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    890_deadline

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    審ドリの喧嘩を聞くモブの話。
    ドラゴンiエイiジっていうゲームの公式BLカプのssです。

    「なあ聞いてくれ、審問官の事だ。そう、私の愛しい人だよ。ふふ、そうだ、テヴィンター人に心を奪われた変わり者だ。まあ、彼も変わり者だしそう考えればお似合いだろう?  なに、もうすぐ私は故郷に帰るんだが先程喧嘩をしてね。なぜ帰るんだ、必要としてくれないのかと言われたんだ。まあ、もしかしたら彼は私が経験豊富だからって自分をセックスフレンドくらいにしか思っていなかった薄情者とでも考えているのかもしれないが。実の所いつだって彼を独占したくて仕方ないのは私の方だと声高く言いたいね。君、1度くらいは我々のキスシーンを見ただろう? ……何? 無い? なら次はもっと目立つ場所でする必要があるな。……別に見たくない? ハハ、遠慮しなくていい。君が彼に1%でも惚れてしまう可能性を打ち砕いておきたいだけだからな。その時はどうぞ存分に見てくれ。まあ、君は《その気》が無いのかもしれないが、彼に憧れる気持ちは少しはあるだろう? そうだな、彼が様々な人間に慕われるのを見るのは誇らしくもあり、嫉妬もする。強烈にね。まあこんなことは酒の勢いが無ければ言わないよ。……今、何杯飲んだかな。おっと、待て、席を立たないで。まあ私はそれほど彼に夢中というわけだ。彼と抱き会えない日は彼を夢に見るよ。年頃の少女みたいだろう? 夢の内容はベッドの中で取っ組み合いをする内容が多いな、猫みたいにね。ああ、また話がそれた。……まあつまり、彼の思う以上に私は彼を愛してしまっているという事だ。それに私は……そう、今まで相当に乱れて生きてきたから彼に軽蔑されるのが怖い、抱かれる時も浅ましい奴だと思われないか不安で仕方ないんだ。実の所ね。もちろん彼とのセックスは好きだよ。彼は全ては私好みできているし。剣士らしく持久力も硬さがあるのもいい。おいおい、そんな嫌そうな顔をするなよ。愛し合う事がこんなにも満たされるのだとこの年になって初めて知ったよ。これがいつか終わるものだとしてもね。別れる気? 全くないが…彼は審問官として世界から求められているだろう? そんな人が私に飽きない保証があるか? 私はもちろん誰よりも美しく、魅力的だが、その可能性が無い訳じゃない。過去の私の人間関係もまったく褒められたものではないが、彼は人ではなく世界そのものを相手にしているのだからタチが悪い。だから私も、成長しようと、何かしなければと思ったんだ。これから長くテヴィンターに戻るのも、彼の隣に立っても恥じない人間になりたいからさ。審問官の相手として、ただの博識でおしゃべりな魔術師では役不足だろう? ……という事を彼にはわかってもらえるんだろうか、という事が悩み所なんだが。さっき話した時は全く理解されなかった。いや、承諾はしてくれたが理解するふりをしてくれたんだ。仇なす敵には冷血で容赦ない所もあるが、とても優しい繊細な人なんだ。ああ、私としたことがあんな一方的に突き放すなんて。愚か者とはまさにこの事だ。なあ君、なんてフォローすればいいと思う。」
     男は捲したてるように一気に喋った。話し始めてから私に意見を求めるまで十分は一人語りをしていたと思う。そして私がその独り言に意見を口にする前に、深いため息をついてブランデーを煽った。
     ……どうやら完全に話したいだけのようだ。 そしてマスターに追加の注文をしてから空いたショットグラスを置くと、深く俯いて再びため息をつく。
     日頃高飛車で、傲慢で、弱みを見せない男がここまで塞ぎ込んでいるのはなんとも珍しい事である。
    その時、入口の方から審問官様だわ、と女性の黄色い声が上がる。その声に目の前の男がはじかれたように顔を上げた。あまりの勢いで体を起こしたせいで机が揺れてもう少しでグラスが倒れそうになるものだから、マスターが慌てて支えるほどだった。
    ざわつく群衆の中から1人の壮年が姿を現す。美しく撫で付けられて整えられた黒髪。彫刻のように彫りの深い美しい顔に、慈愛と厳しさを宿した瞼の中に獅子の如く輝く金色の眼。戦いでついた顔の傷と、荒々しさを残す無精髭。そして鍛え上げられた身体──思わず誰もが目を奪われてしまうであろうその人、審問官であった。
