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    358takara

    転スラの書きかけな物をぽつりぽつりそっと上げていくと思います。

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    POIPOI 19

    358takara

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    魔王進化の後、リムル様が洞窟に籠っている時の配下の皆様。

    しばらく寝かせておきます。

    思惑 「え?リグルが行くのか?」
     驚いたベニマルの表情にリグルは申し訳なさそうに苦笑した。
     「はい。ヒューズ殿への報告だけならばゴブタあたりにでも行かせるのですが、冒険者ギルドだけでなく商人のミョルマイル殿にも今後の予定をお伝えする必要があるので俺が行った方がよいと父から言われまして……」
     
     あの悪夢のような襲来の日。
     彼らの主であるリムルが魔王への進化し殺された仲間達の蘇生が成功した。
     魔王への進化の贈物としてリムル配下の魔物へ贈られた。

     少しばかりレベルが上がったなどというものではなく、姿形に変化があった者も多く、シオンのようにどう調理しても美味しい料理ができあがるというわけのわからないユニークスキルを獲得した者もいる。

     変化は把握しておく必要があると、ベニマルはスキル情報についてまとめるようリムルから指示されたのだった。
     

     ベニマルに用意されている執務用の部屋に続々と持ち込まれる配下達のスキル情報の書類。

     一応、種族や所属する部隊ごとに分けられているがそれを読みまとめるのは、部隊事情やスキルについてそれなりに分かる者でないと務まらない。

     リグルに手伝いを頼もうと思っていたのだが当てがはずれてしまった。
     
     「リムル様の御依頼の件をお手伝いしたかったのですが……」
     
     リグルは申し訳なさそうに眉を下げるが、無意識に頬が引きつってしまう。

     続々と集まる書類の束を一人でどうこうできる自信はない。

     「リグル。こいつを甘やかす必要はないぞ」 

     いつの間にか入室していたソウエイがリグルに声をかける。
     自分が預かる隠密部隊の者達の書類を持ってきたのだ。

     「お前はベニマルの部下ではないんだ。こいつの事は気にせずに自分の役割を果たす事だけ考えろ」
     
     「代わりに自分が手伝う」とは言わないところがソウエイらしい。
     
     「……そうだな。部隊を作るのならそういう事務作業の専門人材を確保する必要があるな」

      作業用に用意したテーブルにハイオーク用の書類をまとめていたゲルドもソウエイに同意した。

     ここまで言われてリグルに「行かないでくれ」などと侍大将の役職をもらった者として言えない。


     「リグル。こっちの事は気にするな。ブルムンドへの報告も重要な仕事だ。役目を果たしてきてくれ」

     無理やり作った笑顔で答えるとリグルは安心したようにうなずいた。

     「ファルムスの残党と出くわす可能性は低いが気を付けていくのだぞ」
      
     「はい。それでは行って参ります」

     ゲルドの言葉にうなずくと一礼しリグルは部屋を出て行った。


    *********

     リグルが部屋を出たとたんに笑顔を崩し、絶望した顔になるベニマル。

     「おい。その顔はヤメロ」

     「……どの顔だ。俺は元々こういう顔なんだよ」
     ソウエイが呆れ顔を浮かべてもベニマルは不機嫌な顔を隠さない。
     幼馴染みの前で取り繕っても仕方がない。
     
