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    pico_mhyk

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    魔力供給書きたかったけど力尽きた

    気怠い体を引きずって、ようやく帰った自室のベッドに倒れ込む。もうしばらく起き上がることなど出来ないだろう。まとまらない思考でとりあえずブーツだけ脱いで、あと、どうするんだったか。ぐらつく頭では何も考えることなど出来なかった。

     魔法舎に舞い込んでくる依頼は多岐にわたる。曰く付きの品の検分に異常現象の調査、魔法生物の捕獲もあれば、討伐もある。此度の依頼はそんな魔物の討伐だった。それ自体は難なくこなすことが出来たが、帰り道の箒の上、渡りの途中の魔法生物に遭遇してしまったのだ。
     夏季にかけて水没する南の国の一角から飛び立つ鳥のような生き物であるスチュパリデスは、人里に滅多に近付くことはないが非常に好戦的だ。しかし渡りでしか移動せず、人に害を成すこともほとんどない生物を無闇に討伐するわけにもいかない。翼も嘴も金属で出来たこの生物には剣を振るっても大した効果も得られず、慣れない空の上で魔法でいなし。ようやく潜り抜けた時には、任務で消費していた魔力の分も合わせて飛ぶのがやっとの有様だった。

     魔法使いは魔力を使い過ぎれば様々な症状が出る。冷静さを欠いて攻撃的になったり、思考がまとまらなくなったり。こんなに酷く消耗したことが無かったから知らなかったが、どうやら自分は後者の性質だったらしい。ふわふわと視界が揺らぎ、かと思えば地の底まで引きずられるように体が重くなる。
     このまま夢の世界に身を任せようと目蓋を下ろしたところで、室内の空気が揺れたような気がした。ノックもなく無遠慮に室内に入り込むやつなど、一人しか知らない。力の抜けた体を無理やりに起こそうとして、肩を押さえつけられまたシーツに逆戻りする。くすくすと楽しそうな笑い声が頭上から聞こえ、正体を確信する。

    「オーエン……何の用だ」
    「用が無きゃ会いに来たら駄目なの? 仲良くしようなんて言うくせに、結局口だけなんだ」

     手袋をしたままの指が頬に触れ、散らばった前髪をかき分けられる。両目があらわになり鮮明になった視界でのしかかってくるオーエンを睨んだが、数秒も立たず膜を通したように目が霞む。薄灰の髪に白で揃えたコートとジャケットの色が占有する中で、オーエンの赤い目が細まったのだけが妙にはっきりと見えた。

    「すっかり魔力を使い果たしちゃって。ご自慢の剣は役立たずで、ろくに使えもしない魔法で必死に逃げ帰って来たなんて、笑える」

     まるで全て見ていたかのように嘲る男に、今は返す言葉もない。腹立たしい気持ちのままに言い返しても思うツボだ。なんとか持ち上げた腕でオーエンの胸を押し、怠さに任せてため息を吐く。

    「それを知ってるなら、今お前の相手が出来ないことも分かるだろ。頼むから今日は……」

     最後まで言わせる気はないとばかりに押し返していた手を取られ、眼前にオーエンの顔が近付く。呆けて半開きのままだった唇にオーエンのそれが重なって、ようやく顔を背けようとしたときには頭も抑えられて逃げることも出来なかった。
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    pico_mhyk

    MOURNINGワンドロ夢の森 力尽きた黄昏の光が降り積もった雪に乱反射し、視界一面をオレンジに染め上げている。夢の森はこの時間帯だけ、すべて同じになる。沈みかけているにも関わらず眩しくて鬱陶しい太陽の色に。
     その色が月に追われ消えていくのに伴って、石の柔い光が道標のように森の奥へと続いていく。魔法使いの祭りの時に食べた、淡い藤と蜂蜜の色をしたぬいぐるみの腸みたいなふわふわのお菓子を思い出す。それを溶かして固めたらこの石のような見た目になるのだろうか。あれは甘くて美味しいけれど、この森の毒素などで生き絶えるくらいの生き物のマナ石にはそう価値もない。視線を地面まで辿れば、気まぐれに降り積もった雪の下に、まだ分かるほどの足跡が残っていた。呆れてため息が出る。この足跡の持ち主をオーエンはよく知っていた。天敵を撒くレインディアーのようにぴったりその足跡の上を歩き、暮れてゆく慣れた森に身を滑らせた。
     


     場違いなほど能天気な鼻歌が聞こえてくる。音楽は好きだ。しかし、旋律が眠るように途切れたり、かと思えば別の曲に変わったり、そんなことではステップの一つも踏めそうになかった。
     木の一部かのように葉に紛れ浮かぶ石の根本に、カインが 1345

    pico_mhyk

    MOURNING魔力供給書きたかったけど力尽きた気怠い体を引きずって、ようやく帰った自室のベッドに倒れ込む。もうしばらく起き上がることなど出来ないだろう。まとまらない思考でとりあえずブーツだけ脱いで、あと、どうするんだったか。ぐらつく頭では何も考えることなど出来なかった。

     魔法舎に舞い込んでくる依頼は多岐にわたる。曰く付きの品の検分に異常現象の調査、魔法生物の捕獲もあれば、討伐もある。此度の依頼はそんな魔物の討伐だった。それ自体は難なくこなすことが出来たが、帰り道の箒の上、渡りの途中の魔法生物に遭遇してしまったのだ。
     夏季にかけて水没する南の国の一角から飛び立つ鳥のような生き物であるスチュパリデスは、人里に滅多に近付くことはないが非常に好戦的だ。しかし渡りでしか移動せず、人に害を成すこともほとんどない生物を無闇に討伐するわけにもいかない。翼も嘴も金属で出来たこの生物には剣を振るっても大した効果も得られず、慣れない空の上で魔法でいなし。ようやく潜り抜けた時には、任務で消費していた魔力の分も合わせて飛ぶのがやっとの有様だった。

     魔法使いは魔力を使い過ぎれば様々な症状が出る。冷静さを欠いて攻撃的になったり、思考がまとまらなくなっ 1245

    pico_mhyk

    MOURNINGワンドロの夏の花のやつ普段、朝から溌剌としているカインの頭がかくりと揺らいだ回数が片手を超えた。今日はアーサーが魔法舎に戻っており、中央の国の魔法使い全員が揃ってのオズの授業中にも関わらずだ。夏のさなかだというのに連日しとしとと雨が降り続き、お世辞にも快晴とはいえない日和のうたた寝を咎めたのはリケだった。

    「カイン、先ほどから頭がふらふらしています。集中していないのではないですか」

     声を掛けられ、はっとしたように目を見開いたカインはばつが悪そうに頬を掻き、そのまま軽く叩いてため息をついた。

    「ううん……、最近寝付きが悪いみたいでさ。すまない、集中するよ」
    「カイン、確かに顔色が悪い。今日は無理せず戻ったほうがいい」
    「このくらい大丈夫さ。気にせず続けてくれ」

     そうカインは言うが、アーサーは心配そうに少し高い位置にある彼の目を見たままだ。黙ったまま若い魔法使いを見ていたオズがカインに視線を留め、いつもより深く眉間にしわを刻む。

    「カイン、今日は休め」
    「……そんなに調子悪そうに見えるか?」
    「いや……」

     言い淀むオズをよそに、リケとアーサーが休息を取るよう捲し立てる。せっかく皆での授業ではあ 1113

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