弟扱いじゃなくて 「ゆきさんって僕のこと、子ども扱いしてない?」
「えっ、どうして?」
むくれた様子でそんなことを言う崇くんの言葉に思わず私は聞き返していた。
「どうしてって、自覚なし?…僕ばっかり好きみたいじゃん」
そう言ってますます頬を膨らませるが、そんなことは…ないと思う。
「ねえ、崇くん。どうしてそんなことを?」
「どうしてって…男扱いされてる気がしないから。いつもゆきさんって僕のこと、『かわいい』って言うし」
「…『かわいい』は、嫌?」
「…ゆきさんに言ってもらう言葉ならなんでも嬉しい――なんて言いたいところだけど嫌だよ。僕は、……子ども扱いされてるみたいで」
「そういうつもりじゃないのに…」
「そういうつもりじゃないなら余計質が悪い。…瞬兄には言わないくせに」
そう言って顔を背ける崇くんはどんなに大きくなっても昔の崇くんと重なって私のその横顔が、背中が愛おしくなって後ろから抱き着いた。
「ゆ、ゆきお姉ちゃん!?」
昔の呼び方に思わず笑みがこぼれる。
「…かわいいって思ってるのは本当。でも、それは子供扱いしてるんじゃなくて、崇くんが愛おしくてたまらないから」
「……」
「崇くん、聞いてる?」
顔を覗き込もうとするが逃げられてしまう。
「…知ってたはずなのに、ゆきお姉ちゃんがこう言う人だって…ああ、もう…」
「崇くん?…きゃっ!?」
腕を引かれたと思うと私は崇くん上に乗っていて、密着したこの体勢に私の心臓はうるさく音を立て始める。
「…まあ、いいよ。今はそれで絆されてあげる」
そう言ってくすくすと笑って崇くんは私にキスをする。
「でも、絶対将来的にはもっと頼もしくなって、頼り甲斐のある男になって、『かっこいい』って言わせて見せるから」
にっと笑って宣言する崇くんが眩しくて、かっこよくて、その胸に顔を思わず埋める。
「ゆきさん?」
「ううん、なんでも…」
崇くんが満足するのも、私が素直になるのももう少し時間がかかりそうだと思うのだった。
-了-