シュウデン・モウ・ナイツ 残業は、無能の証左である。
特別業務部において、この概念は残業権という形で表されている。与えられた仕事を、定時内に終わらせられないのは、無能だからだ。キャリアを接収されても、致し方ない。それが嫌なら、残業権を買ってでも仕事を終わらせろ。
(本当に、覚えなきゃいけないことが山ほどあるな)
夜道でひとり、御手洗は息を吐く。
特別審査部に異動して早4か月、あれよあれよという間に真経津の担当となって、ハーフライフのゲームを組んで、主任間の代理戦争の最前線で戦って、と目まぐるしい日々を送っているうちに、日常業務を学ぶ機会をすっかり逃してしまっていた。知らぬ業務に慣れぬ手続き、せっかく梅野らに懇切丁寧に教えてもらったのに、記載漏れというつまらないミスをやらかしてしまった。
(今日はシャワーだけでいいか)
しいなの「ストレスは、お風呂で流すが一番!」というアドバイスが脳裏をよぎり、消えていく。ワンルームマンションの階段を淡々と上っていきながら、こんなところで留まってしまう訳にはいかない、という思いだけが心に残る。
そして、階段を上りきって曲がったときだった。
廊下の奥、自室の前でちょこんと座っている青年がいる。ゲームキャラのコスプレで、帽子にちょび髭までつけているが、一目で分かる。
「真経津さん!?」
「御手洗くん…」
今にも泣きだしそうな声で名を呼ぶので、御手洗は罪悪感を覚えた。
「終電なくなっちゃって…」
彼は、何時からここにいたのか。
「スマホも電池なくなっちゃうし…」
ひとり、心細くはなかったか。
もっと早く仕事を片付けられていれば、彼にこんな思いをさせずに済んだのに。
己の無能さを、御手洗は噛み締める。
「と、とりあえず上がりましょう。うち、なんにもないですし狭いですけど…」
「ありがと…」
$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$
このあと、御手洗くんの汚部屋に真経津さんがお邪魔します。
ここから先は、まるで考えてません!以上終了!!(逃亡)