     歩み一つ一つが気品と威厳に溢れ、立ち姿には指導者としてのオーラを感じさせるが、来るものを拒まない寛容さも同様に備えていた。上に立つ人というのはこういう人のことを言うのだろう。
    「皆楽しんでくれ、彼を迎えに来ただけだ」
     湧き上がる民衆に、笑みを向けると皆口々に彼の見た目やら成した栄光を賞賛しながら自分の席へ戻っていった。
     雑踏の中から”結婚して審問官様!”と声が上がる。……なるほど、先程ドリアンが憂うのも理解できる。
     審問官はゆっくりとこちらへ歩いてくると、ちらりと私を一瞥する。心臓が止まりそうなほど緊張したのは私が彼の恋人とされる人、ドリアン・パヴィスと共にいたからだろうか。
     歩み寄る彼を私は呆然と見上げる。その時、金色の眼が品定めするような鋭さをもって瞳が細められたのを見てしまったものだから、冷や汗がどっと溢れ出た。
     私の命も今日までか、とそう覚悟したのも一瞬のこと、彼は太陽のような労りの笑みを浮かべると話し掛けてきた。
    「私の連れが世話になったようだ。マスター、この方の分は私につけておいてくれ」
     そんな、と否定しようとすると、審問官は私からの礼だと歯を見せて笑った。そして私の肩を広い大きな手で豪快に叩く。余りにも恐れ多くて今度こそ私は心臓が止まるかと思った。
    「……なぜ来たんだ」
    「来て欲しくなかったのか?」
    「いいや……、だが、来るとは思わなかった」
    ドリアンは酔いが回ったのか、動揺しているのか、なんとも呂律が回らなくなってきているようだった。そして瞼を不安そうに瞬かせながら恭しく審問官の手を取ると、伺うように、そして熱っぽく顔を見上げた。
     計算なのかアルコールのせいなのか、歌うように皮肉を零し、歩くたび自慢と傲慢さをこれでもかと振りまく男と同じ人間だとは到底思えないほどに、その顔は恍惚と憧れに満ち、城で一番の話し上手な唇はすっかり役目を忘れてしまったようだった。
     私は、彼の審問官を愛しているという言葉を思い出す。そして、確かにこれは恋をしている人間の顔だと思った。
    「……キスしてくれ、貴方が悪いと思ってるのなら」
    ドリアンはまるで独り言のような声量でぽつりとこぼした。ここでか? と審問官は一瞬面食らったようだが、含みある愉快そうな口ぶりであった。
     ……まさか、するわけないと思ったその刹那、ドリアンが次の言葉を続けるために再び唇を開こうとした時には、もう既に彼は同じものをそこへ押し当てていた。
    自然に顎を捉え、大きな逞しい身体を屈めて恋人に口付けるその姿はさすが貴族出身と言うべきか、見るもの全てが憧れるようなロマンチックさがそこにあった。
     しん、と酒場が静かになる。注目の的が恋人と。それも男とキスをしているのだから仕方の無いことだろう。
     自身に集まる注目をさすがに理解しているのか審問官はそのまま唇を離そうとしたが、ドリアンは離れる審問官の頭を引き寄せると、見せつけてやるとばかりに濃厚な口付けを返した。
    太い首にするりと腕を絡みつけられバランスを崩した審問官はバーテーブルに片腕を付き、まるで自ら恋人を押し倒しているような姿で狡猾な魔術師に舌を吸われていた。
     それすらドリアンの計算なのだろうか。BARの薄明かりの下で舌を絡み合わせる2人の姿は性行為を思わせ、余りにも官能的だった。
     私も思わず目を離せずにいると、審問官と一瞬目が合った。
     彼の目は周りをぐるりと一瞥し、皆が自分たちを見ている事を確かに確認すると、空いた手でゆるりとドリアンの首筋からうなじを撫ぜた。そして、官能的な触れ方に反応して唇を離した恋人の耳元へ何かを耳打ちした。
    「さあ、帰ろう。酔っ払いはお休みの時間だ」
     審問官が起きあがり、続いて恋人を立ち上がらせる。ドリアンはもう既に愚痴相手の私など目に入らないようだった。
     そして、濡れた唇の熱を確かめるように指でなぞりながら、足りない熱を求めるようにふらふらと審問官に肩を寄せて酒場からゆっくりと姿を消した。
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