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    ogulown

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    アストシス×観主あるいはその逆
    アス虐とまではいかないがかっこいい弁護士はいない
    観主の見た目性別は読む人による

    アス観アス 革手袋をはめ直し、アストシスはよし、と小さく独り言ちた。
     コートにもスーツにもシワひとつ無い。クロージュの縫製は今日とて恐ろしいまでに完璧で、彼に言い訳も逃走も許さない。

    「あっ、アストシスさ~ん、お待たせしました!」

    「やあ観主、私も今来たばかりだとも」

     アストシスは現在所属している事務所のサイドキックの仕事で地球に寄ることになった。どうせ泊まりになってしまうし、少しだけでも話がしたいな、と観主にメッセージを入れてみたところ、じゃあ帰りに飲みましょう! とありがたくも約束を取り付けることができた。

    「忙しいところ、突然すまないね」

    「いえいえ、別の事務所の方と交流するのも仕事ですから」

    「おや、ではプライベートの時間はいただけないのかな? それは少し残念だ」

    「って言っておけば飲み代は経費で落ちるんで」

    「はは、私の前で言ってしまうのかい」

     軽口を交わし、では行こうかとアストシスがエスコートしようとするも、観主は待ってと留める。
     何かと思えば、観主は両腕を軽く広げてハグは? と尋ねる。

    「あ、ああ、そうだね」

     挨拶の一種であり、互いにやましいことなど何も無いと示すための行為。アストシスはいつもの通りに、誰にでもそうするようにごく自然に観主を軽く抱きしめた。

    「ふふ、これやるとアストシスさんに会ったって感じがします」

    「そうなのかい? 地球ではあまり無い文化なのかな」

    「地球がというより、この国ではって感じですね。他の地域だと挨拶の一環のひともいるでしょう」

     アストシスにとっては挨拶以外の意味もある。コミュニケーションのはじまり、信頼関係の構築――それら全てを、彼は自身の手で打ち捨てたのに。




     二人が赴いたのはホテルのオーセンティックバーでも、高級レストランでもなく、繁華街のいたって凡庸な大衆酒場だった。

    「うううだからこんな情けない姿をおおお、すまないヨハックうううう」

    「あっはははは! アストシスさん酔うと泣き上戸なんすねえ~!」

     テーブルをばんばん叩いて大笑いする観主とは対照的に、アストシスはジョッキ片手に唸っていた。
     普段だったらこんな酔い方は絶対にしないのだが、これ飲んでみてくださいよ、うちのエースが一発で酔っちゃうやつ、とすすめられた酒がだめだった。たしかキウイ入りだとか言っていた気もする。

    「うへへへおもしろ~! ヨハックさんそんな気にしてないですよお!」

    「だが私はあ、彼を二度も裏切るようなことをぉ!」

     えらい大声だが、大衆酒場でそれを気にする者はいない。

    「だぁいじょうぶですってえ! ヨハックさんは自分の道ちゃんと見つけてえ、自分で歩いていけるひとですからぁ!」

    「……そうだな、ヨハックは私なんていなくても……」

    「んあー、むしろヨハックさんの方がアストシスさんのこと心配してますよたぶん。
    いい機会だし、ヨハックさんに電話しちゃお~」

     酔っ払いの妙な行動力に、アストシスが止める間も無く、観主はスマホを操作して目的の人物に電話をかける。

    「観主っ、ちょっと……!」

    「うぇ~いヨハックさん久しぶり~!」

     しかもビデオ通話だった。アストシスさんと飲んでるよ~、と観主は楽しそうに報告する。画面に映るは、仕事道具をメンテナンスしているヨハックの姿。
     かつて幼かった彼はすでに大人で、アストシスの助けも導きも必要としない、立派な人物だ。
     彼や彼の父が取り戻したかったヨハックの未来も居場所も、ヨハックが自らの力で手にしたということ。

    「いいな~、次は僕も混ぜてくださいよっ」

    「もちろんだ。私もヨハックと話したいことが山ほどある」

     乱れたネクタイを締め直し、アストシスはいつもの敏腕弁護士の顔をつくる。さっきまでウダウダと泣き言を吐いていたのに、そのギャップに観主は大笑いした。

    「観主さんできあがってますね……」

    「ああ、賑やかで仕方ないよ」

    「でも安心しましたっ。アストシスさん、自分のこと追い込んじゃうんじゃないかなって心配で」

    「そう……だな、すまなかった。全く、弁護士が心配されるなんて、精進せねばなるまい」

    「そんな、僕は昔みたいに、また遊んだりできたらなって……アストシスさんは、僕にとってお兄さんみたいな人ですからっ」

     ヨハックは変わらなかった。アストシスがあんなに変えたいと思った街から追い出されても、なお真っ直ぐな心を持ったまま。
     過ちを犯した友のことを詰めることも、慰めることもなく、ただかつてのようにありたいと言ってくれる。

    「そう、そうだな……そうだ、ありがとう、ヨハック」

    「えへへっ、アストシスさんも気軽に電話してくださいねっ」

    「もちろんだ。君もぜひそうしてほしい」

     もうすぐ夕飯だから、とヨハックは通話を切った。ひとしきり笑った観主は、再びうつむくアストシスに話しかける。

    「ほらーねーヨハックさんそんな気にしてないですよ。だから……泣いちゃったァ……」

    「……っちが、これはキウイが目に入っただけで」

    「まあまあ、ここには自分しかいないんで」

     観主がおしぼりを渡すと、アストシスはあくまで上品なしぐさで目尻を拭く。

    「えっと……飲み直します? もうホテル戻ります?」

     明日休みなのでどっちでもいいですよ、と気をつかってくれる観主の手を掴み、アストシスは酔った勢いのまま言った。

    「私の泊まっているホテルに……来てくれないか?」

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