桜色ナイトフォール (蘭カミュ)頬を撫でる風に仄かな温もりを感じるようになった、そんなある日のことだ。
来るエイプリルフールに向けての打合せも終了し、事務所を出て帰路を辿る。道すがらすれ違う周囲はまだまだ着膨れた服装をしている者も多い中、祖国に比べれば暖かく感じる日々にふと目を細める。空を見上げれば延びた日の長さに、綿菓子のように軽やかな風貌で淡色に咲き誇る桜に、この国では春が来るのだな、と今更ながらに実感する。
陽光の下で咲き誇り、その薄紅の花びらを惜しげもなく散らす様は、夜空を翔けるオーロラとはまた違った美しさがあり、つい見惚れてしまう程だ。そしてそれは、あの男にしても同じことであったらしい。
俺より少しばかり後ろを歩きながら、目立つ銀髪を風に遊ばせてはその双眼を僅かに大きく開け、ほうっと感嘆の声を上げている。
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