Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    銀鳩堂

    ここには草稿をポイポイあげて、溜まったら整えてpixivやカクヨムに移植しています。
    ツイステ二次創作小説の長編案が降りてきたので現在は主にそれを書いてます。
    pixiv⇨https://www.pixiv.net/users/68325823

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 61

    銀鳩堂

    ☆quiet follow

    ヤンクロ第二部21話。
    後のクロウリー学園長=大鴉のディアヴァルの物語、美しき女王編の21話。自ら手を下す決意をした女王は地下室で…。(約1600文字。今回もちょい短めなので、支部移植時に20話とまとめUPするかも。豆知識はおやすみです)

    #ツイステファンアート
    twistedFanArt
    #ディア・クロウリー
    dearCrowley.
    #クロウリー学園長
    crowleyPrincipal.

    ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部㉑話「女王と赤いリンゴ」 ディアヴァルと女王グリムヒルデはいつもの地下室にいた。
     彼らの目の前では大鍋が煮えたぎっている。粘り気のある液体の水面に緑の泡がごぼり、ごぼりと浮き上がってははじけて消える。女王はドロリとした液体をかき混ぜながら、低い声で歌うように呪文を唱える。その声に連れてひときわ激しく泡が吹きあげて弾け、緑の飛沫を散らす。
    「これでいい。愛しい子マイ・ディア、よぉく見ておいで。ここにリンゴがある。これをこうして……」
     女王はしなやかな細い指でリンゴのヘタをつまんでぶら下げると、その赤い果実を慎重に緑の水面へと沈めた。すると、リンゴの周りに細かな泡が立ちのぼり、シュウシュウと音を立てて煙が立ち上った。煙は胸の悪くなるような匂いがして、ディアヴァルは思わず顔を背けた。
     女王はリンゴを水面から引き上げると、空中に高くかかげ持った。
    「ごらん! これがあの子を殺す裁きのリンゴよ! もう誰も信用できない。愛しい我が君への裏切りは、この手で裁くわ……。待っておいで、可愛い子。お前の死が訪ねていくよ……」
     リンゴは女王の手の中で、血のように赤く、あくまでも美しく輝いていた。
     その時、ディアヴァルの脳裏にふっとある記憶がぎった。
     とある城の大広間で、両手を高く上げて呪いの言葉を唱える背の高い妖精マレフィセント。彼女の姿が女王に重なって、その不吉さに彼は思わず身震いしたのだった。
     女王をこのまま進ませてしまって良いのだろうか?
     この道は、どこへ続いているのか。
     その先に女王の幸福はあるのだろうか……?
     でも、ただのカラスの身の上で、どうやって女王をお止めすれば良いのか。必死に覚えた人間の言葉でいさめれば良いのか? いや、無理だ……。ものまね鳥の言葉にいかほどの重みがあろうか……。思いは乱れるばかりで、彼にはどうすれば良いのかわからなかった……。
     ディアヴァルの懊悩おうのうに気づくこともなく、女王は次の術に取り掛かっていた。
    「この姿のままでは、誰が見ても正体がわかってしまう。それではダメなのよ。ではどうすれば良いと思う?」
     そう言って、ディアヴァルに向けて右手の人差し指を振ってみせる。
    「姿を変えれば良いのよ」
     そう言うと彼女は次の薬を作り出した。
     ほどなく仕上がった薬の小瓶を片手に立つ女王の目には、思いつめたようなギラギラした光が宿っていた。
     ほんの一瞬、女王はためらった。ごくり、とつばを飲み込み、目を閉じて天を仰ぎ、胸元に手を添えこぶしを握りしめた。
     ディアヴァルの鋭い耳は、その時確かに女王の声を聞いた。
    「愛しい我が君、どうかお守り下さい」とささやく声を。
     そして女王は、一息に小瓶の中身を飲み干した。
     しゅうしゅうと音を立てて嫌な匂いの煙が立ち上り、女王の身体を包んだ。女王は身悶え、呻き声を上げて胸を押さえうずくまった。聞こえてくる呻き声はあっという間に耳障りなしわがれ声へと変わってゆき、同時に身体が捻じくれて背丈が縮んでゆく。
     煙が晴れるとそこには、腰が曲がり真っ白な髪を振り乱した醜い老婆がいた。ねじまがった鼻の上には大きなイボまでついている。
     彼女は曲がった腰を精一杯伸ばして天を仰ぎ、両手を広げて叫んだ。
    「これであの子には私がわからない! はは……ははは……あははははは!!」
     陰鬱な地下室に、狂ったような哄笑が響き渡った。


     老婆に身をやつした女王は、森の中をかごを抱えて歩いていた。かごの中にはあの赤いリンゴが入っている。
     ディアヴァルは森の木を飛び移りながら、その後ろをついて行く。
     こんな無茶をして、元の姿に戻れなくなったらどうするのだろう?
     女王はもちろん解毒剤も作ってふところにしのばせてはいたが、それでも彼は心配でならなかった。振り払っても振り払っても、かつてのあるじ、妖精マレフィセントの最期が脳裏をぎるのだ。
     だが、ディアヴァルの心配をよそに、女王は森の奥へ奥へと分け入っていくのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    銀鳩堂

