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    めいめい

    FEオグナバ最果ての地


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    めいめい

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    偶然[オグナバ小説]


    1億万年振りに完成できた文章です。
    短いしエロも無いですが書けただけで万々歳です。
    少し濃い目のチュー表現有。

    #オグナバ
    ognaba

    偶然はぁはぁ……と荒れた呼吸をそのままに、累々たる屍の山の上に立ち尽くす影が二つあった。ひとつは武骨な大剣を手にした大柄の革鎧の男。もうひとつは両手に双剣を携えた細身で長髪の、長衣を纏った男。共に返り血に濡れ、衣類や防具も所々切り裂かれ破損して地肌と生傷が覗いている。

    ふたりは互い以外に息のあるものがそこにもう存在しないことを確かめると、ほぼ同時にその場に尻をつき、座り込んだ。
    目も、顔も合わせないまま背中だけを合わせて、やがて息が整ってくると大柄の方が腰に下げた簡素な革袋を呷り、ごくごくと喉を鳴らして飲み下した。

    「貴様も水を飲んでおけ、ナバール」

    そう告げて背後の長髪──ナバールに革袋を放る。
    ナバールは振り向きもせずそれを受け取り、呷ると無言で空の革袋を投げ返した。

    「おれたちの仕事はここまでだ。後は伝令を待とう」

    これは奇襲作戦の一部。
    主君たる王子率いる本隊が敵の斥候を撹乱し先行部隊を手の内へ誘い込む一方で背後からたった二人の傭兵が敵将を叩く。そんな大胆と言えば聞こえは良いがその実酷く大雑把な作戦、の後半部分だ。屍の山の中に部隊の将も既に紛れている。殆んど勝敗は決したと思って良い。

    「よくこんな作戦に乗ったな、オグマ」

    ナバールが口を開いた。

    「シーダ様……、いや、マルス王子が承認された作戦だ。おれたちならやれると信じてくださったのだ。ならば応える、それ以外なかろう」

    相手に顔も向けず、大柄の男──オグマが返す。

    「寧ろ、王子はよく貴様のような得体の知れない奴に任せられたものだ。旗色が悪ければ裏切り兼ねんというのに」

    「ふん、人を斬るだけだろう。ならば多勢に無勢の方が楽しめる」

    「そう言うところが好かん」

    オグマはそう言い捨てると空を見渡した。
    空には血の匂いを嗅ぎ付けた鴉たちが、アア、アアと歓喜の声を上げ仲間を呼び集めている。地に広がる紅い血と鴉の黒。それは背中合わせのナバールの色だ。
    血のこびりついた黒い髪とより深い紅に染まった衣。握られた紅い刀身の剣。
    ナバールは死鳥の翼のように両手の剣を閃かせ戦場を羽撃く。それはまるで死の舞踏で、ともすれば死と戯れているようにも見えるのがナバールという剣士だった。

    オグマはそれが気に入らない。

    戦場とは何の彩りもなく、美しさも愉悦もなく、ただただ人間を兵士として消費する場所だ。敵も味方も己も他者も何も変わりはない。だからこそ生きることが無上であり、また生かすべき者のために命を懸ける場所でもある。
    そこには何の娯楽性もない。無味乾燥の荒野である。
    その荒野をナバールは彩る。
    時に薄く笑みを浮かべ、戦いこそが生命の歓喜だと言わんばかりに死線を踊る。
    その影が今はもう誰一人立ってはいない戦場に焼き付いているかのように、オグマの網膜に浮かび上がる。

    「その内、死ぬぞ」

    瞬きひとつで幻を搔き消し、オグマは窘める。
    背を向けたまま、視線の先には敵であった肉塊と武具の残骸が散乱する。地上の澱んだ空気と生臭い匂いと、相反するかのような澄んだ青の空。
    鴉の声は響けどもなお、静寂が横たわる。
    既に整った呼吸は元より、背中越しに互いの血のさざめく音も聞こえるかのような静けさ。

    「…………」

    ナバールは無言で、ふっと息を吐いた。
    それは冷たいようで何処か柔らかい。
    笑ったのかもしれない。
    揺れた髪がオグマの背中に触れる。
    オグマの視界の端を黒髪が、長衣が掠める。
    振り向くとナバールの妙に整った顔があった。
    いつも作り物めいている無機質なそれは、戦いの直後のためか、跳ねた血と泥と浮かんだ汗のためか、オグマが認識しているものよりもずっと生々しかった。

    合図は特別なかった。
    ただ、偶々、そういう瞬間が訪れた。

    オグマの蒼穹を写し取ったかのような青の眸とナバールの月の無い夜のような無彩色の眸の、視線が交わる。
    吐息が触れ合い、その音が耳腔内に拡がっていくほどに鴉の声も羽撃きも遠くなる。
    何かを言おうとしたのか。
    薄く開かれた唇同士が触れ合った。
    刹那、躊躇うことすらなく深く、互いに喰らいつく。

    それは慈しみ合うようなものではなく、恋慕を纏った甘やかな触れ合いでもなく、ただひたすら熱に浮かされたように攻め合う類いのものだった。
    濡れた舌を絡め、舌根を探り、唇を噛むように吸って互いの口腔を侵略し合う。両者は譲ることなく、やがて汗ばむ髪を掴み頭を押さえ込んで貪り合う。

    行為に対する疑問も湧かない。
    かといって何か情が湧いたのでもない。
    戦いの興奮、生き残り遣り遂げた安堵、理由を求めれば尤もらしいことは幾つか出ては来るだろうが、そんなものに大した意味はない。ただ、触れ合ってしまったという事実だけがある。
    時折、重なる唇の間から粘性の音と吐息が、微かな喘ぎが零れる。それを呑み込みながら更に深く交わる。
    そうするのが当然のように口を吸い、混ざり合う唾液が幾筋もふたりの間に銀の糸を紡ぎ、滴った。

    「……ここまでだ」

    ナバールが空を見上げ、顎で促した先に白い翼が見える。見る間にそれは天馬に乗った伝令の騎士であることが判る距離へと空を滑り降りてくる。

    「見られたか」

    「別に、不都合はない」

    我に返ったように呟くオグマに、お前はあるのか? と、ナバールが喉を鳴らす。不都合と言う不都合はない。だが、魔が差したかのようなほんの一時を振り返ると気まずさも覚える。
    そんなオグマを置き去りに、ナバールは伝令から作戦成功の報を受けていた。いつもであれば、そういった折衝はオグマが担う。二人の間に取り決めがあるわけではないがオグマが自然に役割を負っていた。
    それをナバールは恐らく意図的に請け負ったのだ。
    些細なことではあるが天馬騎士と話す、黒髪の揺れるその何処かふてぶてしい背中を睨む。見えない顔がほくそ笑んでいるような気がしてオグマはひとつ、舌打ちをした。

    やがて報告を終えた天馬騎士が本隊へと向けて飛び去っていくとナバールは漸く、オグマを振り返った。

    「帰るぞ。マルス王子が待っている」



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