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    11_sakutaro3

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    11_sakutaro3

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    何も分からん。ディミトリ……幸せにできなくてごめん……辛い時に側にいてやれなくてごめん……

    茶会バトル「なあドゥドゥー。この紅茶、何か・・・・・・」
    「お口に合いませんでしたか、陛下」
    「いや良い香りだ。しかし、上手く言えないんだが、何か引っかかるというか」
     執務の休憩にと侍女に勧められた紅茶を飲んでいたディミトリは言葉を選びながら従者の方を見た。ドゥドゥーは強面を一瞬怪訝そうに顰めたが、すぐに困ったように眉を下げる。主君の言う引っかかりはドゥドゥーも僅かに感じていたものだった。
     ドゥドゥーがディミトリと同じものを食すことは士官学校を出て国王の座についてから殆ど無い。毒味か、時折深夜、友人同士の顔になって開かれる茶会か晩酌か分からないような席か、とにかくその程度のもので、今回も主君と同じ紅茶を彼も飲んだわけではなかった。しかし、とドゥドゥーは心持ち深い呼吸をする。カミツレの茶葉の香り高い芳香は紅茶の中でも指折りと言える。茶に疎いドゥドゥーにとってもその芳しい香りは確かに感じ取れたが、同時に違和感があった。胸を満たすのは言い得ぬ懐かしさであり、しかしそれは不思議と虚しさを掻き立てた。
    「毒・・・・・・ではありませんね」
    「ああ、それは違うだろう、と思う。香り自体は普通のカミツレの花茶だ。しかし、不思議と物足りないというか。満たされているはずなのに、本当に欲しいものに手が届いていない、というか」
     言いながらディミトリはまたティーカップに口をつけた。籠手を外した大きな手はあの戦争を感じさせないほどに美しく、しかし確かに逞しい。カップの取っ手を壊さないよう加減しながら口元へ運ぶ所作は洗練されていた。
     書斎の鍵を閉めたか、必要な書類を忘れてはいないか、妙に気掛かりに思う感覚だった。窓から吹き込む柔らかな風は平和を手にした彼らを讃えるようだったが、どことなく偽物の感じがする。王と従者は顔を見合わせて困った顔をした。


    「ディミトリ?」
     担任教師の心配の滲んだ声でディミトリは意識を戻し、顔を上げた。ここのところ職務が立て込んで疲れが溜まっていたのか、教師が茶会の支度をする僅かな時間に船を漕いでいたらしい。ディミトリが姿勢を正して謝罪すると、教師は気にしていないと首を振って紅茶を注いだ。ディミトリの好む茶葉の香りが部屋を満たした。未だ残る微睡が解れて心が軽くなる気がした。
    「先生の入れる紅茶は流石だな。先生が茶会で入れる紅茶を俺は一等好きだから、と侍女たちが羨んでいるよ」
    「君の侍女達にも授業をしようか。紅茶の入れ方を教えるのは初めてだけど」
     冗談めかす教師の表情は大して変わらないが、ディミトリはその眦が仄かに赤くなっているのを見逃さなかった。照れている。ディミトリが肩を震わせれば更に朱が濃くなった気がした。
     師のそんな様子が堪らなく愛おしく思われて、ディミトリは姿勢を正して「先生」と呼んだ。
    「先生。俺は先生の入れる紅茶が好きだが、それよりもずっと、お前とこうして話す時間が好きなのだと思う。味も分からないはずなのに、お前との茶会はとても胸が満たされるんだ」
     教師はディミトリへ微笑み、柔らかく頷いた。僅かに眦の下がった表情には慈しみやら親愛やら、そういう暖かいものがこもっている。ディミトリが礼を言えば、教師は冷めてしまうからと紅茶を勧め、自らもカップに口を付けた。ディミトリは苦笑がちにそれに倣った。舌の感覚は未だに鈍いものの、以前よりも茶の苦味と香りを強く感じられるようになった気がする。
     ディミトリは深く呼吸をした。肺を満たすのはカミツレの香りと温い春の空気だった。こういう気を吸うと彼らは決まって相容れなかった義姉を思い出す。彼女の胸を貫く生々しい感触を思って、ディミトリは傷だらけの手を握りしめた。彼女の無念もまた彼にとっては覚めることの許されない夢であった。
     向かい合う相手は優しくディミトリの名を呼ぶ。彼女は今や聖職者であったが、その笑みは、呼び声はディミトリ達を導く教師のものである。
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    11_sakutaro3

    CAN’T MAKE何も分からん。ディミトリ……幸せにできなくてごめん……辛い時に側にいてやれなくてごめん……
    茶会バトル「なあドゥドゥー。この紅茶、何か・・・・・・」
    「お口に合いませんでしたか、陛下」
    「いや良い香りだ。しかし、上手く言えないんだが、何か引っかかるというか」
     執務の休憩にと侍女に勧められた紅茶を飲んでいたディミトリは言葉を選びながら従者の方を見た。ドゥドゥーは強面を一瞬怪訝そうに顰めたが、すぐに困ったように眉を下げる。主君の言う引っかかりはドゥドゥーも僅かに感じていたものだった。
     ドゥドゥーがディミトリと同じものを食すことは士官学校を出て国王の座についてから殆ど無い。毒味か、時折深夜、友人同士の顔になって開かれる茶会か晩酌か分からないような席か、とにかくその程度のもので、今回も主君と同じ紅茶を彼も飲んだわけではなかった。しかし、とドゥドゥーは心持ち深い呼吸をする。カミツレの茶葉の香り高い芳香は紅茶の中でも指折りと言える。茶に疎いドゥドゥーにとってもその芳しい香りは確かに感じ取れたが、同時に違和感があった。胸を満たすのは言い得ぬ懐かしさであり、しかしそれは不思議と虚しさを掻き立てた。
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