屍の行方洞窟にビュウビュウ、風が吹き込む。
雨上がりの海の、何処か土の香りの混ざった潮風。
遠く聴こえる海鳴りと鴎の声。寄せ返すまだ高い波の音。じめじめと苔生し、舟蟲の這う岩壁から染み出す磯の有機的な匂い。暗がりにうっすら射し込む陽光の白い筋。
その中に巻かれた包帯を赤黒く染めた屍がひとつ、転がっていた。
血と泥にまみれた長い黒髪。
満身創痍ながらすらりとした体躯。
顔は見えない。
下には粗末な毛布。それも屍の流した血膿が染み込んだのか、どす黒く変色している。
その傍らに、革鎧を身につけた大柄の男が佇む。
後ろに撫で付けた金の髪に虎狼の如く冷たい碧眼。頬に十字の傷を刻み付けた男は歩み寄ると、転がる屍の腹を靴先で軽く蹴り上げた。
19058