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    ふゆふゆ

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    ふゆふゆ

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    大変お待たせ致しました。
    中白🌟🎈シリーズの主軸の全年齢版です。
    あと🥞☕とほんのりと漂う🐹🎧🐹です。
    今回はクリスマスのお話なので、クリスマスの合わせて全年齢に編集致しました。
    次は暮れと新年のお話になるのでそれに合わせて中編を失礼致します。
    エロ有り本編は支部でご覧になって下さいませ。

    君と永遠の愛を誓う前に 前編「類、結婚しよう。」

    中山の仕事もかなり落ち着いたある日の事。
    何時ものように並んで皿洗いをしていた時に中山に言われた言葉に白藤は目を丸くした。

    「…ぇ、」
    「どうだ?」

    何時もの日常の中で畏まった雰囲気のないタイミング。
    本当に雑談のようにナチュラルに言われた言葉に白藤の瞳がじわっと潤む。

    「っ、司くん、このタイミングだったのって…、」
    「類の思ってる通りだ。今日は俺がお前にプロポーズした日だもんな?」

    悪戯が成功したと言わんばかりに茶目っ気たっぷりにウィンクを一つした中山に白藤の瞳からボロッと大粒の涙が零れ落ちた。

    「泣くなよ、類。」
    「っ、泣かせてるの司くんだよっ、」

    白藤の頬に触れて涙を拭う中山に更にボロボロと白藤の瞳から涙が溢れ落ちる。

    「だな、悪い。」

    愛しそうに目を細めた中山がそのまま白藤を抱き締めてきた。

    「それで、どうだ?受けてくれるか?」
    「…ん、」

    こくんと頷いて中山の背中に腕を回した白藤に中山も息を吐く。

    (良かった。ちゃんと受けてくれて…。)
    「類、ぜってぇ幸せにするからな。」
    「うん。うん。」

    未だ泣いている白藤の頬に触れて中山は自身の唇を白藤に寄せた。



    式は確定ではないが、来年の白藤の誕生日に合わせて、2人は動き出す。

    「やらなきゃならないことリストアップした方が動きやすい?」
    「だろうな。」

    改めてプロポーズした翌日。指針を決めるためにダイニングテーブルで向かい合わせ。

    「えっと…、」

    白藤が箇条書きで一つずつ書いてまとめていく。
    ざっと書いて、他に抜けあるかな?と言う白藤にどうだろうな?と中山も眉を寄せる。

    「ウェディングプランナーに相談したらまた増えるんじゃねぇ?」
    「そっか、プランナーさんも探さなきゃだもんね。相談カウンターに何時行く?」
    「類の休みに俺が有給か、類が俺に合わせて土日のどちらかを休むかだな。」

    ならと白藤が僕が休むと言い、中山は分かったと微笑んだ。
    行く日程を決めて、僕らが決めなきゃならないのはとリストを見た白藤に中山が赤ペンを持ち、リストにチェックを入れていく。

    「先ずはこれぐらいじゃねぇ?」

    中山がチェックを入れたのは両家の顔合わせ挨拶、結納の有無。
    どんな式をするか、式場探し、結婚指輪。

    「式の形式決めて、式場。あと結婚指輪。他はまた後で良いだろ。」
    「あ、そうだね。」
    「けど類は結婚指輪は暁月に頼みてぇんだろ?」

    中山がふっと笑い問い掛けてくる。

    「…え、良いの?」
    「良いも何も、暁月にもオーダー待ってるって言われたろ。」

    俺も類が大事に思ってる相手に作って貰いてぇし。そう言って少し照れたように白藤から顔を逸らした中山の耳は赤く、それに気付いた白藤はくすっと笑みを溢した。

    (本当に好きだなぁ、もう。)

    今一度中山に惚れ直した白藤は、一緒に依頼しに行こ?と甘えたように問い掛ける。

    「ああ。何時行く?」

    ふと笑みを溢した中山にまた嬉しくなった白藤は相談カウンター行った帰りにしよ?と微笑んだ。

    「じゃあそれで決まりな。」
    「うん!」

    瑞希に連絡しなきゃと携帯でメッセージを送り始めた白藤に目を細めた中山は少しだけ湯呑みを傾けた。
    瑞希にメッセージを送った白藤が携帯から顔を上げた。

    「次はどんな式にするかだが…。」
    「僕、人前式が良いな。」
    「早いな?」

    白藤がきぱりと言いきり、中山が目を丸くする。

    「…えっと、昨日司くんにプロポーズされたから、ちょっとだけ調べたんだ。」

    頬をほんのり赤らめて、頬をかいた白藤が愛しい。
    思わずふぅと溜め息をつき、額に手を当てる。

    (いや、類可愛すぎねぇ?何でこんな可愛いんだ?)
    「…気が早いって思う?」

    おずおずと問い掛けてきた白藤が上目に中山を見てきた。

    「いや、類が可愛すぎて悶えただけだ。思わねぇよ。」
    「…凄いキメ顔してるけど、司くん温泉旅行行ってから更に欲に忠実になってない?」
    「まあ、あれで興奮したのも確かだし。自分の変態性も自覚したから、もう開き直るかって思ったよな。」

    呆れた顔をした白藤にきっぱり言いきった中山。
    白藤の顔が更に赤くなり、潤む瞳。

    「あれは忘れてよぉ…。」
    「いや、忘れられねぇから。」
    「…司くんの変態ぃ、」

    顔を両手で覆った白藤にまたムラッとしてしまい、ふぅと息をついた中山が白藤を抱き上げる。

    「ちょっ、降ろしてぇ!!」

    抱き上げられて白藤は顔を真っ赤にした。
    今から何処に連れて行かれるのかを把握した為だ。

    「一回だけ。」
    「やぁ、もぉ!!」

    ベッドに降ろされて服に手を掛けられた白藤の司くんの変態ぃ!!と言う悲鳴が響き渡った。
    結果、食べられた白藤は中山の腕の中で怒っている。

    「バカ!バカ!司くんのバカァ!」
    (いや、可愛い。類可愛い。)

    デレッとなった中山に白藤は涙目と真っ赤な顔で怒っている。

    「デレデレしないで!!」
    「悪かったって。」
    「反省してない!!バカ!!」

    語彙が子どものようになってしまっている白藤を前から抱き締めて、自身の上に乗せた。
    降ろして!と怒っている白藤の頭を撫でる。

    「本当に悪かったって。機嫌直してくれ。」
    「…司くん、これで僕の機嫌良くなるって思ってるでしょ?」

    少しだけクールダウンした様子の白藤がぶすっと頬を膨らませた。

    「実際今、ちょっと落ち着いてんだろ?」
    「僕、まだ怒ってるもん。」
    「拗ねてるの間違いだろ。可愛い。」

    もお!!と軽い力で中山を叩く白藤に中山は喉をならして笑った。

    「やっぱり反省してない!!」

    むうと頬を膨らませてはいるが、中山の上から降りようとしない白藤に中山が問い掛ける。

    「んじゃあさっきの続きだ。何で人前式?」
    「…神前やキリスト教より僕らに合ってるって思ったの。」
    「そうなのか?」

    うんと頷いた白藤は人前式の特徴を話し始める。

    「神様やキリスト様じゃなくて来てくれた皆の前で誓う方が僕ららしいでしょ?」
    「まあ、そうかも知れねぇな…。」
    「あとね、自由度が高いからミモザとスミレも参加させられるし…。」

    頷いた中山にふにゃと笑った白藤。
    目を一度瞬いた中山はそれはいいなと目を細めた。

    「ね?だから人前式がいい。」
    「なら人前式で考えような。」

    うん!と嬉しそうに頷いた白藤はやはり可愛く、中山は目を細めた。





    翌日。
    休憩中、職場の休憩室で中山は携帯の画面を睨んでいた。

    「よっ、中山!何そんな難しい顔してんだ?」
    「ああ、玄田か。久しぶりだな。」

    おーと返事をしながら隣いいか?と問い掛けてきた友人に頷く。

    「今日は珍しく出ないんだな?」
    「まー、修羅場だから暢気にランチ食ってられねぇの。」

    そう言いながらサンドイッチを取り出した玄田の目元は確かに隈があり、お疲れと返す。

    「けど相変わらず白藤さんの弁当旨そうだなぁ…。」

    中山の弁当を覗き、ぼそっと呟いた玄田を労るつもりでおかず一つ取っていいぞと言えば、玄田は目を丸くした。

    「マジ!?いいの!?」
    「1個だけな。疲れてるみてぇだし。」
    「よっしゃ!サンキュ、んじゃ玉子焼き頂き!」

    玉子焼きを一つ取り、口に含んだ玄田の目が輝く。

    「うまっ!!焼き色とかも完璧だけど、だし巻きだよな?出汁美味!!」
    「類が作ってんだから美味いに決まってんだろ。」

    自慢気な中山にお前毎日こんな旨いの食ってんの!?と言う玄田。

    「ああ。」
    「もう一個なんか…」
    「やらねぇ、一個っつったろ。」
    「くっ、」

    伸びてきた手。さっと弁当を自分の方に戻した中山に玄田は机に崩れ落ちる。

    「俺も料理上手い可愛い彼女欲しい…。」
    「頑張って探せよ。」
    「ぐぬぬ、リア充めぇ…。」

    心底悔しそうな玄田が中山を見上げ、そんな玄田に中山はふんぞり返った。
    やはりそんなやり取りに一部の女性社員と男性社員が悶えていることを二人は知らない。

    「んで、中山サンはさっき何でんな難しい顔して携帯見てた訳?」
    「まあお前には先に言ってもいいか。結婚すんだよ、類と。式場と日取りが完全に決まってから職場には報告するけどな。その式場探しだ。」
    「けっ、結婚んんん!?」
    「声がデケェよ!!」

