⬛︎が辿り着く場所 この瞳は隠れた本質を強制的に映し出す。過去の記憶、秘めた本心、それらの何もかもを。街中で咽せ返るほどの情報を浴びせられて気分を害した俺を気遣ってマスターが駆け込んだのは駅前のドーナツチェーン店だった。
「好きなのを選んでいいからね」
閉店が近づき、既に半分が空っぽになった棚の前でマスターは白いトングと黄色いお盆を持って申し訳なさそうに笑った。
「わぁ、嬉しいな。こういうのって遠慮する方が失礼だよね」
片っ端から適当に選んでいく。生クリームが詰まった丸いドーナツ、モチモチとした生地が数珠繋ぎになったドーナツ、腹持ちがしそうなしっかりとした茶色いドーナツ、蜂蜜の香りが漂う細長いドーナツ。シュガーシロップの代わりにチョコレートがかかったものも選ぶ。マスターが少し青い顔をしながら指差したそれら積みあげていく姿は滑稽で、丸一日連れ回された対価には釣りないものの、少しは溜飲を下げてもいいと思った。
1959