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    mei

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    【ホワイトデー】
    まだ付き合ってない呪専夏五+モブ(食堂のおばちゃん)

    ※チィカマさん(@cheese_gohoubi)に声をかけていただき、初めてリレー小説にチャレンジしました!途中で書き手が変わっているので、その辺も想像して楽しんでいただけると幸いです(*´▽`*)

    マカロンの意味は教えてやんない「出来たっ!」約一ヶ月の試行錯誤を経て、俺は遂に味・形共に完璧なマカロンを完成させた。真っ白い皿の上に丸いフォルムのアイビーグリーンをしたマカロンが映える。
    ——二月十四日。傑のことを親友以上として意識しはじめて初めてのバレンタインデーに、傑が有名ブランドの高級チョコを二十箱もくれた。傑は任務帰りたまたま入った店に売ってたからと言って渡してきたけど、フランスの有名ブランドが銀座三越に期間限定でオープンしてるチョコレートショップ(甘党としてはもちろん把握済み)だから”たまたま”な訳がない。それにあの時、ほんの少し傑の頬が赤くなってたような気がする。それって本命ってことだろ?絶対、多分、間違いない!そんな顔でチョコを渡してくるもんだから、四尺玉の花火が連発して弾けるような喜びが俺の全身を駆け巡った。
    俺はその日から授業中も呪霊の徐祓中も、ホワイトデーのお返しを考えに考え抜いた。その結果、マカロンを手作りすることに決めた。何でマカロンかって?マカロンは「特別な人」という意味を持つらしい。俺にとって傑は唯一の親友であり、それに…。ただ、マカロンはシンプルが故に作り上げる技術の難易度は高いらしい。傑にとって最高のホワイトデーにするためには、上手にマカロンを作る練習が必要不可欠ということだ。
    「悟…なんか最近、いつにも増して甘い匂いするね」「…別にぃ」「甘い物も程々にしなよ」「おー」「そうだ、この後私の部屋でゲームでもする?」「あ、いや…今日もちょっと用事あっからパス」「そう。それならまた誘うよ」寂しさを滲ませた瞳のくせに、少しだけ口角を上げた笑顔の傑を見るのはもう何度目だろう。バレンタインデー以来ほとんどと言っていい程、傑の誘いを断っている。それも最高のホワイトデーにするためだから、俺だって断腸の思いだ。なにせマカロンを、いやそもそもお菓子作りなんてしたことのない俺が難易度の高いお菓子を作のは並大抵の努力では達成できない。

    都内にある有名ブランドのマカロンを全て買い揃えて食べ比べをしたり、先週は一週間も寮を留守にした。全国各地から有名パティシエを五条家に招待(という名の招集)した。五条家の厨房で代わる代わるマカロンの作り方を教えてもらっていたので、家人達の間では呪術師を辞めてパティシエになるのではと噂が流れていたらしい。

    ホワイトデー当日。今日のために研究と練習を重ね、技術を習得した俺は食堂のおばちゃんに許可を貰って厨房で制作に取り掛かった。今日傑は、東京近郊の任務らしく夕方には帰ってくるらから、それまでには完成させたいところ。
    「五条君、ひょっとしてホワイトデーのお返し?」「そー。マカロン作ろうと思って」「あんなに難しいの作れるの凄いわねぇ!もしかして本命かしら?」「まぁ…そんなとこ」「キャー!青春ね!休憩室にいるから何かあったらいつでも声かけてね」「サンキュー、おばちゃん」
    マカロンを作るのに必要な材料、卵にアーモンドプードル、そして今回のマカロンは傑でも食べられる甘さ控えめの抹茶味となれば、京都宇治の抹茶。全ての材料は最高級のものを取り揃えた。オーブンでじりじりと焼かれる抹茶味のマカロンコックの甘く香ばしい香りが厨房に漂い始めた。
    「傑、早く帰ってこねぇかな…」ぼーっとオーブンを見つめていると、言葉と一緒に溜息が口から零れた。傑が足りない。全然足りない。今すぐ手作りのマカロンを渡して「美味しいよ」って嬉しそうに顔を綻ばせる傑を眺めていたいし、できればそのまま傑に包まれたい。
    オーブンのブザー音が鳴り、焼き上がりを知らせた。十分に冷ましてから、当然のように甘さ控えめの抹茶ガナッシュを絞り出し、マカロンコックを重ねる。サクサクと軽い食感の生地が口の中でふんわりと溶け、濃厚なクリームのハーモニーが絶妙だ。断面を見ると、薄く張った皮の内側にある生地の目の揃った気泡がその技術の高さを物語る。
    「うん、完璧だ」遂に最高のマカロンが完成した。

