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    ナツメ

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    ナツメ

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    頼忠(←)神子の話

    彼女の好きなもの「今日は、頼忠さんに同行をお願いします」
    「……私で、よいのですか?」
    ──また、自分一人が、同行に選ばれた。
    頼忠は間の抜けた返事をしてしまう。
    大威徳明王の課題が終わり、明王に示された日までは土地の力を高めることに注力せよ、と課題を終えた白虎以外の八葉にも通達があった。
    土地の力を高めるだけでなく、怨霊との戦いで神子が使う回復の札を確保するのも、重要となる。だから人手は多いに越したことはないはずなのだが、花梨は何日かに一度は、頼忠ひとりを供に京を巡る。
    何故だ。──疑問が、頼忠の頭を占拠する。雑念にとらわれ、彼女の警護に身が入らないのはまずい、と、大豊神社に向かう道すがら、頼忠は思いきって、花梨に訊ねた。
    「……神子殿」
    「はい?」
    「どうして、私を供に選ばれたのでしょう?」
    頼忠の決死の質問にしかし、花梨はあっさりと答える。
    「えっと、皆さんお仕事の合間を縫って、来てくださってるでしょう? たまには八葉を休んでほしいなって思って。……って、頼忠さんは、紫姫の館を警護するお仕事ですけど」
    ほんとは一人で出歩けたらいいんですけどね、と花梨は照れくさそうに笑う。
    ──それが理由なら、奥ゆかしい気遣いだ、と頼忠は思った。だが、それでも腑に落ちない。
    「私は気の利いた話題のひとつも持たないのですが」
    神子とはいえ、年頃の少女だ。話し相手が必要だろう。それなら、自分よりも年が近い朱雀のふたりや、話題の豊富な泉水殿や翡翠のほうがいいはずだ。……そうか、自分はそれが気になっていたのか、と思い至る。
    花梨が立ち止まった。伏し目がちにしているので、睫毛が秋の陽射しに光っている。
    「──私、頼忠さんの声や言葉が好きなんですけど、おんなじくらい、喋らなくていい時間も好きなんです。……迷惑、でしたか?」
    「迷惑では……」
    口ではそう言ったが、頼忠は困惑した。まさか、自分の沈黙が、彼女にとっては心地よいものであったとは。自分はただ、話すべき言葉を持っていないだけなのに。
    「じゃ、じゃあ、今日もよろしくお願いしますね」
    「は、はい。この命に代えても、あなたをお守りします」
    「そんなことにならないといいです……」
    花梨はうつむきがちに歩き始めた。頼忠があとを追う。長すぎる紅葉が、花梨の頬を照らして、短い髪からすこしだけ見える、ちいさな耳朶まで紅く染めている。頼忠はそれを見ながら、自分の頬にわずかに集まる熱を感じた。
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