フロイド¬監「サメちゃん」
モストロのバイトに入って数ヶ月、キッチンの仕事にも慣れてきた頃
帰り際フロイド先輩に声を掛けられた。
「明後日シフト入ってる?」
「はい・・?入ってますけど」
「じゃあこの日は俺に着いてきて」
「絞めなきゃならない奴らが居るんだけど~・・ジェイドがしばらく来れないみたいだよねぇ」
「・・・」
(来たか・・)
入った当初は気付かなかったが、このモストロ・ラウンジでは裏で定期的に揉め事が起きていた。
何か問題を起こしたらしい生徒が、双子に両脇を抱えられながら寮長の部屋連れて行かれるのを
何度か見かけたこともある。
そういった光景を目にする中で、寮長達が俺をモストロに勧誘した理由を薄々察し始めていた。
というか、俺を勧誘する理由はこれ以外考えられない。
「俺にそういう役割をさせるつもりなら、あまり期待しないでもらえますか」
「・・・なんで?」
「俺がこのバイトに入ったのは、美味い料理を自分でも作れるようになりたかったのと・・」
「学生らしい平和な生活を送りたかったからです」
「争い事に手を貸すためじゃありません」
「ふ~ん・・・」
あまり納得が行っていないような声色だが、こちらは意思を曲げるつもりはない。
失礼します、と踵を返して立ち去ろうとした刹那、背後に殺気を感じて振り返ると
右手を大きく振りかぶっているフロイド先輩の姿が目に入った。
「・・・ッ!!」
なんとか両腕で拳を受け止めながら、思わず睨みつける。
「いきなり何するんですかっ・・・」
「いや、もったいないな~って思って」
「は・・?」
「俺の右ストレート、止められる奴そうそう居ないよ?」
今の結構本気だったし~とヘラヘラ笑いながらフロイド先輩が答えた。
いきなり何を仕出かすか分からない性格は十分知っているつもりだが、流石に腹が立って
この場を立ち去ろうとドアに手を掛けた。
「あと、前にサバナクローの上級生二人と殴り合ってたって聞いたけど?」
「あれは絡まれたから仕方なく・・・とにかく、俺はそういう事には関わりたくないんです」
「ホントにぃ?」
不意に顔を覗き込まれる。