    さらっと話した中山に玄田が目を丸くして思わず叫び、そんな玄田の頭に拳骨を食らわせた。

    「っ!!何も殴る事ねぇだろ!?」
    「お前が叫ぶからだろーが!」

    一気にざわつき出した休憩室。
    結婚?誰が?
    中山さん?
    嘘ぉ、ショックゥ…
    彼女居るのは分かってたけどさ…
    と言うような声がして中山は額に手を当てて盛大にため息をついた。

    「いや、悪ぃ。」
    「お前のせいだからな?」

    青筋を浮かべ玄田を睨み、にっこりと微笑んだ中山はくるりと振り返る。

    「まだ確定ではないので、皆さんお気にせず。時期を見て、改めて報告致しますので。」

    中山の言葉で各々また休憩に戻っていく。
    一部の社員は落ち込んでいるが。
    姿勢を直した中山に今度は声を小さくして玄田は問い掛けてくる。

    「けどマジで?中山、結婚すんの…?信じらんねぇ…。まじで白藤さんにベタ惚れじゃねぇか…。」
    「ずっとそう言ってんだろ。結婚前提で付き合ってんだからな。」
    「いや、言ってたけど。お前が所帯持つイメージが湧かねぇんだって…。」

    失礼すぎる友人に思わず頬を引っ張りたくなったが、玄田の言うことも事実なので否定が出来ない。

    「まあ俺も自分が本当に結婚するとは思ってなかったけどな…。けど類だから結婚してぇんだよ。類以外とは死んでもしねぇわ。」
    「やっぱベタ惚れじゃねぇか。」
    「悪いかよ。」
    「いいや、お前が幸せならいんじゃね?」

    にっと笑った玄田。

    (こいつのこう言うところが好ましいんだよな。)

    だからこそ玄田と友人になったのだと改めて考え、笑みを溢す。

    「あ、そうだ。ならこれやるよ。」
    「あ?」

    鞄を開けて何かを取り出した。
    目の前に置かれたのは結婚式場のまとめのようだ。

    「は?何で?」
    「修羅場の先生とは別。担当のミステリー作家の先生が今、結婚式前に式場で殺される新婦のミステリー書いてんだよ。その資料。パソコンにデータあるし、それやるわ。」
    「あー、なるほど。なら有り難く貰っとくわ。サンキュ。」

    いえいえと言う玄田はそのまま腕時計を見て、やばっと声を出し、残ってたサンドイッチを口に放り込む。

    「んじゃあ俺行くわ!!またな!!」
    「おう、頑張れよ。」

    片手を上げて見送り、弁当をつつきながらパラパラと資料を捲る。

    (ゲストハウス?)

    気になる単語を見つけて、検索をかけてみる。

    「…へぇ?」
    (これ、いいんじゃねぇの?絶対類好きだろ。)

    手作り感満載、好きなように流れを決められる。
    此処でやればミモザとスミレも好きなタイミングで登場させられるし傍にも居させられる。

    「帰ったら聞いてみるか。」

    どんな顔をしてくれるのだろうかと想像して頬が緩んだ。
    何時も通り帰宅すれば、エプロン姿の白藤とミモザとスミレがお出迎えしてくれ、中山はただいまと白藤を抱き締めキスをして、ぱっと離れる。

    「お風呂、沸いてるよ。」

    鼻が触れ合う距離で白藤が微笑む。

    「何時もありがとな。あと弁当、少しだけダチに分けたんだが、めちゃくちゃ美味いって誉めてたぞ。」
    「本当?ふふ、嬉しいな。」

    嬉しそうな白藤が愛しく、今一度唇に触れた。
    もう一度抱き締めて、白藤を解放する。

    「じゃあ入ってくるわ。」
    「うん。」

    風呂から上がり髪を拭きながらリビングに入れば、白藤がミモザたちにご飯をやっており、ミモザが機敏な動きで芸をしている。
    それを見ながら椅子を引けば、白藤が振り返った。

    「あ、ね、司くん。見て見て、ミモザが新しいお手覚えたんだよ!」
    「ん?」

    手招く白藤に近寄れば、白藤はミモザにお手三回と言って手を差し出す。
    するとミモザは先ずは右前足と顔を乗せ、顔と足を降ろす。
    今度は右前足のみのお手をして、最後は両前足を白藤の手に乗せた。

    「ふっ、」

    見た瞬間あまりの可愛さに中山が吹き出し、顔を背けくっくっと喉を鳴らして笑う。
    ドヤァと言う顔をしているミモザと白藤にもう一回と指を立て、携帯を構え、白藤とミモザを画面に納め、録画ボタンを押した。

    「ミモザ、もう一回だって。お手三回。」

    先ほどと同様のお手をしたミモザに偉いねぇ!と白藤がミモザを撫で、嬉しそうかつ誇らしげなミモザに中山はやはりくっくっと笑いながら、停止ボタンを押した。

    「可愛すぎ。」
    「でしょ?」

    ふふんと誇らしそうな白藤も可愛く、中山は類もミモザも可愛すぎと歯を見せて笑ったのだった。
    素で楽しそうな中山に白藤も嬉しくなった。

    「ふふ、ミモザ、良し!スミレも食べていいよ!」

    白藤の合図に二匹がお皿に顔を突っ込み食べ始めたのを見て、立ち上がる。

    「ご飯をよそうね。」
    「ああ、サンキュ。」

    微笑んだ後に携帯を見ながら、くっくっと笑っている中山は相当ツボにハマったらしい。

    (あとで動画見せて貰お。)

    そう思いながら、ご飯を茶碗によそった。
    中山の前に茶碗を置き、自身の分もよそった白藤が席についたのを確認して、二人で手を合わせる。

    「「いただきます。」」

    食前の挨拶をして食事を開始した。

    「ん、今日のも美味い。」
    「ふふ、良かった!」

    他愛のない話をしながら食事を進めれば、中山が口を開いた。

    「式場な、」
    「うん。」
    「ゲストハウスはどうだ?」

    ゲストハウス?と首を傾げた白藤にこれ。と中山は携帯を見せた。
    行儀が悪いとは思いながらも、白藤は携帯をタップしてフリックした。
    ざっと目を走らせて、パチッと瞬きを一つ。

    「これ、凄くいい!作るの楽しそう!!」
    「だと思った。」

    目をキラキラさせた白藤が満面の笑みを浮かべて、自分の予想通りの反応をしてくれた白藤に思わず笑みがこぼれた。

    「ならゲストハウスで式場探ししような。」
    「うん!」

    頷いた白藤が携帯の電源を落とし、中山に返す。それを受け取り、また食事を再開する。

    「それとは別に顔合わせ食事会も考えねぇとな。」
    「それもそうだね。」

    そのまま話題は顔合わせ食事会の件へ。

    「美味しいお店もそうなんだけど、僕の両親は京都だし。お義母さんたち福岡だから、する場所に悩むね。」
    「だな。東京に来て貰うか、京都もしくは福岡でするか。」

    金は俺らが出すとしてもなとおかずを口に含みながら中山は眉を寄せる。

    「もっと極端に言えばリモートってのもあるが…。」
    「大事な顔を合わせがそれでいいのかって話だよね。」
    「それな。」

    二人で頭を悩ませる。

    「確認してみる?」
    「その方がいいか。」

    そのタイミングで食事を終えて、片付けてから一度両親に連絡を入れてみる。
    白藤の両親も中山の両親も東京でも構わないとの事でじゃあ旅費を振り込むと言えば大丈夫だと断られた。
    結納も大丈夫だと言う事なので、本当に軽く食事をする事に決まった。
    此処で好き嫌いも聞いて、改めて日付と店の連絡をすると伝えて一度電話を切る。

