自室ではない天井、薬と包帯の匂い、清潔なシーツ。
寝かせられた自分の膝もとに、背中を丸めベッドへ顔を伏せた、黒髪の大男。
何が何だか。
体を起こそうにも、激痛で起き上がれない。
顔を顰めながら隣のベッドを見ると、包帯だらけの、良く見知った男が寝ていた。
いつも頭部を覆っているフードとアイマスクが取り払われたその顔は、憔悴した面持ちをしている。
……そうだ、コイツと、ゲームに出たんだ。
そこでバグが発生して。
殴られても全くダメージが溜まらなくて、ハンターが躍起になって殴りつけてきて。
帰還後に、イライが血反吐を吐いて。
ため息をつく。
こうなるくらいなら早く投降すれば良かった。
「ナワーブさん」
重く掠れた声。
ノートンは腕を枕にした格好のまま、こちらを見た。
「あぁ。他の奴らは無事か」
「…他人より自分の心配したらどうです?」
これでもかってほど呆れた物言いに、疲れが滲んでいるように思えた。
当分ゲームは無いでしょうね、と、ベッドへ背中をもたれさせる体勢に変えながら、ノートンは言葉を続ける。
「男の人きて〜って呼ばれたから何かと思えば、なんです、何で血まみれで倒れてるんですかアンタら」
…それ、もしかして庭師か?
似せる気の無さに少し可笑しくなっていると、心の内を見透かされたように睨まれてしまった。
ノートンはあからさまにため息をつきながら、ケロイドが残った手で髪を掻き上げた。
あぁ、そうか、こういうのは苦手だったな。
「心配、してくれたのか?」
「まさか」
「この荘園にいる限りは、簡単に死なないんじゃないか」
「……そーですね」
肯定的とも、悲観的とも言えない、皮肉めいた表情をただ見つめることしかできない。
隣のベッドからいつもの声が聞けることを祈りながら、目を閉じた。