埋み火1 この頃、黒髭と二人で過ごす時間が増えた。
と言っても二人でいるからといって何かするわけでもない。それぞれ別のことをしている。今日もそうだ。こちらは勉強を、彼は背を向けて携帯ゲーム機をいじっている。
そのTシャツに包まれた大きな背中に擦り寄ってみたかった。あの巨躯に組み伏せられて、肩甲骨のあたりに爪痕を残してみたかった。でも、私の浅ましい欲望は叶わない。
彼は私と二人きりになっても過度に触れたりはしない。他の女性にするようなセクハラもない。されたいわけではない、断じて。これは彼が私をどう見ているかの話なのだから。
話が逸れた。私は先日、彼にチョコレートを渡した。バレンタインのやり直しで、本命だと伝えた。伝えたはずだ。
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