    「どっちも東京でいいみてぇだな?好き嫌いがねぇのは助かるわ。」
    「うん、美味しいお店見繕わないと。あ、そうだ、服。」
    「そうか、服揃えた方がいいよな。」

    うんと頷いた白藤がメッセを打つのを確認して、中山も同様に服と予定について問う。
    両親の予定と服を確認して、擦り合わせていく。

    「これなら正月明けか?年末と年始はバタバタするだろうし。帰省ラッシュもあるから面倒臭いだろ。」
    「それもそうだね。」

    中山が頭をかきながらそう言い、白藤は頷く。

    「じゃあ正月明けって送るね。」
    「服はお袋たちが白藤さんに合わせるって言ってたから、着物って伝えとく。」

    うん、お願いと頷いた白藤が中山に問い掛ける。

    「あ、司くん、今年は帰省する?」
    「今年は辞めとくわ。まあGWに帰ってるし、式準備もあるだろ?」

    類は?と言う言葉に白藤も僕も辞めとくと微笑んだ。

    「今年も二人きりだな。ミモザとスミレも居るが。」

    にぃと笑った中山に白藤はぷくぅと頬を膨らませる。

    「今年はえっちばっかするのやだよ?」

    きっぱりと言いきられた言葉に中山が肩を竦める。

    「しっかり釘刺してくるな?」
    「去年ずっとえっちしてたの嫌って言ったでしょ。」

    言ってたなぁと思わず遠い目になった中山に約束だからね?と白藤に拗ねたように返され、降参の意を込めて両手を上げたのだった。

    「けど今年はミモザとスミレも連れて除夜の鐘突きに行こうな。」
    「うん!」

    それは行きたい為に白藤は嬉しそうに頷く。

    「あと今年は海に日の出見に行きたいね。」
    「山登りもいいけどな。去年は山登らなかったろ?」
    「司くんのせいだよ?」

    またぷくっと頬を膨らませた白藤にそうでしたと中山はまた両手を上げた。

    「ま、今年は海に行こうな。海は山より近くだし。」
    「うん。今年は除夜の鐘突いたら普通に帰ってきてから明け方に近くの海だね。ミモザとスミレ連れて。」
    「だな。」

    顔を見合わせて二人で微笑んだ。

    「じゃあ正月明けにする事伝えて、お店ちょっと調べてみよ!」
    「だな。」

    頷いて両親にメッセを送る。返信が来る前にお茶を入れて、一度ソファへ。
    そのタイミングで日付の確認が出来たので、ソファに改めて腰を降ろす。
    中山たちがソファに腰を降ろしたのを確認したミモザとスミレが二人の膝に乗ってきた。
    膝に乗ってきた2匹を撫でながら、白藤の携帯を一緒に覗き込んだのだった。

    「着物なら料亭?」
    「だろうな。」

    良さそうな料亭をピックアップしていき、口コミや星の数も確認する。

    「けど口コミだけじゃ信用は出来ないよね…。一回食べてみないとかな…。」
    「そのピックアップした料亭、弊社のグルメ雑誌に載ってねぇか、ちょっと調べてみるか。バックナンバーとか。」

    その上で一回食いに行くか?と問い掛けた中山にそうだねと白藤も頷いた。
    料亭の選別は一旦保留にして、式場探しに移る。

    「あ、そうだ。スミレ、一旦膝から降りてくれるか?」
    「んにゃ?」

    不思議そうなスミレが中山の言う通りに膝から降りる。
    中山が立ち上がり、自身の仕事鞄の方へ。
    鞄を開けて、昼に友人から貰った資料を取り出した。それを持ち、またソファへ。
    ソファに改めて腰を降ろし、スミレを手招く。
    スミレは今一度中山の膝に乗り丸くなった。

    「これ。」
    「これどうしたの?」

    差し出された式場の資料に白藤が目を丸くする。

    「ダチが丁度、作家先生の為に資料で持ってて、結婚すんならやるって貰った。」
    「そうなの!?凄いタイミングだね!?」
    「正直俺も驚いた。けどまあ有り難く貰った。」

    パラパラと資料を捲る白藤が凄い色んな角度の写真あるとぽつりと呟く。

    「まあトリックの為にこんな所まで撮ってんのかってのはあるが、ある程度想像はしやすいだろ。」
    「うん。」

    資料に目をキラキラさせている白藤が可愛く、中山は目を細めて白藤の顔を眺める。

    「因みにゲストハウスは後ろから見た方が早い。」

    ソファの背凭れに肘を置いて、指を指す。
    そうなの?と言いながら、資料を後ろから見だした白藤が本当だと一枚一枚捲っていく。

    「司くんは見ないの?」
    「ん?俺は類が式やりてぇと思った所でいいし、気になるのを見つけたら見せてくれればいい。」

    それより目をキラキラさせて可愛い顔してる類を見てたいし。と中山は笑った。
    中山のストレートな言葉に思わず白藤は顔を赤くした。

    (…司くんの眼差しも声も甘過ぎるよ。照れちゃうよ。)

    資料が頭に入らず、下を向いた白藤の髪を耳に掛ければ、中山が昨年のクリスマスに贈った藤のピアスが揺れる。
    ふっと笑った中山がまた甘く囁く。

    「類、顔真っ赤。可愛いな。」
    「っ、」

    心臓が早鐘を打つ。

    「類。」

    名前を甘く呼ばれて耳にキスされる。

    「…ゃ、」

    びくっと身体を跳ねさせた白藤に喉を鳴らした中山。
    中山たちの雰囲気感じとった様子のミモザとスミレが膝から飛び下りた。
    そのまま中山は白藤をソファに押し倒す。
    艶やかに笑った中山に見下ろされて、白藤も思わず目を伏せた。
    口付けが降ってきて、ピアスを外される。

    「…ぁ、だめ、」
    「駄目じゃねぇだろ?期待してる顔してる。」

    思わず口先だけで拒否したが、身体は期待して熱が灯る。
    言い当てられて、中山の冷たい手が服の中へ。
    白藤は素直に中山の首に腕を回したのだった。



    昨日と違い、緩く甘く優しく愛された白藤は改めて中山に背中から抱き締められながら、座って資料を見ている。
    今度は中山も一緒に資料を見ていた。

    「此処良いなぁ。」
    「此処?」
    「うん。緑もたくさん有るし、ミモザとスミレも嬉しくないかな?」

    本日はリビングで自由にさせている2匹を思い浮かべて口を開く。

    「あー、そうかも知れねぇな。」
    「第一候補此処でもいい?」
    「ああ。」

    じゃあとサイドテーブルの引き出しから付箋を取り出した白藤がペタリと付箋を貼った。
    他にも気になる式場に付箋を貼っていく白藤にこの中で見学に行きたいのは?と中山が問い掛ける。

    「第一候補の所は絶対見たいな。あとは、」

    3ヵ所程上げた白藤に分かったと中山が笑いながら頷く。

    「それも何時行くか決めねぇとな?」
    「うん、瑞希への指輪の依頼とプランナーさんの所に行った後かな。」
    「その日か?」

    目を丸くした中山に白藤は首を横に振る。

    「んーん、そう言う訳じゃないよ。式場見学の依頼する時の状況によるよね。」

    まあそりゃそうかとと中山も返す。
    次の休みに電話掛けてみると言う白藤に分かったと頷いた。
    するとカリカリと扉が引っ掻かれ、次の瞬間。
    キィと扉が開き、スミレとミモザが顔を覗かせる。

    「んにゃ~。」
    「わふっ!」

    可愛く鳴いている2匹に思わず目を丸くした中山と白藤。
    スミレが伸びをして取っ手に手を掛けている為、恐らくスミレが開けたらしい。

    「スミレ、扉開けられるようになったの?」
    「にゃあ!」

    返事するように鳴いたスミレに中山がマジかと溢す。
    そのまま2匹がベッドに上がって来て、丸くなった為に二人は顔を見合わせる。

    「寝るか。」
    「だね。」

    中山が声を掛けて、白藤も頷く。
    寝転んで何時ものように腕を伸ばした中山の腕に白藤が頭を乗せた。

    「おやすみ、類。」
    「うん、お休み司くん。」



    結果、見学も結婚相談カウンターと指輪依頼の日と同じ日になった。

    「結構ギチギチな予定だな。」
    「んー、まあ仕方ないね。第一候補の見学日、今日しかタイミング無さそうだったから…。」
    「カウンターが何れくらい掛かるか。」

