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    pico_mhyk

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    ワンドロ夢の森 力尽きた

    黄昏の光が降り積もった雪に乱反射し、視界一面をオレンジに染め上げている。夢の森はこの時間帯だけ、すべて同じになる。沈みかけているにも関わらず眩しくて鬱陶しい太陽の色に。
     その色が月に追われ消えていくのに伴って、石の柔い光が道標のように森の奥へと続いていく。魔法使いの祭りの時に食べた、淡い藤と蜂蜜の色をしたぬいぐるみの腸みたいなふわふわのお菓子を思い出す。それを溶かして固めたらこの石のような見た目になるのだろうか。あれは甘くて美味しいけれど、この森の毒素などで生き絶えるくらいの生き物のマナ石にはそう価値もない。視線を地面まで辿れば、気まぐれに降り積もった雪の下に、まだ分かるほどの足跡が残っていた。呆れてため息が出る。この足跡の持ち主をオーエンはよく知っていた。天敵を撒くレインディアーのようにぴったりその足跡の上を歩き、暮れてゆく慣れた森に身を滑らせた。
     


     場違いなほど能天気な鼻歌が聞こえてくる。音楽は好きだ。しかし、旋律が眠るように途切れたり、かと思えば別の曲に変わったり、そんなことではステップの一つも踏めそうになかった。
     木の一部かのように葉に紛れ浮かぶ石の根本に、カインが旋律を口ずさみながらもたれている。溌剌と輝く瞳は重く覆われたまぶたに濁り、爛漫に笑う口角はほんのわずかにだけ持ち上がっていた。夢の森の毒素で理性がすっかり溶けている証拠だ。無防備に投げ出された手足に、暴力的な衝動が湧く。
     カインが夢の森で彷徨うのは初めてではない。一度目もこうしてオーエンが見つけてやって、そうして高揚のままにオーエンを抱きしめた彼のことをぶん殴って正気を取り戻させてやったのだ。咄嗟とはいえ痕が残るほどには容赦なく痛めつけたというのに、懲りずにまたこうして正体を無くしているのだから危機感の無さにもう言葉もない。ぎゅ、と雪を踏みしめる音を鳴らしながら、オーエンは思考を溶かしたカインのそばへ近づいた。
    「ん……?」
     ぼんやりとした瞳がオーエンを見上げる。今度の自分の姿は何に見えているのだろう。なんと答えようと後でからかってやるつもりだった。しばらくとろとろとオーエンを眺めていたカインが、やがて破顔して子どものように腕を伸ばしてくる。同じ目線までしゃがんでやると、気に入りのおもちゃを抱きしめるようにオーエンの首に手が回った。前は不意打ちのように抱きしめられ何を考える間もなく殴り飛ばしたが、今回は想定内だ。浮かれたカインが何をするのか知りたくて、頬ずりするのをそのまま好きにさせる。抵抗しないオーエンに跨り首筋に擦り付く様子は、まるで大型犬のようだった。
     ひとしきり触れ合って、乱れた前髪からオーエンが与えた赤い瞳が覗く。焦点を感じないぼやけた瞳の奥に、平素滲むことのない欲がちらついたのが見えて、それと同時に観察していた赤色がかすむ。キスをされていると、やっと思考が追いついた。
    「ん、ふぁ……」
     リップ音を鳴らしながら、舌が差し込まれる。拙く動くそれが口内をたどたどしくなぞっていく。目を閉じてオーエンの舌を追いかけるのはいっそいじらしいほどだった。緩んだ口元から唾液が溢れて伝っていく。わざと応えずにいれば、不満なのか、オーエンの薄い舌に軽く歯を立てた。
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    MOURNINGワンドロ夢の森 力尽きた黄昏の光が降り積もった雪に乱反射し、視界一面をオレンジに染め上げている。夢の森はこの時間帯だけ、すべて同じになる。沈みかけているにも関わらず眩しくて鬱陶しい太陽の色に。
     その色が月に追われ消えていくのに伴って、石の柔い光が道標のように森の奥へと続いていく。魔法使いの祭りの時に食べた、淡い藤と蜂蜜の色をしたぬいぐるみの腸みたいなふわふわのお菓子を思い出す。それを溶かして固めたらこの石のような見た目になるのだろうか。あれは甘くて美味しいけれど、この森の毒素などで生き絶えるくらいの生き物のマナ石にはそう価値もない。視線を地面まで辿れば、気まぐれに降り積もった雪の下に、まだ分かるほどの足跡が残っていた。呆れてため息が出る。この足跡の持ち主をオーエンはよく知っていた。天敵を撒くレインディアーのようにぴったりその足跡の上を歩き、暮れてゆく慣れた森に身を滑らせた。
     


