地響きのような雷鳴で飛び起きた。
寝室中が激しい雨音で満たされ、外が豪雨であることは見ずとも分かった。
止まり木の相棒がまだ寝ているから、起きるには早い時間だろう。
目を擦りながらベッドから降り、肩掛けとランプを手に、静かに部屋を出た。
向かった先はキッチン。
予め用意しておいた材料を小鍋に入れ、沸騰させないよう温めていく。
温まったそれを、材料同様に用意しておいたカップに注ぎ入れ、用意しておいた砂糖と共にトレーへ乗せた。
さて。
彼には予め伝えておいたが、大丈夫だろうか。
カップ達をそのままに、キッチンから出た。
肌寒い廊下をずっと歩いて行き、とある部屋のドアをノックした。
……返事がない。
ドアノブを捻り覗き見ると、すぐ足元で丸まった背中が見えた。
「……おはようナワーブ、迎えに来たよ」
肩掛けを掛けてあげると、彼は声なく返事をして、私に付いてきた。
キッチンに置き去りにしたトレーを手に取り、先ほどとは別の廊下を進んでいく。
さて。
彼には何も伝えていないが、大丈夫だろうか。
とある部屋の前で立ち止まり、ノックをする。
聴こえただろうか。
燻るように小さく雷が鳴る。
もう一度叩いてみるが、反応はない。
ドアノブに手をかけ、ゆっくりと開いた。
彼は部屋に拘る趣味は無いらしく、最初に割り当てられた部屋に、いつも必要最低限のものしか置かれていない。
見上げると、アンバーが仄かに天井を照らしていた。
小階段を上がっていくと、部屋の主がベッド上で驚いたように私たちを見つめていた。
「おはようノートン、お邪魔するよ」
「……何の用ですか」
トレーをテーブルへ置き、一息つく。
「今日は寒いだろう?温かいものでもどうかと思って」
来客用のソファへ腰を下ろした。
カップの1つをナワーブへ手渡し、1つをテーブルに。
聴こえてきた舌打ちに振り返ると、後ろからケロイドの残った手が伸び、残りのカップを持ち上げた。
「アンタって人は勝手なことをするな」
「すまない、君なら入れてくれると思ったから」
また舌打ちが聴こえた。
「悪趣味」
そう悪態をつきながらソファへ腰掛ける彼もまた、血の気の無い顔色をしていた。
ノートンは膝を体に引き寄せ、カップの中を見る。
「何ですかこれ」
ミルクティーにしては、と言うことだろう。
「隠し味を入れたんだ、よく眠れるよ」
トレー上の砂糖を思い出し、慌ててナワーブの前に置く。
肩掛けに包まった彼は茶色がかった目でお礼を言ってくれた。
怪訝そうにしながらもカップに口をつけるノートンに、私は思わず笑顔になった。
長い時間、空になったカップを握っていることに気がついた。
斜向かいのソファを見やると、2人とも寝てしまっているようだった。
ベッドから毛布を拝借し、風邪をひかないよう掛けてあげつつ、顔色を窺う。
……うなされてる様子はないようだ。
雷鳴は遠のいたものの、窓の外は未だ大雨。
今日はずっとこうだろうな、と、ぼんやり肘をついた。