    分かんないなと白藤が首を横に振る。
    カウンターに案内されて、二人で待っていれば、スタイル抜群でスーツを着こなした一人の女性が姿を現す。

    「日森雫と申します。この度ご結婚誠におめでとうございます。…あら、司くん?」
    「は?雫?」
    「プランナーさんと知り合いなの、司くん?」

    水色の髪をサイドで纏めた、一見するとアイドルやモデルでもやっていそうな、口元の黒子が印象的なとても美人な彼女は名刺を差し出してから中山の顔を見て、目を丸くした。
    中山も目を丸くしており、一人分かっていない白藤のみ二人の顔を交互に見た。

    「咲希の幼馴染みの姉なんだ、雫は。」
    「そうなんです。小さな頃は公園で遊んだ事も何度か。司くんが中学に入ってからは疎遠になっていたんです。私が私立の中~大のエスカレート式の女子校に行ったので。」
    「そうなんですか。」

    瞬きする白藤。恐らく事実なのだろう。
    実際、雫は中学の中山の事を知らなさそうだ。

    「司くん。咲希ちゃんは元気?」
    「元気だ。院でピアニスト目指してる。志歩の方は?」
    「とても元気よ。警察学校で警察目指して勉強中よ。」
    「それなら良かった。志歩ちゃん、寮だからなかなか会えないって咲希が言ってたからな。」

    兄と姉の顔をしている二人に白藤はまた瞬き。
    白藤が置いてけぼりになっている事に気付いた雫が改めて向かいに座る。

    「さて、世間話は此処までにしましょう!相談に乗りますね。」

    改めて結婚式について話を始めた。

    「素敵な結婚式にしましょうね。私、二人の結婚式がもっと素敵になるように頑張るわ!」

    両腕を握って少し縦に振った雫に二人で今一度頭を下げた。
    相談自体は初日な事もあり、思っていたよりそんなに時間は掛からず、時刻は11時を過ぎた所だ。

    「暁月の店に行くのは13時だろ?少し早いけど昼食うか。」
    「うん、大丈夫。」

    腕時計を見ながら問い掛けた中山に頷いた白藤があ、そう言えばと手を叩く。

    「相談所行く道にちょっと気になるお店があったんだ。お昼そこにしない?」
    「ああ、いいぞ。」

    ありがと!と笑ってお礼を言った白藤と一度運転を変わる為、キーを渡す。
    運転席に座った白藤がシートベルト大丈夫?と問い掛けて来て、中山は頷いた。
    それを確認した白藤がエンジンを掛けて車を発進させた。
    少し車を走らせて、白藤がある店の前で駐車する体勢になる。
    店前の駐車場に車を停めて、エンジンを切った。

    「此処!」

    車を降りて店を見上げた中山が読み上げる。

    「創作イタリアン?」
    「うん、凄く気になったんだ!」

    入ろ!と満面の笑みを浮かべる白藤に頷き店内へ。

    「いらっしゃいませ!」

    小ぢんまりした店内は直ぐ目の前にキッチンがある。
    この店のシェフであろうオレンジ髪をオールバックにしている男性が張り付けた笑みを浮かべた。

    (あの笑顔、本当の笑顔じゃねぇな。俺と同じだ。)
    「…あれ?」

    自身が猫を被っている時と同じだと中山がシェフの笑顔を考察していた時に、白藤が驚いたような声を出す。

    「もしかして東くん?」
    「…え、白藤センパイスか?」

    シェフの彼も目を丸くした。

    「うん、久しぶりだね。お店持ったんだね?」
    「まあ、お陰様で。」

    ふわっと微笑んだ白藤にシェフの彼は少し照れながら頭を下げる。
    それに中山の機嫌は急降下していく。

    「え、彰人。この美人さんと知り合いなの?いや、冬弥も負けず劣らず美人だけどさ。」

    恐らく見習いの彼女がシェフと白藤を交互に見る。

    「白藤センパイと冬弥が美人なのは否定しねぇ。けど変な関係じゃねぇから、白藤類センパイは普通に元バイト先の先輩だ。まあかなり世話になったけどな。」
    「司くん、彼は元バイト先の後輩の東彰人くん。東くんも言ってるけどそんな関係だったこともないよ。多少勉強を教えたりはしたけれど、普通の可愛い後輩くん。だからあからさまに機嫌悪くしないで?」

    彼の言葉と白藤の言葉は同時だった。
    ただの先輩と後輩と言う言葉に少し安堵した中山だったが、ふと彼と彼女の言葉が気になった。

    (ん?今、冬弥って言ったか?いや、まさかな…。)
    「彰人、言われた物を買ってきたぞ。」
    「ああ、冬弥助かった、サンキュ。」

    その瞬間、裏口から中山には聞き覚えのある声が聴こえてくる。
    こちらに来た男性はツートンカラーの泣き黒子のある美人な男性。だが中山には見覚えのある顔だ。

    「冬弥!?」
    「…え、司さん?」

    思わず相手の名前を呼んで立ち上がれば、その相手も目を丸くした。
    他人のそら似でなければ、恐らく彼は世界的バイオリニストの青木冬弥ではなかろうかと白藤は目をぱちくり。

    「帰国してたんだな?」
    「ええ、今は休暇中です。けど来週にはまた向こうに、リサイタルがあるので。」

    今度は中山と親しげな彼に彰人の方が機嫌が悪くなっている。

    「まあ、取り敢えず積もる話もあると思いますし、食事しながらにしません?お店ももうちょっとしたら忙しくなってきちゃいますし!」

    彼女の提案にまあそれもそうかと中山と白藤はカウンターに座る。
    ツートンの彼もカウンター側へ、そして何故か彼女もカウンターに座る。

    「いや、杏、おまえは働け。」
    「バレたか!」

    てへっと舌を出した彼女は厨房側へ。

    「センパイ、ご注文は?冬弥はまかないな。」
    「ああ、それで大丈夫だ。」
    「どうしようかな、東くんのオススメにしようかな。」
    「畏まりました。で、あんたは?」

    明らかにツートンの彼と中山が知り合いと知ってから彰人の態度が悪くなっており、中山はそんな彼に内心イラッとしつつ、類と同じでと返す。
    自分も白藤と彼が知り合いと知って大層機嫌が悪くなってしまったので、彼の態度に反発出来やしない。

    「改めて自己紹介しようか。」

    そんな中山に気付いている白藤がまあまあと中山を嗜めつつ、自己紹介を提案する。
    そのまままず自分の自己紹介。

    「僕は白藤類。シェフである東くんの元バイト先の先輩になるんだ。」
    「中山司。隣に座ってる冬弥の従兄弟で、類の婚約者だ。」
    「従兄弟!?」

    料理をしながら、目を丸くした彰人がツートンの彼、冬弥を見る。冬弥は頷いて、自己紹介。

    「俺は青木冬弥と申します。司さんの従兄弟でこの店のシェフである彰人の婚約者になります。よろしくお願いいたします、白藤さん。」
    「よろしくお願いします、青木さん。えっと、大変失礼なのですが、バイオリニストの青木冬弥さんなのですか?」
    「一応そうなります。」

    少し苦笑した冬弥に白藤は目を丸くした。

    「司くんの従兄弟だったんだ…。僕、青木さんバイオリンがとても好きで、CDを持っていますよ。」
    「本当ですか?ありがとうございます。」

    ふわりと微笑んだ冬弥と改めて握手をした。

    (本当にびっくりだ。)
    「けど、東くんの婚約者だって僕たちに言って良かったんですか?」
    「それはまだオフレコでお願い致します。ですが、司さんも居ますし言っておきたかったんです。」
    (もしかしたら青木さんとは話が合うかも知れない。何となく立場が同じだと思うから。)

    照れたように笑って話す冬弥に、内心そんな事を思いながら白藤は頷く。

    「東彰人。この店を経営してる。白藤センパイの元バイト先の後輩で冬弥の婚約者になる。」
    「はーい、私は白井杏です!この店のまだ見習いですけど、パティシエになります!」

    よろしくね、白井さんと白藤が微笑み、杏は満面の笑みではい!と頷いた。
    暫く雑談をしていれば、目の前にサラダとスープが置かれる。

    「中山さんでしたよね、さっきはすんません。」
    「いや、俺も態度悪かったしな。」
    「お互い美人な婚約者を持つと大変っすね。」

    囁かれた言葉に中山は目を瞬き、そうだな。と笑った。
    彰人も自分と同じで婚約者と相手の関係を邪推して睨んだ事に対しての謝罪の意もあるのだろうと理解して、案外彼とは話が合うかも知れないと中山はふっと笑う。
    彼もどうやら半分猫被りをしているようなので。
    メインを置かれた頃に店のベルが鳴り、続々と客が入店して来る様子に爽やかに笑った彰人がいらっしゃいませと微笑み、杏が満面の笑みで元気良くいらっしゃいませ!!と笑った。

