降新 新一の携帯にそのメールが届いたのは、金木犀の香りがほのかに匂う頃だった。
「駅前にできた新しいカフェ、コーヒーが美味しいって評判だそうだよ」
彼から送られてくる文面はいつも非常に簡素だ。「安室透」として過ごす穏やかな日常が綴られている。そのうえで、安室透ならどう考え、答えるかをキャラに徹した文面を送ってくるのだからご苦労なことだ。
ああ言えばこう言う。コナンから新一に戻っても彼の態度は変わりなく、どこか気の抜けない相手だ。対等な会話ができることや持ち前の勘の良さなどありがたい面も多いが、同時に厄介でもある。かつての江戸川コナンが工藤新一だったことは彼に直接口にしたことはない。しかし、十中八九気づいているのだろう。敢えて指摘してこない点は大人だが、何気ない会話に交えてすぐ新一がコナンであった言質を取ろうとしてくるあたりはいかにも警察らしいと言える。
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