桜のような人彼女は桜のようなひとだったように思う。
「世の中にたえて桜のなかりせば……」
彼女が京にいたのは長い秋と、短い冬の間だけだったのに。なぜか彰紋にはそう思い起こされ、そして自分でも気がつかないうちに、春の歌をくちずさんでしまう。
彼女の世界についていくことも、こちらに残ってもらうことも、出来たかもしれない。だが、どちらも選べなかった。だから余計に、そう思い出すのだろうか。
桜が咲かなければ、その咲きようにも、散りようにも、こころを乱すことはない。それでも焦がれる、想う、そんなところが彼女に似ていた。