多数決王国 薬局を出た。スマホのロック画面を確認する。十七時をまわったばかりか。よし、余裕で間に合うな。
向かった先は、薬局の向かいに建つオフィスビル一階のチェーンの立ち飲み屋。十九時まではハッピーアワーで酒一杯とつまみ一品がワンコインで飲める。卒業してもスーツを着られない故に学生気分が抜けない、万年金欠酒クズ野郎のためのサービスといっても差し支えない熱烈歓迎ぶりだ。プログラムされたロボットの如く、迷うことなく店の敷居を跨ぐ。「一名様ですか?」を流すのもとうの昔に慣れた。飲食店でもテーマパークでも、二人以上でいることの方が稀だから。一度目は誰かと行った場所でも、二度目はないから。
メニュー表のスクリーンショットは、頭の中のクラウドにお気に入り保存されている。一人客に四人掛けテーブルのソファ席を勧めてくれた店員に感謝しつつ、カウンターで注文しジントニックを受け取った。
1003