    「青木くんは裏に行った方がいいんじゃないかな?」
    「ですね。では俺は失礼します。あ、白藤さん良ければ俺の連絡先です。司さんをよろしくお願いいたします。」
    「うん、こちらこそだよ。ありがとう。これが僕の連絡先だよ。東くんをよろしくね。」

    差し出された冬弥からの連絡先を受け取り、自身の連絡先を書いて冬弥に渡した白藤に冬弥は微笑み頭を下げる。

    「司さん、白藤さんまた。」
    「ああ。」
    「うん、またね。」

    暫く話した事で打ち解けた白藤と冬弥に中山は自然と笑っていた。
    冬弥が裏に引き上げて行くのを見送れば、杏が小首を傾げて問いかけてくる。

    「あれ?冬弥は?」
    「人が増えて来ているから、裏に行くように促したよ。青木くん有名人だから。」
    「あ、なるほど!ありがとうございます!」

    にぱっと笑った杏がデザートご用意しますねー!と空になっている中山と白藤の皿を回収して奥へ。
    彰人は彰人で注文でバタバタしているらしく、そんな彰人に白藤はくすっと小さく笑った。

    「本当に良かったね、東くん。」
    「なあ、類。東って昔からイタリアンのシェフが夢だったのか?」

    笑って見守っている白藤に中山が不思議そうに問いかけてくる。

    「うん、多分そうじゃないかなぁ。東くん高校の時のバイト自体は一年毎に色んなお店でバイトしてたみたい。前はフレンチと中華って言ってたかな。けど最終的に僕が働いてたイタリアンの店で働いてたから。高校三年から調理師専門学校卒業するまで同じ所だったよ。因みに高3の受験時は勉強教えたし。」
    「へぇ。ああ、だから東がかなり世話になったって言ってたのか。」

    納得した様子の中山に多分ね。と白藤は微笑む。

    「因みに類はそこは何年くらいバイトしてたんだ?」
    「僕は大学卒業前までそこでバイトしてたよ。だから通信でも調理師免許を取れたんだよ。実務がいるからね、免許取るには。」
    「なるほどな。」

    感心した様子の中山に白藤は苦笑する。

    「凄くいいオーナーさんだったんだよ、そのお店のオーナーさんも。就活に失敗しちゃった僕に、ならうちの店で働きなって言ってくれたんだけど、前も言ったように料理を完全な仕事にはしたくなかったし、そこまで迷惑も掛けられないから、丁重にお断りさせて貰ったんだ。東くんは下積みも兼ねて卒業後もそこに就職したみたいなんだけどね。」
    「それで飛び込んだのが今の古書店か?」
    「うん。そう。」

    白藤が頷いた所で杏がデザートを運んできた。

    「お待たせしました!!」
    「白井さん、ありがとう。」

    礼を言ってデザートに口をつける。

    「ん、美味しい!」
    (てか、本当に不思議なんだが、類は何で就活に失敗したんだ?あとで詳しく聞いてみるか。)
    「わーい!ありがとうございます!!」

    顔を綻ばせた白藤に杏は嬉しそうに笑った。
    食事を済ませて、レジへ。
    お金を払い、白藤が声を掛ける。

    「ご馳走さま、東くん。美味しかったよ。腕上げたね。」
    「あざっす。」

    彰人も何処か嬉しそうだ。

    「また来るね。」
    「ええ、お待ちしてます。」

    それから此処にちょくちょく来るようになり、結婚式で出す料理を彰人にお願いする事になるのはまだもう少しだけ先になり、その上で仲良くなった杏から結婚式でのカメラマンを紹介されるのももう少しだけ先になる。

    「美味しかったぁ!じゃあ瑞希の店に行こ!」
    「ああ。」

    次の目的地は瑞希の店の為、また運転は白藤だ。
    発進した車で中山は問いかける。

    「なあ、類。聞いていいか?」
    「うん?何?」
    「いや、前から不思議だったんだが、類は何で就活に失敗したんだ?頭いいし、資格もちゃんとあるだろ?」

    問いかけられた問いに笑わない?と白藤が伺ってくる。

    「ああ。」

    頷いた中山に白藤が口を開く。

    「失敗した理由ね、僕の顔なんだ。」
    「…顔?」

    思いもよらない返答に中山が抜けた声で問い返した。

    「大学はさっきも言ったようにとても良いところに採用して貰ったんだけどね、高校の時のバイトは人間トラブルに巻き込まれて、就活はその関係で失敗したんだ。」
    「…マジで?」
    「大マジ。高校はね、バイト先の子たちが僕の事で喧嘩したりとかでトラブルになるから凄く頼りになるけど辞めてくれって言われたり、その店長さんに関係を迫られたりして辞めざるを得なくて。」

    白藤の顔の良さ故かと中山は目を丸くした後に、関係迫られたと言う言葉に思わずイラっとする。
    そんな中山に気づかず白藤は続けた。

    「就活はそれを引きずって短期間でバイト転々としていることで責任感がないんじゃないかとか、まあそれは仕方ないんだけど。」

    苦笑した白藤が何とも複雑そうな顔をする。

    「あと顔で邪推されたりとか。酷い所は顔と身体で単位を取ったんじゃないかと言われた所もあったな、そんな事ある訳ないのにね…。けどそれで不採用ばかりだったんだ。」
    「?それはセクハラだろ、んな所は絶対辞めといて良かったぞ。」

    顔と身体で取ったと白藤が言われた事に中山が腹を立てて、ド低音で吐き出す。

    「…なあ類、その顔と身体で取ったとか言ってきた所だが、セクハラされながら何か言われたりしたんじゃねぇの?例えば君が自分の愛人になるのなら採用してもとか。」
    「凄いね、司くん。その通りだよ。面接終わった後に面接官の1人の人が僕に近づいてきてね、お尻と腰撫でられて、耳元で似たような事言われたんだ。だからそこは丁重にお断りしたよ。」
    「やっぱな!就活生にんな事言う会社、ぜってぇろくなところじゃねぇと思った!!」

    半分キレている様子の中山に白藤は苦笑して、また続ける。

    「その中で一度だけ採用されたんだけど、試用期間中に僕目当ての女の子とか男性がどんどん図書館に集まっちゃって、本を読まずに仕事してる僕を女の子たちが追い掛けたり、男性に至っては仕事中に口説いてきたりとかして、真面目だけど他の方の迷惑になるから申し訳ないけどって本採用になる前に不採用になったりしたんだ。まあ純粋に本を楽しんでいる方からの視線は痛かったし、本好きな人に迷惑掛けて申し訳なかったな。」
    「因みに何でそんな事に?」
    「…分かんないんだけど、人の噂が呼んだのかなって思ってる。日ごとに人が増えてたから。」

    思わず唖然とした中山。
    人の口に戸は立てられぬと言えど、あまりにも酷い。

    「それでも片っ端から図書館や本屋を回ったんだけど、やっぱり駄目で最後の最後に飛び込んだのが今のオーナーたちのお店なの。店に入った瞬間働かせて下さい!!って言われてオーナーたちは目が点だったと思うよ。」

    苦笑している白藤がその当時の事を話す。

    「飛び込んで、働かせて下さいって土下座した僕に詳しく話を聞かせてくれるかな?ってオーナーたちが言ってくれて、お茶出してくれてね。理由を全部話したんだ。」

    白藤が思い返すように目を細めた。

    『まあ、それは大変だったわね。』
    『うちで良ければ働いてくれるかい?』

    そう言って頭を撫でられて思わず泣いてしまった白藤が泣き止むまでオーナーたちは頭や背中を撫で続けてくれた。

    「類にとってオーナーたちは本当に恩人なんだな。」
    「うん、そうなんだ。」

    ふわっと微笑んだ白藤に中山も目を細める。

    「あ、司くん。着いたよ。」
    「ん?ああ、サンキュ。」

    瑞希の店に到着して、車を停めた白藤に礼を言い、車から降りる。
    車の鍵を閉めて、瑞希の店の中へ。

    「あ、類、中山さんいらっしゃーい!!結婚おめでと~!!」

    店内に入れば、瑞希の元気な声と拍手が聞こえる。
    前と変わらないこぢんまりとした店内のレジカウンターの向こうで瑞希が手を振っていた。

    「瑞希、まだ籍入れてないよ?」
    「でも結婚指輪作るんだから、結婚してるも同然でしょ。」

    にんまりと猫のように笑う瑞希にもうと白藤は目を細めた。

    「けど本当にボクに指輪の作成依頼してくれてありがと!ボク、端正込めて頑張って作っちゃうよ!!」

    ぐっと拳を握り上下に振った瑞希に中山も目を細めて頼むと微笑んだ。

    「まっかせて!!」

    嬉しそうな瑞希はじゃあ早速だけど、こっち来てと二人を手招く。
    案内されたのは裏の作業場の前の休憩室のような所だった。

    「座って~。」

    瑞希が椅子を手で案内して、二人が座る。
    瑞希が向かいに腰を降ろした。
    そのままペンと紙を持った瑞希がどんな指輪がいいと問い掛けてきた。
    中山と白藤は顔を見合わせて、どんな指輪がいいのかと話始める。
    ミモザとスミレを掘って欲しいや職場に付けて行くからシンプルなのがいいなど一つ一つ希望を上げた二人にふむふむと頷きながら瑞希がメモを取っていく。
    一通り希望を述べた二人に以上?と問い掛けてきた瑞希に中山が最後にと口を開いた。

