十二歳下の男と付き合っている。
こう言葉にしてみるとやはり妙だ。現役教師の頃だったら罪悪感でどうにかなっていただろうし、それはこの男の想いを受け入れるときにもハードルとなった。だがしかし、相手は分別のつく立派なおとなだ。――立派なおとなと言うにはいろいろと気掛かりな点もあるが。
その彼がしっかりとした意思をもって自分と共にいたいと告げてきた。気の迷いだと一蹴することは簡単だったが、これまでの彼とのことを思い返せばとてもそんな冷淡な真似はできなかった。
――まあ、いつかこんなおじさんには飽きてくれるだろう。
彼の目が覚めるまで、彼の望む遊びに付き合うつもりで。
これがアレクセイ・コノエの人生最大の誤算だった。
久々の休暇、コノエの自宅。二人はソファに並んで座り、適当な映画を垂れ流しながら各々読書をしたりピザをつまんだりしていた。
「最後の一切れですが」
「ああ、いいよ、君が食べなさい。なんだかもう、こういう油をいっぺんにとるのはきついんだなと落ち込んだところだ」
テレビ画面では神父が血みどろになりながら悪魔と戦っていた。アルバートは冷えてチーズも固くなったペパロニを一口で半分ほど食べて残りを折りたたむと、本に集中し半開きになっていたコノエの口をそれでつついた。
「わっ、びっくりした」
「あなた、耳側好きでしょう。最後の一口どうぞ」
「まあ、そうだが……うん、いただこう」
口に当てられていたピザ切れをアルバートの手から引き取ろうとする。が、アルバートは離さなかった。
「……え? やっぱり食べたいってことかね」
「このままどうぞということです」
このままって。この絵面って。いわゆるあーんってやつではないだろうか。コノエの中で羞恥が走ったが、ここであからさまに恥じらう方が恥ずかしいかもしれない。コンマ一秒で判断を下してコノエは大人しく口を開き、アルバートに押し込まれた生地を咀嚼、嚥下した。やっぱりぎとぎとする。冷えたビールで洗うかと立ちあがろうとした瞬間。アルバートに肩を掴まれた。
「なんだ、君もビール……」
アルバートの舌が、チーズの油分でてかてかとしたコノエの唇を舐めた。至近距離のアルバートの頭部越しの画面では、さっきよりも血塗れの神父の絶叫により悪魔も絶叫し、煙を吐きながら血溜まりで泳ぎ始めた。