    俺と違って傑はきっと甘いものが好きじゃない。そんなあいつでも食べられるように甘さ控え目にアレンジしたマカロンを、気に入ってくれるだろうか。俺は作ったマカロンを割れないように丁寧に箱に収めて、封をした。 不意に、携帯電話が軽快な電子音を鳴らす。傑からだ。『あぁ、悟?今日なんだけど、帰れないかも。呪霊の居所が一向に特定できなくてね』「いいって。俺のことは気にすんなよ。お前は怪我しねーようにだけ気を付けてろ」 電話越しの傑は舌打ちをして焦っている様子だ。だから俺も傑が任務に集中できるように、必要な言葉だけをかけて電話を切るようにした。でもそんなのやせ我慢だ。 バレンタインの日に傑からチョコをもらって以来、俺の気持ちは浮つきっぱなしだった。あの日の傑は、チョコレートを食っている俺の姿をニコニコと満足そうな顔でずーっと見ていた。いわゆる彼氏ヅラってやつ?そんな顔を思い出していたら傑のベッドで寝たくなった。勝手に使ったら間違いなく機嫌を損ねるだろうけど、最近は諦めたのか怒ってこないからまぁいいっしょ。
     寝支度をしてから、鼻歌混じりに傑の部屋に入ると、いくつもの見慣れない小さな紙袋が目に留まった。クッキーやチョコレートやマシュマロや…とにかく、ありとあらゆるお菓子が置かれている。 ――いけないものを見てしまったのかもしれない。そう思った途端に、肺のあたりがつっかえてうまく呼吸ができなくなった。俺の頭の中にはバレンタインデーのあの日に、はにかんでいた傑の顔が浮かび上がる。なんだよ、あんな顔しやがったくせに。でも、もとはと言えば傑から沢山チョコを貰っただけで舞い上がっていたのは俺の方だ。傑の気持ちは聞いていない。俺だって自分の気持ちを傑に伝えたことはない。肝心なことを伝えていないのはお互い様だった。 ふと机の上を見る。先ほどまで浮かれて作った俺の紙袋が、ぽつんとそこにあった。「あー、もういいや」 俺の中で、ぷつり、と何かが切れた。さっき綺麗に包んだ箱を開き、バリバリとマカロンを食べる。うん、全然甘くない。上質な抹茶の風味は100点だけれど、甘みが足りないから俺にはちっとも美味くない。腹も減ったから、勝手に傑のカップ麺を作って食べた。そのあとマカロンを齧ったらちゃんと甘くて美味く感じるから不思議だ。 デザートとラーメンを一緒に食べたら、傑は顔を顰めるだろうか。頬が膨らむ程に食べ物を詰め込んだら、「ゆっくり食べなよ」なんて眉を下げて窘められるだろうか。一人で好き勝手食べているのに、傑のことばかり考えてしまう。味の好みだって、好きな音楽もアイドルも全然違うのに、こんなにも恋しくて、ただ一緒にいたい。傑とは、他愛もない会話でゲラゲラ笑っていられるだけで良かったんだ。傑に本命の彼女がいたとしても、せめて親友の座だけは手放したくないな…。 腹も満たして、再びベッドに寝そべると、ふわりと傑の匂いに包まれる。布団にくるまると、余計にそれが濃くなり、心なしか安心する。そのまま俺は、意識を手放した。
     微睡みの中で、心地よい温もりが頭に触れている。煙草が仄かに香るそのごつごつとした指に覚えがあり、俺ははっと目が覚めた。「おはよう」と耳慣れた声が頭上から降ってくる。枕もとの携帯に目をやるとまだ日付は回っていない。「今日帰れないって言ってなかったっけ?」「うーん、そのはずだったんだけどね。やっぱり早く帰りたくて」 ちょっと強引な方法を使っちゃったけど、無事この通り、と傑は新しく取り込んだ呪霊を掌からずずずと見せる。アラームが鳴らないので帰校早々にちゃっかり申告してきたのだろう。「……ところで悟、これは何かな?」 俺の歯形が付いた食べかけのマカロンを指で摘まんで、俺の目の前にかざした。傑の口調が強いので思わず俺は「それはその…」とまごつく。しまった、片付けておくんだった。こんなに食い散らかしたあとに、これはお前に作ったものだなんて、到底説明できない。次の瞬間、断罪するかのような鋭い目つきで傑はこちらを見た。「誰?」「え?」「だから、これ!君が貰ったんだろう?しかも、手作りじゃないか。一体どこの誰?」「いや、貰いもんじゃねぇよ」 こんな惨めな展開全く想像していなかった俺は、きまりが悪くてベッドの上で縮こまった。傑は二級くらいの呪霊なら気圧されて祓われるほどの殺気を放っている。