    「二世の愛を誓うって裏に掘ってくれないか?これだけは絶対に頼む。あとのはデザインの都合上無理なら暁月に全部任せるから。」

    目をぱちっと瞬いた瑞希。白藤は目を丸くした後にじわっと瞳が潤んだ。

    「…司く、」
    「泣くなよ、類。」

    そんな白藤の頬を撫でながら、目尻に浮かんでいる涙を指で拭う。
    二世の縁から来世も共にあれるように、夫婦でいられるようにと言う願い。
    それは白藤にも瑞希にも伝わったらしい。

    「分かったよ。それは絶対掘る。」

    中山の目を見てしっかりと頷いた瑞希に中山が頼んだと返せば、瑞希は目を細めて白藤を見る。

    「類、本当に良かったね。」
    「…ん、」

    ポロポロと泣きながら頷き、ふにゃっと笑った白藤に改めて絶対幸せにすると中山は心に決めた。
    他にも細かい事を決めて、今一度瑞希に礼を言って、店を後にする。
    今度は式場の見学に向かうため、運転を交代。
    ナビで式場の住所を打ち込む中山に白藤が口を開いた。

    「司くん、本当に二世の愛を誓ってくれるの…?」
    「当たり前だろ。絶対来世も類を嫁にする。永遠が今生だけならその永遠も越えてな。」

    ありがと…とポロポロと涙を流して笑った白藤に中山は目を細めて、白藤に口づける。
    パッと離れて、鼻が触れ合う距離で中山は口を開く。

    「類は?二世は誓ってくれねぇの?」
    「僕も誓う。来世も司くんのお嫁さんになりたいもん。」
    「上等。」

    中山の目を見て伝えてくれた言葉にニッと笑い、今一度唇を触れ合わせて、離れる。

    「じゃあ見学行くか。」
    「うん。」

    ふにゃっと笑った白藤に目を細めて、車を走らせた。
    式場に着き、案内されながら辺りを見回す。

    (此処、やっぱりいいな…。)

    だが、他にも見学の予約はしており、見比べてからでも遅くはない。
    見学が終わり、今一度車に乗れば中山が声を掛けてくる。

    「類、ほぼ此処が良いとか思ってんだろ?」
    「え、何で?」

    目を丸くした白藤に何となくと中山は口角だけで笑った。

    「まあ式場に関しては来週にも2軒行くし、それからでも遅くはねぇけどな。」
    「うん…。けど6月なら早めに予約はするべきなんだけど…。」
    「まあジューンブライドだからな。」

    来週も大丈夫だといいなと中山がまた笑い、白藤は頷いたのだった。
    翌週に2軒の見学先を見て、やはり先週の所がいいと思った白藤。
    連絡してみるかと中山が連絡した所、白藤の誕生日はたまたま空いており、式の予約をした。

    「良かったな。空いてるってよ。」
    「うん。」

    ふにゃっと幸せそうに笑った白藤にキスしたくなり、中山はキスを落とした。



    そしてクリスマスイブイブの定時。
    去年のクリスマスは中山が急遽仕事になったが、今年は担当している漫画家の先生たちのゲラの遅れもなく、無事に迎えられそうだと自身のデスクで笑みを浮かべた。

    「あら?中山くん随分と嬉しそうね?何かあったの?」

    たまたまその笑みを明子に見られ、中山は少しだけ照れ、頬を掻く。

    「お恥ずかしい所を。いや、去年のクリスマスは恋人を随分と待たせてしまったんですが、今年はちゃんと一緒に過ごせそうだなと思いまして、それが嬉しくて、つい笑みが溢れてしまいました。」
    「あらあら。」

    明子は楽しそうに目を細め、良かったわねと中山の背中を叩く。

    「けど明日も仕事よ!浮かれるのもほどほどにね!中山くんなら大丈夫だと思うけど、一応ね!」
    「ええ、明日もしっかりと働かせて貰います。」
    「ええ、お願いね!じゃあお疲れさま、また明日ね!」

    ひらっと手を振った明子にお疲れ様ですと頭を下げて会社を後にした。
    帰宅すれば、何時ものようにミモザとスミレ、そして白藤が出迎えてくれる。

    「お帰り、司くん。お仕事お疲れ様。」
    「にゃ~!」
    「わふっ!」
    「ただいま、ミモザ、スミレ。」

    ミモザとスミレの頭を撫でて、白藤に向き直る。

    「ああ、類もお疲れ。ただいま。」

    そのまま白藤の首に手を回して、触れるだけのキス。
    ぱっと離れれば、白藤は中山の鞄を受け取り、お風呂湧いてるよと微笑んだ。

    「本当に何時もありがとな、類。」
    「ふふ、どういたしまして。」

    白藤を抱き締めて、風呂入ってくると返した。
    風呂から上がれば何時ものように白藤はミモザとスミレにエサをやっており、それを見ながらダイニングテーブルの椅子に座る。
    エサをやって、立ち上がり振り返った白藤がふわりと微笑む。

    「ちょっと待ってね。今、ご飯盛るから。」
    「ああ。」

    何時ものように頷いて返せば、白藤は伏せられていた中山の茶碗を取り、白米を盛る。
    中山の前に白米が入った茶碗が置かれ、白藤も自身の茶碗に白米を盛り、中山の前に座った。
    白藤が座ったのを確認して、手を合わせて食前の挨拶。食事を開始した。

    「今年はちゃんと定時に帰ってこれると思う。」
    「本当?ふふっ、なら明日、お休みだし腕に縒りを掛けちゃおうかな。」
    「楽しみにしてる。」

    嬉しそうな白藤に中山も目を細めた。
    白藤は何を作ろうかなと呟き、料理名を上げているのを聞きながら、プレゼントと別に花束について考える。

    (去年はガーベラを贈ったが、今年はどうするか。王道にポインセチアを類に贈るか。)
    「ご馳走さん。今日も旨かった。」
    「ふふ、お粗末様でした。」

    全て平らげ、しっかりと白藤の目を見て伝えれば、白藤はまた嬉しそうに微笑んだ。
    片付ける様子の白藤の隣に並び、手伝えば、白藤は何時もありがととまた微笑む。
    どういたしましてと返して、中山もまた目を細めた。

    「お茶にする?」
    「だな。」

    お茶の準備を始めた白藤にまた目を細める。
    食後のお茶も二人のルーティンで、同棲を始めてから欠かしていない。
    去年、同棲を始める前に贈った猫のカップは随分と使い込まれているなと中山は自然と笑っていた。
    テレビ側のソファに座り、お茶をしながら映画を見たり、読書をしたり、今日あった事を話したり、この時間は二人にとっては何よりも大事な時間だ。
    日によって二人の膝の上や間にはミモザとスミレが居るが、何か察しているのか月曜の夜のみ二人の近くに居ない事は余談だ。
    ふと話が途切れたタイミングで見つめ合う。
    白藤の瞳が伏せられ、顔を傾けられた。
    中山も引き寄せられるように白藤にキスをしていた。




    イブ当日、何時ものように白藤に見送られ出社した。
    トラブルもなく、仕事も無事に定時で終えられて達成感。
    今年は無事に聖夜を二人で過ごせると自然と笑みが溢れた。
    お疲れ様ですと挨拶をして、社を後にする。
    今年のプレゼントである財布を引き取り、何時もの花屋へ。

    (ポインセチア、何時もの花屋にあるだろうか。)

    車を駐車場へ停めて、花屋のドアをくぐった。

    「こんばんは。」
    「ああ、お兄さんお疲れ様!今年は定時で帰れたのかい?」

    すっかり顔見知りになった花屋の店主にええと頷く。

    「それで、今日はどんな花束にするんだい?」
    「ポインセチアはまだ有りますかね?」
    「ポインセチアかい!今日はクリスマスイブだからね、未だ有るよ!」