     「フフフッ。逃がした魚は大きかったっと言う顔ですな」

     ゲルドまで話に加わる。

     「リグルを頼ってばかりだからこういう事になるんだ」

     ソウエイの言葉は正論すぎて反論を思いつかない。

     「しかし戦闘に参加できて、事務能力も高い者はそうそういなくてな……」

     ゲルドの言う通り逃した魚は大きかったのだ。

     「今後はお前の部下の中からそういう人材を育成するんだな」
     
     大鬼族の時代からソウエイの言う事は正しい。
     しかし目下の課題はこの目の前の書類たちをなんとかする事だ。

     「……ソウエイ」

     「俺は当てにするな。リムル様の御命令を優先する。配下も貸し出せないぞ」

     にべもない。
     こういう時にソウエイは出し惜しみしないのは知っているし、本当に手の空いてる者はいないのだろう。

     「……そうか。そうだ!ゲルドの配下にそういう人材はいないか」
     
     ダメ元だがゲルドにも尋ねる。


     「うむ……獣人の避難所作成を優先しているからこちらも人手が足りぬのだが……手の空いている者がいたらそちらを手伝うように声をかけよう」

     自分も手が足りずに困っているであろうにこちらにも配慮してくれた。 


     「そうしてくれると助かる」

     期待は薄いがゲルドからの助けを期待してとしてこの書類と格闘しようとベニマルはため息を飲み込んだ。




    *********
     その日は忙しかった。

     「その件はリグル……じゃなくてリリナ殿に連絡してくれ。あと手が空いてるものはゲルド達を手伝うように伝えてくれ」

     次から次へと出てくる案件にベニマルは的確に指示を出す。

     リムルがイングラシア王国へ出向いていた頃に慣らされたとはいえ、数日滞っていた業務が急に動き出し更に人手不足もある。

     目の回る忙しさだが、それでも無力を感じた絶望よりもましだ。

     やるべき事がある事は幸せというものだろう。

     この後はリムルから指示されていた配下達の進化状況をまとめる予定だ。

     ベニマルに用意されている執務用の部屋へと続く廊下を歩いていると突然声をかけられた。
     
     「ベニマル様」

     呼ばれて振り向くと先日の祝福でゴブリナから大鬼族へ進化したゴブアだった。

     「どうかしたか?」

     また何か問題が発生したのだろうかと構えてしまったが、ゴブアからは記録用として使っている板を数枚渡された。

     「ゴブリナ達の進化をまとめておきました」

     ベニマルが指示するより先にゴブアがゴブリナ全員分の進化データを集めておいてくれたのだ。

     「ありがとう。ゴブリナ達まで手が回らなかったんだ助かる」

     礼の言葉を告げるとゴブアはクスッと笑った。

     「お気になさらないでください。ベニマル様が直接出向いたらゴブリナ達に囲まれてしまうと思いまして先に集めていただけです」

     確かにベニマルが出歩くとゴブリナ達に囲まれてしまうという現象はベニマルも困っていた。

     リムルからは「モテ男は辛いねぇ」などと揶揄われるが、ベニマルにとっては敵に囲まれる方がまだましだと思うほど苦痛であった。

     「……本当に助かった。なにか気になる点はあったか?」

     「そうですね。肌にハリができたとかいう報告くらいでしょうか」

     「ハリ?」

     「はい。化粧のノリがよくなったと喜ぶ者が多くおりました」

     「……そうか。わかった」

     脱力したくなるような報告だが、それを判断するのはリムルに任せて併せて報告する事にした。

     「……それと進化とは関係ないのですが、獣人の方が不安がっていらっしゃるようです」

     「不安? 獣人たちがか?」

     リムルの協力を得る事ができてからは大分落ち着いたようだったが何かあったのだろうか。

     「はい。三日ほど前から」

     ……三日前。

    「――あぁ。ヴェルドラ様の影響か……」

     ベニマルのつぶやきにゴブアが頷いた。

     つい三日ほど前から封印の洞窟からヴェルドラの溢れんばかりの強力な妖気が感じられている。

     ジュラの森の守護神のような存在なので、森の中に住む者にとっては畏怖のような感情はあっても
     慣れ親しんだ妖気なのだが、森の外に住む者にとっては禍々しく感じるのだろう。

