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    白崎灯

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    白崎灯

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    自己設定学パラ月L小説。
    ⚠️L病み描写注意
    ⚠️性暴力的匂わせ表現注意

    Lが昔の記憶に苛まれて発作を起こして、それを介抱する月くんの月Lです。タイトルはこの小説を思いついた曲の題名より。

    ラブソング大学に向かう道中、僕のスマホのバイブレーションがメッセージの通知を知らせた。
    僕はポケットからスマホを取りだして、メッセージを確認しようと一旦道で足を止めた。

    「……ワタリさん……?」

    メッセージの差出人は、恋人の里親になった老紳士の名前だった。
    僕は急いでスマホのロックを解除して、メッセージを開く。

    『夜神さん、本日エルの体調が芳しくなく感じました。休むように言ったのですが、エルは平気だと言って大学に向かってしまいました。大学で体調が悪化したら、直ぐに家に帰るように言ってください。もし、自分で帰る事が出来ない状態でしたら、直ぐに私に連絡をください。』

    僕は、その文章に違和感を覚えて、その一文を呟いた。

    「……『自分で帰ることが出来ない状態』……?」

    そう呟くと、続けざまにワタリさんからメッセージが届いた。
    ……それを読んで、僕は息を飲んだ。
    急いで『分かりました。またご連絡します。』と返信をすると、スマホをポケットに仕舞い直し、僕は大学に向かって自然と駆け出していた。

    ✧✧✧

    エルはいつもの待ち合わせ場所には居なかった。
    胸のざわめきが大きくなり、僕は腕時計を確認する。エルがここにいつもなら既に居るはずの時間だ。

    僕がエルを探しに走り出そうとした時だった。

    「あ、夜神くん!」

    後ろから女の子に声を掛けられた。振り返ると、僕達と同じ講義をよく受けている女の子だった。

    「ひょっとして、竜崎くん探してる?」
    「ああ、そうなんだ。いつもならここにもう居るはずなんだけど…」

    そう言うと、彼女は心配そうな目をして僕に言った。

    「……竜崎くん、さっき体調悪そうな顔で体育館の方に歩いていくのを見たんだけど……」
    「体育館の方に向かった?」
    「うん、今もその辺に居るのかは分からないけど……」
    「ありがとう!」

    僕は彼女にお礼の言葉を掛けると、急いで体育館の方に走り出した。

    ✧✧✧

    僕は体育館の外側からエルを探しに回った。
    体育館の外壁を入口から時計回りに回ると、角を曲がる所の手前で荒い息遣いが聞こえた。

    ……エルだ。

    直感的にそう思った僕は、直ぐにその角を曲がった。
    その後、目に飛び込んできた光景に僕は息が一瞬止まった。

    エルは、確かにそこに居た。いつもは隠している左手首の袖を肘まで捲って、ガリガリとその左手首に残った自傷痕を引っ掻いていた。

    「エルっ!!」

    僕は弾かれたように彼の名前を呼び、慌てて彼の元に駆け寄るが、エルには僕の声が聞こえていないのか、左手首の傷跡を掻きむしるのをやめない。
    僕は急いでエルの後ろから左手首と引っ掻いている右手を引き剥がした。エルの爪が短かったお陰で、まだ引っかき傷はそんなに深くない。

    腕を掴んだ瞬間、エルの体が強ばるのを感じた。そして、その細い体のどこにそんな力があるのかというような力で、僕の掴んだ手を振り払おうと暴れだした。

    「やだ……!!はなして……!!はなしてください!!」
    「っ、エル!落ち着け!!僕だ!!」
    「やだやだ!!いやだ!!はなして!!」

    エルの叫び声が体育館裏に響く。しかし、僕達以外誰も居ない体育館裏では、エルの叫び声が誰かに拾われて駆けつけてくる事もなかった。
    ……僕は、ワタリさんから届いたメッセージを思い出した。

    『もし、エルに何かありましたら、バッグに頓服薬を入れてありますので、とりあえずそれを飲ませて落ち着かせてください。』

    「……バッグ……!!」

    僕は錯乱したように暴れるエルを後ろから強引に腕に抱え込んで周りを見渡した。
    少し離れたところに、黒いサコッシュが落ちていた。いつもはエルが持っていないバッグだ。
    直感的にそれがワタリさんがエルに持たせたバッグだと思った僕は、左腕で何とかエルを抱え込んで、右手でバッグを取ろうと手を伸ばした。
    瞬間、

    「っ!!」

    エルを抱え込んだ左腕に思いっきり噛み付かれた。血こそ出ていないだろうが、きっとくっきりと歯型がついたであろうという痛みが走る。
    しかし、僕はそんなのに構っていられないと、右手をグッと伸ばしてなんとかサコッシュを掴んで手繰り寄せた。