    笑顔を浮かべた店主にではポインセチアで花束をお願い出来ますか?と中山は微笑んだ。

    「どのポインセチアにするんだい?」
    「そうですね…俺の気持ちで私の心は燃えているな王道の赤も捨てがたいのですが、俺の恋人に似合う花言葉で言えば白の思いやりと清純、ピンクの慕われる人なんですよね…。どちらにしようかな。いっそ混ぜてみようかな。」
    「やっぱお兄さん博識だねぇ。いいんじゃないかい?」

    目を細めた店主が頷く。

    「なら三色とも混ぜようか!きっと彼女さんも喜んでくれるさ!」

    お願いしますと微笑んで花束が出来るのを待つ。
    数十分待っていれば、待たせたね、お兄さん!これでどうだい?と出来た花束を見せてくれる。

    (ああ、やっぱ此処の店主のセンスは間違いねぇな。)
    「ありがとうございます、それで。」
    「分かったよ、少し待っておくれ!」
    「ええ。」

    包んでくれた花束を受け取り、料金を支払う。

    「何時もありがとうね、お兄さん!また来ておくれ!」
    「ええ、また。」

    頭を下げて店を後にした。
    そんな中山を見送った店主は目を細めて小さく呟く。

    「毎回あのお兄さんは贈る本数の意味や花言葉を加味して彼女さんに花を選んでいるけど、本当に彼女さんの事を愛しているんだろうねぇ…。」

    帰宅し、鍵を開け扉を開ければふわり漂うのはシチューの良い香りだ。

    「旨そうな匂いしてんな。」

    思わず涎が出そうになる。

    「司くん、お帰りなさい。」
    「わふっ」
    「んにゃ~」

    何時ものように出迎えてくれた白藤と二匹にただいまと返す。
    そのまま白藤にキスして、花束をプレゼントする。

    「類、メリークリスマス。」
    「ポインセチアの花束?わぁ、クリスマスらしくて凄く可愛い!」

    受け取った白藤が嬉しそうに目を細めるのを見て、中山も自然と笑みが溢れた。

    「今日、めちゃくちゃ良い匂いしてんな?」
    「んふふ、今年は一緒に過ごせるって思ったから、腕によりを掛けちゃった!けど煮込みがもう少しだから、お風呂入ってきちゃって?」
    「ああ。」

    頷き玄関へ上がりながら、白藤の腰に手を添えて耳元で低く甘く囁く。

    「因みに類。今日の夜も良いのか?恋人たちの夜だろ?去年は結局出来なかったもんな?」
    「!」

    白藤が顔を赤らめて、中山を上目に見て司くんのえっちと唇を尖らせた。
    だが、白藤も中山の耳元で甘えた声で囁く。

    「明日は僕もお仕事だから、激しいのは駄目だけど一回だけなら良いよ?ゴムはちゃんとしてね、約束だよ?」

    白藤からお許しを貰ったがそう言えばゴムを切らしてなかっただろうか。

    「ゴム、この前全部使わなかったか…?」

    ひとっ走り買いに行ってくるかと思ったが、その後に続いた白藤の言葉に目を丸くした。

    「…ちゃんと買ってきたから、大丈夫。」

    赤い顔で恥ずかしそうに白藤が下を向く。

    (いや、類可愛すぎじゃねぇ…?いやつーか、もしかして…)

    今日の白藤は進んで一緒に風呂に入ってくれるのでは無かろうか。

    「な、類。今日風呂一緒に入らねぇ?」
    「…っ、司くんは一緒に入りた「入りたい。」く、食い気味…、」

    おずおずと問い掛けてくる白藤に被せる形で返せば、少しだけ白藤が引き気味に返す。

    「…お風呂でえっちしない?約束出来る?」

    上目で中山を見てきた白藤から目を逸らしながら返す。
    白藤の身体を見て、我慢出来る保証ができない。

    「…善処する。」
    「…それ絶対えっちするつもりでしょ、司くん。」

    なら駄目と言われてしまい、思わず舌打ち。
    舌打ちしても駄目な物は駄目。ときっぱり言いきられた。

    「分かった。ならちゃんと我慢すっから、一緒に入ろう。」
    「…絶対だよ?」

    上目で見て来た白藤に分かったと頷いて、抱き締めた。

    「ならお料理もう少し掛かるけど待ってて?」
    「ああ。」

    頷いて、ミモザとスミレに飯は?と問い掛ける。

    「未だ。けどミモザとスミレにも少しだけクリスマス使用のご飯あげるから。」
    「ああ、なら俺は余計な事しねぇ方がいいな。」
    「うん、出来るまでミモザとスミレと遊んであげて?」

    分かったと頷く。

    「取り敢えず、手、洗ってくるわ。」
    「うん。」

    ネクタイを外し、ボタンを開けながら洗面所から戻れば、渡した花束は水揚げされており、食卓を彩っている。
    そのタイミングでミモザとスミレのご飯も出来たようで、中山は皿の中を覗く。
    ササミなどが入ったちょっと豪華な手作りのご飯だ。

    「類、流石だな。」
    「ふふ、ありがと。」

    ふにゃっと笑った白藤がそのままミモザとスミレの方へ。
    何時もの様にミモザに芸をさせている間、スミレは大人しく待っており、ミモザが皿に顔を突っ込むと自分も食べだす。そんな2匹に目を細めた。

    「直ぐによそうね。」
    「ああ。」

    白藤が料理をよそい、目の前にあるのはビーフシチューとローストビーフ、サラダとそしてアクアパッツァ、パン。

    「アクアパッツァか!」
    「司くん、アクアパッツァも好きでしょ?」

    悪戯が成功したかのように笑った白藤は続ける。

    「あんまり作れなくてごめんね?」
    「いや、こういう日に作ってくれる方が嬉しい。」
    「ふふ、そっか。」

    あと、これだよね。とシャンパンを取り出した白藤に良いなと中山も目を細める。
    グラスにグラスに注いで、中山の前に座った白藤と乾杯をして香りを嗅いで、一口口に含む。

    「そういえば類、ビールや酒はグラス半分でも酔いつぶれるのにワインは普通に飲めるんだよな。」
    「けどワインもグラス1杯が限度だけどね。それ以上飲んじゃうと酔いつぶれちゃう。多分体質なのかも。」

    そう言いながら、サラダに手を伸ばし食べ、ビーフシチューを口に含んだ白藤が満足そうに首を振る。
    それに倣い中山も食べ始める。
    口の中でホロホロと溶ける肉にうっま!!と溢した中山にくすくすと白藤が笑う。
    アクアパッツァにも手を伸ばし、魚に箸を入れる。

    「これも美味すぎ!マジで類の料理最高すぎな!」
    「ふふっ、嬉しい。あ、ローストビーフも食べて、自信作なんだ!」

    ローストビーフに箸を伸ばして、口に含んだ瞬間。

    「これも美味っ!!ソース、めちゃめちゃ美味い!これも類が作ってんのか?」
    「うん。」

    箸が止まらない中山に白藤は幸せそうに笑う。

    「司くん、何時も凄く美味しそうに食べてくれるから、本当に作りがいがあるなぁ。」
    「なあ、類って今までの相手に料理って振る舞ってたのか?」
    「振る舞ってたけど、司くんほど良い反応してくれる人はあんまり居なかったかも。女の子には僕の方が料理が上手くて嫌って言われたこともあるよ。」

    いや、その女贅沢すぎだろ。と眉を寄せた中山にふはっと白藤は笑う。

    「今は司くんが居るから、もっとお料理が好きになってる。ありがと。」
    「俺こそ毎日美味い飯、ありがとな。」

    中山の言葉に白藤が頬をほんのり染めて、はにかんだ。

    「そういや、類は何で料理を始めたんだ?」
    「お料理を始めた理由か。」

    えっとねと白藤は顎に指を当てて少しだけ宙を見る。

    「実は僕、小さな頃はお野菜が大嫌いでね。」
    「マジで?」

    白藤の言葉に中山が目を丸くして、抜けた声。

    「マジ、今はちゃんと好きだけどね。」

    意外すぎると呟く中山に白藤は笑う。

    「でもね、母さんがどうにかして僕にお野菜を食べさせようとずっと頑張ってくれててね…。僕が小学校低学年の時に。」

    白藤はその頃を思い出し、懐かしむように目を細めた。

    『なぁ、類。一回類もお料理してみぃへん?』
    『なんで?』
    『頑張って自分で作ったもんやったらお野菜さんも美味しいかも知れへんよ?』
    『……ホンマに?』

    母の言葉に白藤はじとっとした目をした。

    「最初はお野菜を見るのも嫌だったぐらいなんだけどね。その時たまたまお料理をしてる児童小説を読んでて、ちょっとだけお料理に興味があったんだ。」
    「その時を狙って料理しないかって声を掛けたお義母さん様々だな?」
    「うん、本当に。多分僕が読んでた本をたまたまリビングに置いてたのも理由だと思うんだけどね。」