     場違いなほど能天気な鼻歌が聞こえてくる。音楽は好きだ。しかし、旋律が眠るように途切れたり、かと思えば別の曲に変わったり、そんなことではステップの一つも踏めそうになかった。
     木の一部かのように葉に紛れ浮かぶ石の根本に、カインが 1345

    pico_mhyk

    MOURNING魔力供給書きたかったけど力尽きた気怠い体を引きずって、ようやく帰った自室のベッドに倒れ込む。もうしばらく起き上がることなど出来ないだろう。まとまらない思考でとりあえずブーツだけ脱いで、あと、どうするんだったか。ぐらつく頭では何も考えることなど出来なかった。

     魔法舎に舞い込んでくる依頼は多岐にわたる。曰く付きの品の検分に異常現象の調査、魔法生物の捕獲もあれば、討伐もある。此度の依頼はそんな魔物の討伐だった。それ自体は難なくこなすことが出来たが、帰り道の箒の上、渡りの途中の魔法生物に遭遇してしまったのだ。
     夏季にかけて水没する南の国の一角から飛び立つ鳥のような生き物であるスチュパリデスは、人里に滅多に近付くことはないが非常に好戦的だ。しかし渡りでしか移動せず、人に害を成すこともほとんどない生物を無闇に討伐するわけにもいかない。翼も嘴も金属で出来たこの生物には剣を振るっても大した効果も得られず、慣れない空の上で魔法でいなし。ようやく潜り抜けた時には、任務で消費していた魔力の分も合わせて飛ぶのがやっとの有様だった。

     魔法使いは魔力を使い過ぎれば様々な症状が出る。冷静さを欠いて攻撃的になったり、思考がまとまらなくなっ 1245

    pico_mhyk

    MOURNINGワンドロの夏の花のやつ普段、朝から溌剌としているカインの頭がかくりと揺らいだ回数が片手を超えた。今日はアーサーが魔法舎に戻っており、中央の国の魔法使い全員が揃ってのオズの授業中にも関わらずだ。夏のさなかだというのに連日しとしとと雨が降り続き、お世辞にも快晴とはいえない日和のうたた寝を咎めたのはリケだった。

    「カイン、先ほどから頭がふらふらしています。集中していないのではないですか」

     声を掛けられ、はっとしたように目を見開いたカインはばつが悪そうに頬を掻き、そのまま軽く叩いてため息をついた。

    「ううん……、最近寝付きが悪いみたいでさ。すまない、集中するよ」
    「カイン、確かに顔色が悪い。今日は無理せず戻ったほうがいい」
    「このくらい大丈夫さ。気にせず続けてくれ」

     そうカインは言うが、アーサーは心配そうに少し高い位置にある彼の目を見たままだ。黙ったまま若い魔法使いを見ていたオズがカインに視線を留め、いつもより深く眉間にしわを刻む。

    「カイン、今日は休め」
    「……そんなに調子悪そうに見えるか?」
    「いや……」

     言い淀むオズをよそに、リケとアーサーが休息を取るよう捲し立てる。せっかく皆での授業ではあ 1113