    「薬……!」

    サコッシュの中身は、薬が2種類とミネラルウォーターのペットボトルが入っていた。
    僕はその薬を確認すると、ワタリさんのメッセージに書いてあった、先に飲ませるべき方の薬を手に出し、エルの口の中に無理やり押し込んだ。
    抵抗しようとするエルの口にミネラルウォーターの口を開けて押し付け、傾ける。
    抵抗で水が多少エルのワイシャツとベージュのセーターに掛かって染みを作ったが、エルが開けた口の中にミネラルウォーターが勢いよく入り込み、否応なしにエルは口の中の薬を飲み込んだ。

    それから暫く、エルは「いやだ」「はなして」と叫びながら僕の腕の中で暴れていたが、数分経つとその抵抗がどんどん止んでいった。

    ……多分、錯乱したエルと1時間くらいは格闘したと思う。

    「……エル?」
    「……ぁ、らいと、くん……」

    やっと暴れなくなり、腕の中で静かになったエルにそっと声をかけると、虚ろな目でこちらを見て、僕の名前を呼んだ。
    ……この状態のエルを、一人で家に帰すのはとても無理だし、僕もエルを一人にしたくなかった。

    僕は素早くポケットからスマホを取り出すと、ワタリさんに『エルに最初に飲ませる薬を飲ませました。一旦僕の家に連れて帰ります。』と必要最低限の説明でメッセージを送信した。
    ワタリさんがなんの仕事をしてるかは知らない。エルもよく知らないのだと聞いた。ただ、忙しい人だとは聞いていたので、直ぐに返信が返ってくると期待はせずに、僕はスマホをスリープモードにした。

    「……らいとくん……」

    エルが、僕がエルの体に回した腕を、縋り付くように掴んだ。その手は震えていた。
    僕はそのまま両腕をエルの体に回して、ぎゅっと抱き締めた。血の気の引いたような色をしたエルの首筋に顔を埋めると、エルに言い聞かせるように話しかけた。

    「……エル、今日はもう帰ろう。僕の家においで」

    エルは何も返さなかったが、腕を掴む手に力が入ったのを感じた。
    すると、スマホのバイブレーションが鳴った。

    ワタリさんから、『承知致しました。よろしくお願い致します。』との返信だった。

    ✧✧✧

    大学からタクシーに乗って、一人暮らししている僕のアパートに止めてもらい、僕は自分の部屋をカードキーで開けると、エルの手を引いて部屋に入れた。

    エルの顔色はとても良いとは言えないものだった。先程までは大人しかったが、部屋に入れて暫くすると、目が怯えの色をし始めた。

    「エル?」

    僕がそっと触れようとすると、伸ばした手を弾き飛ばされる。
    そして、エルはその場にしゃがみこんで、うわ言のように言葉を吐き出す。

    「ごめんなさい……、ごめんなさい……」

    僕は急いで腕時計を確認した。
    ……ワタリさんからのメッセージに書かれていた、2個目の薬を飲ませられる時間はとうに過ぎていた。

    「エル」

    僕がゆっくり近づこうとすると、エルは腕で自分の体を守るように自分を抱き締めた。
    ……そして、聞きたくないうわ言を聞くことになった。

    「……ごめんなさい、やめて、ください……おとうさん……」
    「っ!!」

    僕はその言葉を聞いて、手から血が出てしまうんじゃないかと言うくらい、自分の手を握り込んだ。短いのに、強く握りすぎた手からは爪が突き刺さる感覚がした。

    『おとうさん』。きっと、エルをDVしていた実親。一体どんな事をされたのか、エルの様子から想像するのは容易いが、そんなこと考えたくなかった。考えるだけで、エルの実親に対する殺意がどんどん大きくなっていくだけだ。

    僕はエルのサコッシュの中から2種類目の薬を出すと、ミネラルウォーターの蓋を開けてエルに近づいた。

    「……エル、」
    「いやっ…!!」

    嫌がるエルの口に再び錠剤をねじ込むと、僕は蓋を開けたミネラルウォーターを口に着けて自分の口に流し込んだ。
    そして、そのまま錠剤の入ったエルの口を、自分の口で塞ぐ。
    エルが僕の胸を強い力で押し返そうとしたが、僕はエルをそのままグッと抱き締めて、そのまま繋がった口からミネラルウォーターをエルの口に流し込んだ。
    ……最悪、唇くらいは噛まれるだろうと思ったが、エルは意外にも大人しく僕の流し込んだミネラルウォーターで錠剤を飲み込んだ。
    そのまま口を離すと、荒い息のエルをそっと抱き上げて、僕のベッドに横にならせた。