     「はい。リムル様が三日前から封印の洞窟に入ったままという事を気にされているようで……」
     
     ふむ。とベニマルは頷く。

     「俺達はリムル様がご無事である事はわかるが配下ではない者にしてみれば心配にもなるか」

     ベニマルのつぶやきにゴブアは同意するように頷く。

     カリオン様の事もあるから余計にそうなんだろう。

     つい最近自分達もリムルの所在が分からなくなり不安になった事を思い出す。

     ……とはいえしばらく様子見しかできない。

     「慣れない地での生活で疲労もしているだろうし、それとなく気遣ってやってくれ」

     「承知しました」

     ゴブアは一礼して立ち去ろうと背を向けたが何かを思い出したようにもう一度振り返った。

     「ベニマル様。食事を思うように取れていらっしゃらないようでしたので、食堂で作ってもらったお弁当です。片手で食べられるサンドイッチだそうなので、よろしければ」

     小箱をベニマルに差し出した。

     そういえば朝から食事をとっていない事をベニマルは思い出した。

     「ゴブアは気が利くな。ありがとう」

     感謝の意を示しながらベニマルはそれを受け取るとゴブアは何故か頬を染め、一礼すると慌てたように立ち去った。

     ベニマルはサンドイッチの中にニンジンが入ってないといいななどと考えながら執務室へと向かった


     *********

     執務室の扉の前で待つ人物にベニマルは眉をひそめる。

     最近仲間として加入してきた悪魔だ。
     名前は確か……

     「ディアブロ」

     声をかけるとディアブロはこちらに気付き笑顔を向けた。
     胡散臭い作り笑顔だと思ったが、出会って日も浅いしそんなものだろう。

     「ベニマル殿。よかった。お部屋に行ったら留守のようでしたのでどうしたものかと困惑しておりました」

     ディアブロはシュナに街を案内していてもらっていたはずだ。
     が、シュナも色々と仕事を抱えている。
     さすがに三日も新人に街を案内に時間を割くという訳にはいかなかったのだろう。

     実際に案内中もシュナに指示や報告をする者が現れ途中で中断される事が度々あった。

     一通り案内してもらった後はシュナの案内を辞退し、自ら人手が必要な所に出向いて住民たちと交流を図っていたらしい。

     「……そりゃご苦労だった。リムル様も戻ったらお前に仕事を頼むつもりだったのだろうが……何かに夢中になると他を忘れてしまわれる事もあるからな。悪く思わないでくれ」

     「悪く思うなど! おかげで配下の皆さんともお話できて馴染むことができました」

     本心かどうかはベニマルには判断できないが、当事者たちに問題がなければよいだろう。

     「……それで俺になにか用か?」

     「はい。避難民の仮設テント設置へお手伝いしようと赴きましたらゲルド殿からベニマル方が人手を必要としていると言われましてこちらへ赴いた次第です」

     ゲルドへも手伝える者を回してもらえるように依頼していた事を思い出した。
     義理堅い男である。

     「……まぁ。人手は欲しいのは本当だが……書類整理になるが構わないか?」
     「書類整理は得意です」
     作り笑顔のディアブロに手伝ってもらうべく部屋に招き入れる事にしたのだった。


     *********


     「終わった……」

     まとめられた資料をそろえベニマルは大きく息を吐いた。

     「お疲れさまでした」
     広げていた書類をディアブロは丁寧に揃えて机の上に重ねた。


     一人では書類を読み込むだけでもう数刻かかっていただろうが、ディアブロが的確に情報を整理してくれたおかげでスムーズにまとめる事ができた。

     これでリムルがいつやってきても対応できるだろう。


     そう考えたとたんに緊張感から解放され空腹を自覚し、ゴブアが持たせてくれたサンドイッチを思い出した。
     一応ディアブロにも一緒にどうかと勧めてみたがやんわりと断られたのでベニマルが一人で食べる事にした。

