舌を入れようとしたらするりと逃げられた。
「まだ食ってるだろ」
なんて奴だ。仕掛けてきたのはそっちのくせに。
油で光る唇を赤い舌が舐める。
「誘ってるのか?それとも喧嘩を売ってるのか?これから仕事なのに俺を使い物にならなくしたいんだな」
全く、こういうところは狐らしいよな。何年経っても惑わされっぱなしだ。