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    ナツメ

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    ナツメ

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    遙か2
    現代エンド後、幸鷹の誕生日を祝う幸鷹×花梨

    幸福帰ってきて一番気になったのは、時計の音だった。不快というほどではないが、やたらと耳につく。見えない何かに追いたてられるようで、理由もなく、焦った。
    あの世界はほとんど無音と言ってもいいくらい、静かで、シンプルで、必要なものが少ない、おおらかだがミニマムな場所だった。だからだろうか。
    「幸鷹さん、お誕生日おめでとうございます」
    「ああ、ありがとうございます。開けてもよいでしょうか」
    彼女と手を繋いでこちらの世界に渡ってきて、最初に思い出したのは自分の誕生日だった。それから当時の住所や電話番号、家族のこと、それまでは必要ではなかったものを思い出した。砂時計が落ちていくように、とめどなく、一定の速度で。
    「……時計、ですか」
    「はい! 新しい時間、です」
    こちらの世界のことを思い出した分だけ、あちらの世界のことを忘れてしまうかと思ったが、そんなことはなかった。ふれた空気、書物、交わした笑顔を、砂時計の砂が移り変わるように、交互に思い出すようになった。
    「ありがとうございます。大切にします」
    「こっちだと、なにかと時計見ますよね」
    それに、いま目の前に、彼女がいる。彼女は、どちらの世界にもいた自分の、なによりの証だ。
    「……ええ、私も同じことを考えていました」
    「やっぱり? じゃあ夜、時計の音が気になって、眠れないのも、ですか?」
    「はい」
    「わあ! 一緒だ! 嬉しいです」
    ──彼女にとっての自分も、そうでありたいと思う。
    時計の音が気にならなくなったのは、そのことに気がついてからだった。
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