     それを見てディアブロは「お茶でも入れましょうか」と机の端に置いていたティーポットから茶を注いでくれる。

     シオンの入れる摩訶不思議なお茶とは違い普通に美味しいお茶であった。


     「……ふぅ。どうにかリムル様が戻られる前にまとめられたな。感謝するぜ」


     「お役に立てて何よりです」
     

     事も無げに答えるディアブロの笑顔はやはり作り笑顔のようだとベニマルは感じたが、先ほどから気になった事を尋ねてみる事にした。

     「ところでお前はいいのか?」

     「はい?」

     「リムル様が次に動かれるまではこういった地味な仕事ばかりになる」
     
     「何も問題ありませんが?」

     小首を傾げてベニマルの質問の意図が分からない様子だ。
     
     「リムル様は何も仰らないがお前は俺達よりも長く生きている者のようだが」
     
     「そうですね。私は貴方がたと比べても少しばかり長く生きております」

     「俺の立場から言うべきではないのだが、他国では下人がやるような仕事もここでは幹部がやる事になるんだが……かまわないのか?」

     「問題ないですね。リムル様自らが鍬を持ち畑を作ったとお聞きしました。配下にしていただいたのに仕事の選り好みなど恐れ多いですね」

     ディアブロの即答にベニマルは「そうか。お前が気にならないのならいいのだが……」と頭を描きながら納得したように頷いた。

     その様子を見てようやくベニマルが自分に何を聞きたかったのかをディアブロは気づいた。

     「クフフフ……ベニマル殿。私への気遣いは不要です。私は長く生きているだけでこちらでは新参者です。……それに私は私で貴方がたを手伝う事に理由がございます」
     
     「理由?」

     「リムル様に私が役立つ事を認めて頂くためにやっている事です。新参者の私はまずは配下の皆さまに私の存在を知っていただく事から始める必要があるのですよ」

     「……そうなのか?」

     「ええ。リムル様に私が必要だと認めて頂けるように今は実績を作る事が重要と思っているんですよ」

     「そんなに焦らなくてもお前なら大丈夫じゃないか?」

     「万が一にも失敗して追い出されないように常に努力が必要なんです」

     「リムル様は失敗したからといって追い出すような事はしないと思うが……まぁお前が気にしないのなら別にいいさ」

    「……ええ。二度と『帰っていいよ』と言われないようにしませんと」

     ディアブロの決意溢れたつぶやきは幸いな事にベニマルの耳には届かなかった。



    「それにしてもリムル様はいつ頃お戻りになるのでしょう」

    「どうだろうな。そろそろお迎えに行った方がいいとは思うのだが」

    「ところで……貴方がたは暴風竜の気配は気にならないのですか?」

    「まぁ。気にならないわけではないが……」

    「森の中の民だとこの絶大な妖気は恐怖の対象ではないのですね」

    「そうだな。それにリムル様の気配に異常はなさそうだしな」

    「それもそうですね。もしかするとリムル様が暴風竜を連れてこられるやもしれませんね」

    「まさか!……と言ってられないのがうちの大将だからな」

    「クフフフフ」

     ベニマルのボヤキにも似た返答にディアブロは本当に面白そうに笑ったのだった。







     「ベニマル様! 大変です! 獣人の方々が!」

     穏やかな時間は叫び声とともに終了する。

     慌てた様子でゴブアが執務室へ飛び込んできた。

     緊急案件は入室の際にノックは不要というルールがあるのでゴブアの行動に問題はない。


     「どうした?」

     「ご報告します!リムル様を救い出すと封印の洞窟に向かった獣人の方がいるようで……その中にスフィア様もいらっしゃるようです」

     「なんだって?」

     スフィアといえば、三獣士の一角で獣人たちのリーダー的な存在だ。
     そんな立場の者が自ら動いたとなると穏やかではない。

     「……暴風竜と戦うつもりでしょうかね?」

     呆れたようなディアブロのつぶやきにベニマルは同意するような大きなため息を吐いた。

     「ったく! しょうがねぇな! わかった俺が直接説得する」

     ようやく一山片付いたと安堵したのにこのありさまだ。
     
     クレイマンと戦う前の小事で神経を削られそうである。

     「ベニマル殿。よろしければ私が参りましょうか?」
     
     「……お前が?」

     「クフフフ……実はこう見えて説得は得意なんですよ」

     先程本人が話していた通りディアブロは実績を積みたいのだろう。とベニマルは直ぐに思い至る。
     ディアブロの気持ちもわからないではないし、反対する理由はない。

     「そうか? じゃぁ頼んでも……」

     「リムル様を信じられないような愚か者には少しばかり躾が必要でしょう」

     躾という名の暴力が繰り広げられる未来が見える。

     いくら魔物の掟として「弱肉強食」であってもこの状況でやっては後々大きなシコリとなる。

     説得にディアブロの躾は必要ない。

     「待て。やっぱり俺が……」

     ベニマルの制止を待たずに転移した。

     恐らく獣人たちが向かったという封印の洞窟の入口だろう。

     「……ったく! これじゃシオンと変わらないじゃないか! ゴブア!」

     「は、はい!」
     
     急に名前を呼ばれてゴブアは姿勢を正す。

     「リグルド殿に事の次第を伝えておいてくれ!場合によっては荒事になるかもしれん準備するように伝えてくれ」

    「はい。承知いたし……」

     ゴブアの返事を待たずにベニマルもディアブロの後を追うように転移したのだった。

     ゴブアは一瞬だけ思考停止してしまったが、次の瞬間ベニマルの命令を遂行すべくリグルドの元へ向かったのだった。
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