俺は当然気まずくなり、布団カバーの皺を必死に見つめる。ぶすりとした声で、マカロンは一カ月かけて自分で作ったことを伝えた。「……ほんとは渡したかったけどさ。そいつ遅くなるって言うし、部屋で待ってたらあんなにいっぱいお返しあるから。あぁ俺の勘違いだったんだって。浮かれて作ったのがバカみたいだって…」 不細工に欠けたマカロンへ視線を落としていた傑が、勢いよく俺の方を向く。「じゃあこれってもしかして、悟が私に…?」「うん、お前に渡すために作っ…」 俺が言い終わる前に傑は、ぎゅううっと俺に抱きついて全身で嬉しそうにした。なんだぁと、くしゃりと笑って、さらに腕に力を込める。流石に強すぎて苦しいと叩いて、俺はその腕を振り解いた。それからどうしても傑が食べたいと言うので、あの食べかけたマカロンを口に運んでやった。コイツの情緒ジェットコースターかよ。「うん、甘さも控えめですごくおいしいよ。抹茶の風味が濃厚で、京都の上質な茶屋のスイーツみたいだ」「ふはっ、なんだよそれ」 なんだよその流暢な食レポは。一体どこで覚えてきたんだ。緊張が解けて、ほっとした俺は、笑いが止まらない。涙が出るほど笑いこけながら、失敗作ならまだあると紙袋を見せてやったら食い気味に傑は「全部食べさせて」と元気よく答えた。「うれしいなぁ」と目を細めてあどけない表情を見せる傑に、俺の頰も緩みっぱなしだ。「そんな喜んでくれるんだ。うれしーじゃん」「そりゃあ、好きな子が私のために頑張って作ってくれたんだから嬉しいに決まってるよ」 え、今好きな子って言ったか?表情を一つ変えずに、平然とした口調でいうものだから、俺は一旦流したけれど、後になって思い返して、じわじわと耳から首にかけて熱くなった。それと同時に混乱が止まらない。だって部屋には誰かに宛てたお菓子が大量に置いてあるのに。「おい、じゃあ、あれはなんなんだよ」「ん?あぁ、あれはね…」 傑は、引き出しから束になった封筒を取り出す。見慣れた傑の文字で「○○さん」と書かれたメッセージカードが添えられていた。「バレンタイン、たくさん貰っちゃったんだ。これはそのお返し」「げぇ、お前そんな貰ってたのかよ?」 宛名の大半は俺も知っている名前だ。補助監督、二級から一級の術師。もちろんそのどれもが女性だ。マジでなんでお前ばっかり貰ってるんだよ。あと、傑に渡したやつ全員、ちょっと、いやかなり腹が立つ。マジビンタをお見舞いしたい。「妬いてくれるんだ?嬉しいね。あっ、もしかしてそれでやけ食いしちゃってた?」「うるせぇよ。お前にはもうマカロンやんねぇ」 紙袋から取り出すなり、むしゃむしゃと口いっぱいに俺はマカロンを放り込んだ。「ならこうするからいいよ」 俺の手首を掴んで傑は、唇にキスをした。感触を確かめるようにふにふにと下唇を食んで、ちゅっと離す。突然訪れた柔らかな唇の感触にキャパオーバーした俺はフリーズする。え、早くない?こいつちっとも告白とかしなかったくせに、何この早さ。ついでに傑は俺が手に持っていたマカロンをそのまま口で奪って、もぐもぐと咀嚼した。俺の指に付いたクリームを舐めながら、「そういえば、何でマカロンを作ろうと思ったの?」と言う。「ぜ、ぜってー教えねぇからな」「えぇ?意地悪しないでよ。マカロンって難しそうなのによく作ろうと思ったよね。……そういえばマカロンって、贈り物にするときに意味があったよね?ねぇ、悟、知ってる?」「知らねぇよ。自分で調べろや」「ふーん……。ねぇ、もっと食べたいなぁ」 こいつ、絶対マカロンの意味を知ってるって顔してやがる。意地悪は一体どっちだよ、と俺は心の中でツッコミながら、とにかくさっきから流されっぱなしのこの戦局を変えたくて必死だった。ひとまずマカロンの入った紙袋を傑に押し付けてやる。「す、好きなだけ食べろよ」「じゃ、遠慮なく」 ぐいっと引き寄せられて、うんと間近に傑の顔が迫る。急に鼻がつくほどの距離で見つめられて心臓が飛び出しそうになる。伏し目がちになった傑の、真っすぐと伸びた黒い睫毛に目を奪われていたら、再び唇が俺の唇に重なり、吸い付いた。食べるって、そっち?!と心の中で叫びながら、俺たちはほろ苦いマカロンの味を存分に堪能した。
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