俳優号×カメラマン宗近、ちょっと思い出語りあれは、俺がもっとずっと若かった頃。習い事で、イヤイヤ通っていた武道教室で大会見学に行った時の話だ。とても美しい型を披露する一人の姿に、目が惹きつけられた。優美で、それでいて力強くたおやかな所作。
それから、あんなに嫌がっていた道場通いも積極的に行くようになった。いつかあの人と手合わせできたらと、叶うかも解らない夢を見ている内に図体がすっかりデカくなって。そんな時スカウトに声をかけられ、この世界に入る事になった。
そんな時、たまたま捲っていた写真誌の、とあるページで手が止まる。とある写真コンクールの、受賞作品の一つから、俺は目が離せなくなった。吸い込まれそうな夕焼けの真ん中に人が立っている写真。逆光でその表情は判らずとも、その立ち姿は俺の脳裏に深く焼きついたあの人そのものだ。
(みかづき、むねちか)
記載されていた受賞者の名前を、噛み締めるように何度も反芻する。それからは、三日月に関する情報を片っ端から集めた。そしてようやく、チャンスが巡ってきたのだ。三日月と、仕事ができるかもしれない千載一遇のチャンス。
三日月が滅多に人を撮らない事は解っていた。それでも、少しでも可能性があるのなら、俺はそれを諦めたくない。
そうして俺は、交渉の椅子に座った。