    エルはベッドの上で小さく丸まった。その息は荒く、顔色も良くない。
    とりあえず、エルの上に羽織っているベージュのセーターを脱がせた。
    エルは丸まってはいたが、脱がせようとすると特に抵抗は見せなかった。
    そのままエルの横に腰掛けると、エルはどこも見ていない、しかし怯えを孕んだ瞳で宙を見つめて「おとうさん、ごめんなさい」「おかあさん、ゆるしてください」と呟いていた。
    その言葉達は、僕の心を掻き乱すのには容易過ぎるものだった。

    暫くすると、少し呼吸が整ったエルが、別の言葉を口にした。

    「……らいとくん……、きらいにならないで…、ください……」

    そう言うエルの黒い目からは、涙が流れていた。
    僕は、エルを苦しめる実親に最大の殺意を向けつつ、エルの頬をそっと撫でて耳元に口を寄せた。
    自然に、ベッドのスプリングがぎしりと鳴った。

    「エル、嫌いになったりしないよ。……僕は、君を愛してる」

    その言葉をエルの耳に流し込むと、エルは涙を一筋流して目を閉じた。
    そのまま、エルは安らかな寝息を立て始めた。

    ✧✧✧

    「夜神さん、本当にありがとうございました」
    「……いえ」
    「では、本日はこれで失礼致します」

    次の日、僕のアパートに来たのはワタリさんだった。昨日、メッセージでエルの状態を伝えると、ワタリさんから『明日かかりつけの医師の所に連れていきますので、そちらに迎えに行きます。』
    とメッセージが返ってきた。
    僕はどうしようもない無力感に苛まれながら、エルの眠っているベッドの空いてる方に体を滑り込ますと、エルを抱き締めて眠った。眠れる気がしなかったが、自然と疲れていた体は少しの休息を享受した。
    そして、ワタリさんが迎えに来てもエルが目を覚ますことはなく、僕の部屋にワタリさんを上げると、ワタリさんはなんてことは無い様にエルをベッドから抱き上げて、そのままアパートを出て、アパートの前に停めてあった車にエルを乗せた。

    そして、上品な動作で被っていた帽子を取り僕に一礼すると、車に乗り込みエルを乗せた車はどんどん遠ざかり、やがて見えなくなった。

    「………痛……」

    僕は、昨日エルに噛み付かれた左腕を掴んで呟いた。その声は、自分の声なのにどこか切なさが滲んでいた。

    ✧✧✧

    私は、病院特有の匂いのする部屋で目を覚ました。
    目を開けると見覚えのある天井が見えて、そして見覚えのある点滴のパックも目に入った。

    ……その状態を見て、一気に状況を理解した。

    「エル、大丈夫ですか?」
    「……ワタリさん……」

    横に目を向けると、自分の里親である老紳士が心配そうな顔をしているのが目に飛び込んでくる。

    「……また、私は……」
    「…今回は、夜神さんが助けてくださったんですよ」
    「月くんが……?」

    ワタリさんから月くんの名前が出てくるとは思わず、月くんに迷惑をかけたであろうということは想像に容易く、私は目を眇めた。

    ……私には、昨日何があったのか全く記憶が残っていない。

    ただ、たまにこの発作のような現象は起こるのだ。いつもはワタリさんが対応してくれるが、点滴を打ってるこの状態から見て、どうやら今回のは相当酷かったに違いない。
    ……それを、月くんに見せてしまったのも私の心に鉛のような重さをもたらした。

    一体どんな顔をして次に月くんに会えばいいのだろう。

    そう思っていた時だった。

    ベッドのサイドテーブルに置いてあった私のスマホが、バイブレーション音を響かせた。
    私は体を起こすと、右手でスマホを取った。
    幸い左手の甲に点滴の針は刺さっていたので、そのまま左手で番号を入れてスマホのロックを解除すると、月くんからのメッセージ通知が来ていた。

    私は直ぐに開くか悩んだが、暫く考えてた末にゆっくりとメッセージを開いた。

    『エル、体調は大丈夫?ワタリさんもきっと一緒だから大丈夫だとは思うんだけど…。体調が良くなったら、またいつもの場所で会おう。待ってるから。』

    ……そう、メッセージには書かれていた。

    その文章には優しさが滲んでいた。私は涙の膜がうっすら目に張ったのを感じた。

    「……いい人に巡り会えて、良かったですね」

    ワタリさんが、優しい声で私に言った。

    「……はい」

    私は力強くそれに答えた。
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