空見回りの帰り、顔馴染みの子どもたちが手を振りながら、こちらに駆け寄ってきた。
「イサトのにーちゃん! 龍神の神子様の話を聞かせてくれよ!」
「ん? ああ、いいぜ」
「わーい! みんなー、イサトのにーちゃんが龍神の神子様の話してくれるって!」
わあ、と歓声が上がる。どうやら、遊んでるときにそんな話になったらしい。それなりの人数だし、と空を仰ぎながら、ついてくる子どもたちの先頭に立つ。
「お前ら、今日はなんの話が聞きたいんだ?」
空は青く、よく晴れていた。紅葉の擦れる音が聞こえるくらい空気が乾いていて──そう、今日みたいな日だった。あいつに出会ったのは。
と、
「僕、初めて彼女が京を訪れたときの話がいいです」
「わー、いいな」
「わたしもそれがいいー」
「……彰っ!」
「しーっ」
めちゃくちゃ馴染みのある声に、ついでかい声が出そうになった。なんでこんなところに東宮が!
──という言葉を飲み込む。にこっと笑った彰紋に、声(と顔)をひそめて、じとっと睨む。
「彰紋、お前なあ」
「イサトのにーちゃん、彰紋さまは、ないしょのごこーむなんだって」
だからしーっだ、と子どもたちのひとりに言われた。なんで俺が注意されるんだ!
「……お久しぶりです、イサト」
「ちょっと前にも会っただろ」
「ええ、あなたの話を聞きに」
子どもたちを先に寺に向かわせ、彰紋と並んで歩く。花梨がいた頃は、まあまああった光景だ。前よりは、身なりのよさをすこしは隠すっつうか、それなりに庶民に紛れそうな格好はしてるが、まあ、目立つ。それでもちょくちょくこの辺に来ては、庶民の生活を見て回ってるらしい。
「花梨の、だろ」
組んだ手を頭にやって、思わずぼやく。
のろのろしてたら、先に行かせた子どもたちが戻ってきて、オレたちを囲むようにする。
「にーちゃんたちー、はやくー!」
「あのね、彰紋さまぁ。うちのばーちゃん、しにそーだったのに、龍神の神子様の話すると、泣きながら笑うんだよ」
「そうなんですか?」
その手の話は、去年からずっと続いている。……おそらく、そのばーさんは花梨と京の中ですれ違っただけだが、お命を救われたことがある、とか、神々しかった! とか、いろいろ言う奴らが出てきた(金色の龍が昇っていくのは、京のやつらみんな、見ていたらしい)。
「ったく」
「いいじゃないですか、イサト。京に笑顔が溢れているということは、花梨さんが京を救ったということなんですから」
「……ま、そうだな」
「さあ、話してくださいイサト。花梨さんがどんなひとだったのかを、多くの方に」
お前も話せよ、とすこし伸びた、彰紋の背を軽く叩いた。