平子先生は追跡される(仮) 時刻は夜九時。平子は一人で夕飯を済ませ、リビングのソファで珈琲を嗜んでいた。それは勿論、先日立ち寄ったカフェから仕入れた珈琲豆を使った至極の一杯である。
常ならばほとんど足音も立てずに帰る筈の平子の同居人——藍染惣右介は、帰るなりわざと物音を立ててズカズカとリビングに入り、形の良い鎖骨が見え隠れする平子の無防備な背中に懐いた。その首筋に顔を埋め、甘えるようにぐりぐりと他者に賞賛されてやまない整った御尊顔を雑に押し付けたのである。
「惣右介、邪魔や。退け」
「嫌です」
至福の時間を邪魔された平子は、容赦無く同居人を煩わしそうに口撃した。
「おっさんが可愛い子ぶったって何もおもんないで」
「……あなたまでつれないこと言わないで」
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