毎週金曜日に1週間のご褒美として通っていたお気に入りの喫茶店のお気に入りの調理師が普段飾り気とかないのにある日ネックレスのようなものをつけ始めてどうしたんだろうと思ってよく見たら指輪が通されていることに気づいてショックを受けたい
他の常連にそれについて訊かれた調理師がやっぱ仕事柄指にはずっとつけていられないから…って言ってるの聞いてほんとはずっとつけておくべきタイプの指輪なのか…ってたそがれたい あーあ…
駅と自宅までの間にあるからほぼ毎日その喫茶店の前は通るわけなんだけど、残業帰りの夜遅く、片付けがあるにしても閉店時間からだいぶ過ぎても灯りがついていたり調理師が謎の長髪の男と一緒に裏口から出てきたりするのを見たことはある 長髪の男、店員ではないと思うんだけどな…何者…
ある週、金曜がド残業になってしまったので土曜にモーニング狙いで行ってみたらその長髪の男がカウンター席にいた。明るいところでその男を見るのは初めてだったのでついすれ違いざまに観察してみると左手薬指に指輪をつけていた。既婚者なのか。既婚者同士でも朝から晩までの付き合いがあるなんてよほど仲のいい友人なんだな。調理師の手が空いたタイミングでひそひそと言葉を交わしている様子も仲の睦まじさを示している。そのうち長髪の男は席を立ちショートヘアの甘い声の店員へ代金を渡し店を出ようとしたところで
「あ!総士!悪いけど帰るついでに洗剤買ってきてくれるか、洗濯用の」
調理師が大きめの声で呼びかけた。
そうか、同じ家に住んでいるのか。既婚者同士でか?実家に身を寄せ続けている兄弟なのか?
「この前みたく柔軟剤と間違えちゃだめだよぉ、皆城くん」
親しいらしい甘い声の店員がそれに続く。
おかしいな、調理師の名字は真壁だったはずだ。