海は君の涙で出来ている「ずっと貴方を捜していました」
黒衣を纏った男はそう言った。ポタポタと服の裾から落ちる水滴が、外が如何に荒れていたのかを示す。
「……雨が降っていたのか?」
「ええずっと」
久しぶりに出した声は思ったよりも滑らかで、長いこと放置されて曇ったガラスからは外は見えない。
「そうか……」
久しぶりに動かした身体はギシギシと関節が悲鳴を上げ、手を一振りするだけでも重労働だった。
ほとばしる煌めきは燃える緑で、次々と蝋燭に火を灯していく。燭台にへばりついていた蝋燭たちは最後の仕事とばかりに小さな灯りを灯し、室内の暗闇を祓った。
「……ふふ、ここは何も変わらない」
空気ですら時間を停めていたのに、扉から吹き込んだ風が100年の澱みを吹き飛ばす。
2003