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    こぴっく

    @Copic_V91の、らくがきや、お話を載せていきます。

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    こぴっく

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    前に上げた鬼配墓のテイクn回目!
    ⚠️
    ・視点が章ごとに変わることがあります(ぼく=⏳、僕=📮にしてある(はず))
    ・章ごとに小分けにして投稿します
    ・誤字脱字がある可能性があります

    綿毛の君の傘帽子の君①第1章

    ぼくは、山の上から、それらを感受していた。

    祭囃子と人々の雑踏。

    赤赤とした灯りを灯した提灯たち。

    焦がし醤油の、香ばしく食欲をくすぐる匂い。

    今日は、ぼくが住んでいる地域で、農作物の収穫を祝う秋祭りが開催されていた。

    毎年、多くの出店が道沿いにずらっと並び、現地人と、それを目当てに集まった人々で賑わっているようだ。

    "ようだ"と表現したのは、ぼくは一度だってこの祭りに参加したことが無いからだ。

    その理由を簡潔に言うならば、ぼくの家は一般的な家庭より、幾分稼ぎが少ないから。

    ぼくが物心着いた頃には、既に父親は家に居らず、身体の弱い母さんが家計を支えている状態が続いている。

    母さんはいつも、使い古して薄くなった布団の上で、ちくちくと縫い物をしていた。

    母さんは、小物や巾着を中心に作りたいようだけど、お客から頼まれるのは解れた着物などの繕いものばかりだ。

    今では、地域内でそれなりの評判を得ることができたが、材料費が莫迦にならないため、家計は火の車だ。

    暮らしていくのにも精一杯で、娯楽に使える余裕なんてあるはずもなかった。

    誤解のないように言うと、ぼくはこの貧しい生活を嫌っているわけじゃない。

    いや、母さんの負担を減らしてやりたいだとか、たまには甘い菓子を食べたいだとかを考えることはあるが、この生活自体を否定したいわけではない。

    ただ、この祭りに未だに参加したことの無い理由を、ぼくは話したかっただけなんだ。

    では、祭りに参加することの出来ないぼくが、何故、祭り会場の目と鼻の先の距離に居るのかと問われると、うまい言葉が見つからない。

    祭囃子の音が気になったから?

    前々から、祭りに参加したいと思っていたから?

    今日は母さんに頼まれていた家事が、早くに終わって、暇だったから?

    自分で根拠となり得そうなものを探ってみるが、しっくりと来るものはなかった。

    ただ、なんとなく、来てみたかっただけなのかもしれない。

    暫くの間、暗闇の中でぼーっと灯りを眺めたり、匂いから食べ物の味の想像を膨らませたり、ぼくなりに祭りを楽しんだ。

    ぼくが一通り祭りを満喫したころ、さて帰ろうかと振り返ると、辺りは真っ暗闇に染まっていた。

    祭りを楽しみすぎて、時間の経過に気づけなかったのだ。

    足元も覚束無い状態では山道に入りたくなどなかったが、どうしても、帰らないというわけにはいかなかった。

    今朝家を出た時、母さんが咳を零していたんだ。

    秋と言ってもまだ初秋だから、極端に身体を冷やしたり、乾いた咳が止まらない状況にはならないことを知っている。

    でも、今家で1人、咳に苦しんでいる可能性もある思うと、じっとしていられなかった。

    母さんが家で待っていると自分を鼓舞し、1歩、また1歩と、慎重に歩みを進める。

    カサカサと草を分けていく音の中に、時々、ぽきり、と小枝を踏み折る音が混じる。

    その聞きながら歩いてみるが、一向に見慣れた場所に出ない。

    進む方向を間違えたかと、進路を変えることを数回目。

    自分が迷子になってしまったことを悟った。

    このまま、当てずっぽうに歩いていても、家に着くことはできないだろう。

    そもそも、ぼくには、そんな体力など残ってはいなかった。

    母さんのことは心配だが、朝日が登るまで此処で休んで、道が分かるようになってから動いた方がいい。

    ぼくは大丈夫。

    一人で居ることには慣れている。

    初めの十数分の間はそう思うことができた。

    しかし、程なくして、暗闇という化け物が、ぼくの心を侵略し始めたのだった。

    今聞こえた鳴き声は何だ?

    奥の草陰の裏に何かが居るんじゃないか?

    後ろから誰かが近づいてきている、いや、そこら中に何者かが居る!

    両耳を塞ぎ、身を石のように縮こまらせ、身を震わせる。

    早く家に帰りたい、もう、それしか考えられなくなっていた。

    ふと、前方の落ち葉が沈むのを感じる。

    もうダメだと思った。

    『大丈夫ですか?』

    若い男の声がする。

    耳を塞いでいるのに、聞こえてくる。

    頭の中で、男の声が何重にも反響して、気分が悪くなる。

    意識が薄れていく。

    最後に見たのは、爛々と輝く、1対の黄金だった。

    **

    重い瞼をこじ開け、辺りの様子を確認すると、暗闇に目が慣れてきたようで、景色の輪郭がぼんやりと視認できるようになっていた。

    『起きましたか。ご気分は?』

    声のする方を見上げると、端正な顔立ちをした男が立っていた。

    男は、縦縞の着物に黒い羽織、大きな鈴の付いた首巻きに、これまた大きな傘帽子という、派手な服装をしていた。

    それだけでも十二分に目立つのだが、男には服装の他に、もう1つ、大きな特徴を持っていた。

    それは角だ。

    額の両端から、ぼくの掌以上はありそうな 立派な角が生えており、その先端は、じんわりと紅色に染まっていた。

    ぼくは、その妖しい美しさに見とれてしまった。

    ぼくみたいなキモチワルイモノとは違う、異質な美しさがそこにはあった。

    「アンタの名前を教えて欲しいっ!」

    弾かれるように、ぼくは、そう言っていた。
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