「はー……」
淀んだ溜息を吐いて、デスクチェアの背にもたれる。油の切れたロッキング部がギシッと唸る。時刻は夜11時。机にうず高く堆積した文書。百貴は薄汚れたベージュの天井を仰ぎ、
「セックスしたい」
と漏らす。隣で作業していた鳴瓢が、上の空で聞いて、
「ですねー。ぺこぺこ……えっ」
と、一拍遅れて先輩へ瞠目する。そして、
「あー、分かります。頭脳労働に疲れるとむらむらしますよね」
と笑って、再び文字の羅列に目を落とした。
百貴は同性愛者だ。それを恥じたり後ろめたく思ったことはないが、特段公言することでもないので、職場で明かしているのは親しい人間だけ。くわえてこんな風に、明け透けな猥談をするのは、同僚数名。後輩のなかでは鳴瓢ただ一人であった。
鳴瓢秋人はバイセクシャルである。二人の初対面は、