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    ナツメ

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    ナツメ

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    遙か2
    現代(または京ではないところに住んでいる京)エンド後の泰継×花梨

    そろえるということ「泰継さん?」
    自分は他のものと速さが違う。泰継が自覚したのは、少女を北山で拾うより数十年より前のことだ。
    まず、他のものより、時の流れが遅い。この世に、かりそめの生を受けて百年近い時を過ごそうと、姿はそう変わっていない。しかし、皆がすぐに理解することは、かなり後になってから理解する(なんなら理解できないことも多々、ある)。だが陰陽術の覚えははやく、兄弟子たちをあっさり追い越してしまって、反感や畏怖を買った。近頃は、そんなことを思い出すことが増えた。というか、あれが「反感を買った」という状態だったのだと気付き、理解した。もう数十年前のことなのに、目の前がにわかに暗くなるのは、心のかけらを取り戻したからか。もともと持ち得ぬものだったのに。
    それはやはり、女の胎から生まれなかったから、こんな我と我が身なのか。否、唯一生まれと育ちが似ているはずの先代とも、違う、と感じている。
    と、自分にめがけてやってくる軽い足音が、泰継の思索を止めた。
    「や……すつ、ぐ、さーん、まってぇ」
    「遅い」
    「泰、継さんが、はや、すぎるん、です」
    泰継の歩みは早い。だが、自分が拾った少女のそれは、一度離れてしまうと、こちらが立ち止まっていなければならないほど、遅い。今も自分に追い付くのに、息を切らせている。
    「周りを見すぎているのだ。お前は無駄が多い」
    「珍しいもの、ばかりだから、つい立ち止まっちゃって」
    「草も木も花も鳥も、いつもあるものだ」
    それでも、この少女と歩くときは、泰継はかなり容赦していた。少女に付き合うと、せいぜい三ヶ所しか回れない。しかも、遠方には出向けない。自分だけならこうではない。
    「お前はさきほど、曲がるところを間違えた。余所見ばかりしているからだ」
    「道、式神で教えてくれて、ありがとうございました」
    ふう、とやっと息を整えた彼女が、笑顔で礼を言う。それが眩くて、泰継は目を細めた。てらいのないそれが自分に向けられるのは、何十年ぶりだろう。
    「行くぞ」
    「あー、待ってくださいよー!」
    非難めいているのに、どこか楽しそうな声が上がる。泰継が構わず歩みを進めると、足音は自分についてきた。少女がそうするのは、自分のほかに頼るものがないからだと思っていたが、そんな境遇がなくても、彼女はきっと、ついてきた。泰継はそう、確信し始めていた。それは、生まれや育ちが、京のものとは違うから、なのではないか。我が身と同じように。
    泰継は顔を上げた。視界には変わらず、草や木や花や鳥があった。いつもあるものだ、なにも変わっていない。だが、いつもより鮮やかに映る。
    それから、泰継の感じる速さは、少女が冬を呼んでから、決定的に変わった。
    時を同じくして、少女の歩みが早まった。難なく泰継についてこられるようになり、遠方にまで出向けるようになった。
    泰継はしかし、自身の周りを流れる時が、遅くなったと感じていた。冬といえど、少女と過ごすと日はいつもより早く落ちた。少女のいない日は、なかなか時は過ぎなかった。
    そんなときは仕方がないので外に出るが、なかなか邸の門に辿り着かない。庭に降り積もった雪、凍った池になぜか惹き付けられ、立ち止まってしまう。
    「泰継殿!」
    そうこうするうちに、家のものに呼び止められた。その場で待つと、泰継を呼び止めた新米陰陽師に、最近待ってくれますね、前は待ってくれなかったのに、と驚かれた。
    「何の用だ。早く言え」
    「四条の館から文です」
    「なぜ早く言わない、早く渡せ」
    「ああ、やっぱりあなたはせっかちだなあ!」
    新米陰陽師は非難の声をあげた。──
    「あれ? 泰継さん」
    顔をあげると、忘れ物をしたと一度家に戻った愛しい少女──とはもう呼べない花梨が、驚いた顔で立っていた。庭先にいた雀が飛び去る。
    「待っててくれたんてすね。先に行ってよかったのに」
    「お前の脚なら、すぐに追い付くと思っていた」
    「ふふ、ありがとうございます」
    微笑みを交わしあい、どちらからともなく手を繋いで歩き出す。
    「なんか思い出しちゃいますね、泰継さんとこうやって京を歩いたのを」
    「あの頃のお前は足が遅かった」
    「いいえ、泰継さんが、私に合わせてゆっくり歩いてくれるようになったんです」
    「……そうか?」
    花梨ははい、と元気よく答える。その表情と声の眩しさで、泰継の胸があたたかくなる。
    ──だれかと同じ早さで歩くということは、同じ時間を生きるということなのかも知れない。
    泰継はあらためて、ひとになった我が身を感じた。
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