    PROGRESSヤンクロ第二部1.5話「出会い」後編
    構想が固まらず止まっていた二部ですが強引に再起動。試運転的に出会いシーンの続き、王とグリムヒルデ(後の美しき女王)の出会いを書きました。
    アニメ版「白雪姫」には無いシーンで「みんなが知らない白雪姫」の筋立てとも違っていますが書きやすい方向に進んでみます。最後にカラス(鳥類)の豆知識(異種族恋愛事情)付き。豆知識は恒例にしたいです☺(本文1327文字)
    ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部1.5話「王との出会い」(第一話前半はこちら⇨https://poipiku.com/3625622/6059932.html)


     大鴉おおがらすのディアヴァルは、美しい乙女の姿に見惚みほれていた。
     なんと美しい髪の毛。瞳も、顔も、何もかも完璧な美の化身としか思えない。いくらでも眺めていることができる。
     彼のこれまでの生涯で、こんな気持ちになるのは初めてのことだった。
     心臓がドキドキして胸が苦しく身体は熱くなって、クロウタドリの様に歌いたいような、ハヤブサの様に飛翔したくなるような、得も言われぬ心地がする。
     この奇妙な心地は何なのだろう。まるで何か魔法にでも掛かったみたいだ。そう思っているその時、乙女の家の門の前に立派な馬に乗った男が供を何人も連れて通りかかった。
    2445

    銀鳩堂

    PROGRESSヤンクロ第2部第4話
    後のクロウリー学園長=カラスのディアヴァルの物語、美しき女王編の第4話です。
    今回は王妃グリムヒルデと白雪姫の仲睦まじいティータイムにディアヴァルがお邪魔します。こんなにも仲睦まじい二人がなぜあんなことになってしまうのか、それは今後のお楽しみ…。(本文1940文字)

    ※今回の豆知識はWIRED誌から、鳥の「名付け」について。そう、鳥たちも「名前」を持っているのです……!
    ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部四話「小さなお茶会」 華やかな結婚式から数日後。王城の庭園で虫を漁っていたディアヴァルは、新王妃グリムヒルデと小さな女の子がやってくるのに気がついた。女の子は、結婚式でドレスの裳裾もすそを持っていたあの子だ。参列者からは姫と言われていた。年の頃は6歳かそこらだろうか。どうも人間の子どもの年齢はわかりにくい。
     グリムヒルデは、幼い姫の手を引いて庭園の東屋あずまやをめざしているようだ。片手にはバスケットを下げている。
    「東屋についたらおやつを頂きましょうね」と、グリムヒルデは小さな姫に声をかけた。
    「はい、おかあしゃま!」と元気よく姫が答える。
     ディアヴァルには、その声や口調は、見た感じの年齢より少しばかり幼く感じられた。だがその幼さは姫をより愛らしく見せているとも思った。
    3128

    銀鳩堂

    PROGRESSヤンクロ第2部第3話
    後にクロウリーが学園長となるカラスのディアヴァルの物語、美しき女王編の第三話です。
    今回は王とグリムヒルデ(後の美しき女王)の結婚式のシーンです。
    本文約1450文字+カラス豆知識約740文字のおまけ付き。今回の豆知識はカラスがお互いを確認する方法「コンタクトコール」についてです(資料リンクあり)。
    ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部三話「結婚式」 五月のよく晴れた朝、王城は晴ればれとした雰囲気に包まれていた。
     城のすべての尖塔に美しい三角旗がはためき、城門は春の花々を編み込んだ花綱で飾り立てられて開放されている。城門からは次々と来客が流れ込み、城はかつてない賑わいに沸き立っていた。
     今日は、この国の王が新たな王妃をめとる、その結婚の式典が催されるのだ。城の庭園は民草にも開放され、たくさんのご馳走と飲み物が振る舞われる。
     麗々しい式典のクライマックスは、正午の結婚の誓いだ。国の最も高位の聖職者がやってきて王と新たな王妃の誓いに立ち会い、この結婚に祝福を与えることになっている。
     その場には、もちろんディアヴァルも訪れていた。なにせ不吉とされてしまうカラスの身、あまりおおっぴらに姿を表すことはしなかったけれど、物陰から人々を観察し、ちらりとでもグリムヒルデの姿が見えないかと期待していたのだ。
    2210

    銀鳩堂

    PROGRESSヤンクロ第2部第8話
    後のクロウリー学園長=カラスのディアヴァルの物語、美しき女王編の第8話です。
    王妃と再会したディアヴァルは、ずっと側にいて欲しいと言われて幸福に酔いしれるのだった。そこへ誰かがドアを開けて入ってきた…。(本文約1630文字/豆知識は今回はお休みです。支部移植字に話数が減る予定なので今回はそれを見込んでの調整です)
    ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部八話「命名」 ディアヴァルが王妃グリムヒルデに背中を撫でられて恍惚こうこつとなっていたその時、部屋のドアがキィっと開く音がした。
     誰か来た?! まさか追い払われたりはしないだろうか。王妃に魔女の疑いがかかってしまったりしたらどうしよう……。
     そんな心配が頭の中を駆け巡る。
     だが、次の瞬間、部屋に飛び込んできたのはスノーホワイト姫だった。
    「おかあしゃま、あのね……」
     そう言いかけた姫の顔はたいそう寂しげで、ディアヴァルはこんな小さな女の子がこんなにも寂しげな顔をするなんて、と胸を痛めた。が、次の瞬間、姫の顔がぱっと輝いた。
    「あっ!! カラスしゃん!! カラスしゃんだ!!」
    「そうよ、カラスさんが遊びに来てくれたのよ」
    1634