一、
車が通るたびにガソリンの匂いが立ち込める。目に入るのは、錆びた看板のかかった廃墟のような工務店とだだっ広い市民農園、それから民家のみ。
コンビニを出て早速紙袋をちぎる。駐車場脇のゴミ捨て場の廃油臭が鼻腔に侵入してくる。肉と油を欲して唾液が充満した口でチキンにかぶりつく。歯が厚い衣を貫き、ザクっという音とともに、口の中にはその場凌ぎのチープな充足感が広がった。
二、
さっきより影が随分伸びた。空はまだ水色だが、遠くのアパートの外壁が橙色に染まりつつある。吹く風が徐々に冷たくなり、居場所も行く宛もない人間を他所に追いやろうとしている。仕方なく、重いリュックからくしゃくしゃになったウインドブレーカーを引っ張り出して羽織った。
リュックの脇ポケットから出したポーチのファスナーを開き、緑色の小さな箱と買い換えたばかりのライターを取り出した。残りの本数をざっと確認すると十本を切っていたから、明後日ぐらいには買いに行かなければ、と頭の中のTODOリストに追加した。どうせ数分後には忘れているが。
ツンとした匂いのする筒を咥え、手に火を灯す。勢いよく立ち上がった炎に先端をかざし、軽く息を吸い込んだ。喉の奥にメンソールの風味を染み込ませ、視界を潰す西陽に目を細めながら肺の空気を吐き出した。