薄明に瑠璃を見る淳の提案はいつも急だ。今回もそれぞれが布団に入ってさあ寝ようというところで突然「海行かない?」と言ってきたのだった。木曜の夜だった。寝入り端の心地よいまどろみをそんな気侭なお誘いによって遮られ意識を揺り起こされてしまった俺としては正直遺憾ではあったのだが、このところ淳がぼんやり遠くの空を眺めてばかりいることを思い出して、できるだけいつも通りの調子で返事をしようと努めた。
「どこの海、いつ」
「うちの海、週末」
「今週末?」
「今週末」
急に何を、と毒づきたくなる一方で、一緒に海に行くことでいつもの調子が取り戻せるのならば千葉でもどこでもいくらだって付き合ってやりたいとも思った。最近の淳は、確かにそこにいるのに、どこにもいなかった。教室に部室に、スクール、それから寮の俺たちの部屋。そのどこにいても、心をどこかに置き忘れたまま、淳の体だけが今まで通りの行動を上手になぞっている、そんな感じだった。出会った頃に少し似ていた。
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