    くすっと笑った白藤は続ける。

    「それでね、キッチンに母さんと一緒に立って、初めて包丁持ったんだ。母さんこの為にわざわざ子ども用の包丁買ってきてたんだよ。」
    「そうなのか。」

    見るのも嫌だった野菜を初めて切った時のサクッと音が楽しく、切れた事も嬉しかった白藤は母に目を輝かせたそうだ。
    サクッサクッと言う音が気に入った白藤は包丁を持って野菜を切る事がとても楽しくなった。

    「お野菜も種類によって切る音違うでしょ?それが子どもの僕には凄く楽しくて、その時に色んな物切ったよ。」
    「色んな物切ったってことはその時は野菜炒めか?」
    「そうそう。お味噌汁用にお豆腐も切ったよ。大きさもまちまちで本当に酷いものだったけど、当時の僕は凄く楽しかったんだ。」

    また懐かしむように目を細めた白藤はまだ振り返る。

    「その後に踏み台に乗った僕の後ろに母さんが立ってくれて、お野菜を一緒に炒めてね、お野菜がどんどんしんなりしていくのも凄く面白かった。」

    『どんどんお野菜がしんなりしていく!面白い!』
    『類、お料理楽しない?』
    『楽しい!』

    母は満面の笑みを浮かべた白藤に慈愛たっぷりに目を細めた。

    『はい、完成。類、味見してみ?自分で作ったやつやで?』

    作ってなかったら絶対食べてなかった野菜。
    だがこれは自分が作ったんだと言う気持ちが強かった野菜炒めは食べてみようと言う気にさせて、白藤は初めてちゃんと野菜を食べた。
    そしてそれはとても美味しく感じたのだ。

    『類、どう?美味しい?』
    『…美味しい、お野菜にこんな事思ったん初めてや…。』
    『やったらそれは、自分で作ったって気持ちが強いんやわ。初めてでここまで上手に出来たんは類にはお料理の才能があるんかも知れんよ?』

    悪戯が成功したと言うような母。

    『これ、お父さんにも食べてもらおな?』
    『おん!』

    「それでね、父さんにも凄く褒められてね、自分が作ったらみんな喜んでくれるんだって思った僕はこの日から母さんのお料理の手伝いするようになったんだ。」
    「ふっ、類めっちゃ可愛いじゃねぇか。」
    「ふふ、ありがと。でもね、実は一人で作った一番最初のお料理は物凄く下手だったんだよ。」
    「そうなのか?」

    それも意外だなと呟いた中山に本当に酷かったんだよと白藤はくすくすと笑う。

    「だし巻き玉子は焦げて真っ黒だし、お味噌汁は出汁入れ忘れるし、鮭は生焼けだしで、悔し泣きする僕に母さんが頑張ったねって凄く褒めてくれて、それからもっと上手に作れるようになりたいって思うようになって、そこからこつこつとお料理の練習するようになったんだ。何となくのお手伝いだった最初と違って、母さんがどうお料理してるのかとかも観察するようになったし、レシピ本とかもいっぱい読んだよ。それが転じてデザート作る事も好きになったんだけど。」
    「なるほどな。類が努力家だからどんどん上達したんだな。今も俺の為にもっと深く栄養学も勉強してくれてるもんな。」

    それもありがとうなと目を細めた中山に白藤は照れたように頬をかく。
    そんな白藤が愛しくなった。

    「類、愛してる。」

    愛しそうに目を細めて此方を見ている中山に白藤の顔が熱くなる。

    「うん、僕も。僕も司くんを愛してる。」

    頬を染めてはにかんだ白藤に中山は自然と笑った。
    食事も一段落済み、デザート前にクリスマスプレゼントを差し出す。

    「開けていい?」
    「ああ。」

    包装紙を丁寧で解き、蓋を開けた白藤が財布?と目を丸くした。

    「財布を渡す意味は知ってるか?」
    「いつも貴方の傍に居たい、だよね?」
    「そう。今年は俺のせいで危なかっただろ?だから改めて俺の気持ちを示してぇと思った。結婚するし、包丁も捨てがたいと思ったんだが、いかんせん俺は料理をしねぇからどの包丁が良いかも分からなくてな…。」

    苦笑して、少しだけ照れたように頭をかいた中山に白藤は財布を抱き締めて、ありがとう、大事にするねと綺麗に微笑む。

    「僕からはこれ。」
    「開けていいか?」

    頷いた白藤から差し出されたプレゼントの包装紙を解く。
    蓋を開ければ、黒のシックな腕時計が入っている。

    「腕時計か!」
    「うん、最近司くん時計が遅れるって言ってたし…、」
    「もしかして意味も加味してくれてるのか?」
    「…やっぱり司くんなら絶対に意味を知ってると思った。」

    照れたような白藤が続ける。

    「同じ時を刻もうと女性からの意味は貴方の時間を独占したい。どっちも僕の気持ち。結婚するから同じ時を刻みたいと思ったし、僕、立場的には女性側だから、司くんの時間を独占したいって思って…。」

    恥ずかしくなったのか声が徐々に小さくなり、頬を染めて下を向いた白藤がはっとしたように手を前で振る。

    「あ、でもお仕事優先でいいんだよ!?ただ今年はさっき司くんも言ってたけど、もう駄目かと思った時もあったから…。」

    今度はその時の事を思い出したのか、一気に血の気が引いて落ち込んだような声に変わる。
    また下を向いた白藤に中山は思わず噴き出す。

    「ふはっ、ははっ!百面相だな?大丈夫。分かってるっての。」

    くしゃりと白藤の頭を撫でてから、中山は着けていた腕時計を外し、贈られた腕時計を着ける。

    「似合うか?」

    そのまま腕を見せて来た中山に白藤は頬を染めて頷いた。

    「うん、凄く似合ってる。時計見に行った時に絶対司くんの腕に似合うって思って即決だったんだ、それ。」
    「そうか。サンキュ、類。大事にするな。」

    時計を撫でて目を細めた中山に胸が高鳴り、耳まで赤くなるのに気づかれないようにデザート用意するね!!と椅子から立ち上がる。
    そんな白藤がやはり可愛く、中山はくっくっと喉を鳴らして笑った。

    (んとに、類は可愛いな。マジで可愛すぎなんだよ、見た目も中身も。本当に信じらんねぇな、こんなに魅力に溢れた類が俺の嫁になってくれんだから。俺は本当に幸せ者だ。)

    一度貰った腕時計を外して箱に仕舞う。
    目の前に置かれたケーキはプチケーキと言うようなサイズ感のショートケーキとチョコレートケーキだ。
    白藤はミモザとスミレのお皿にも中山の分と同じ一回り小さいショートケーキを置く。
    2匹に食べていいよと頭を撫でた白藤に中山が問い掛ける。

    「もしかして今年のケーキってミモザとスミレも食べれるように作ったのか?」
    「うん、去年は司くんと僕の分だけだったから普通にブッシュ・ド・ノエルを作ったんだけど、今年はミモザとスミレも一緒に食べられるようにって米粉と豆乳クリームでショートケーキ作ってみたんだよ。初挑戦!」

    だからちょっと自信ないけどと白藤は頬を掻いた。

    「いや、類が作ったもんだったらぜってぇ大丈夫だろ。」
    「本当に司くんは僕のお料理に全幅の信頼を置いてくれてるね。」
    「類の料理だからな。」

    ありがととはにかんだ白藤が席につき直す。

    「一応塗ってるクリームは僕らの分は分けて作ったんだけど、スポンジはミモザとスミレに合わせたから薄いかも。」
    「食ってみてもいいか?」
    「うん。」

    ショートケーキにフォークを入れて一口。

    「ん、」
    「どう?」
    「普通に美味いな。流石だな、類。」

    にっと笑った中山に白藤はほっと息を吐き出す。

    「クリーム、ちゃんと甘さ控えめに作ってくれてて助かる。」

    これなら1個は食えると言った中山に白藤は良かったと微笑んだ。
    そして自分もケーキにフォークをさす。

    「ん…、」
    「な?美味いだろ?」
    「クリームで大分緩和されてる気もするけど、これなら上出来かな?」

    なら来年はミモザとスミレにバースデーケーキも作ってあげようかなと白藤は微笑んだ。

    「それいいんじゃねぇの?まあ式が類の誕生日だから、スミレには当日には作ってやれねぇだろうが。」
    「そうだね、前日か翌日かな。」

    そんな話をしながら食事を終えて、片付け。
    何時ものように白藤が洗って中山が拭いて棚に仕舞う。

    「いつもありがと、司くん。」
    「俺がやりたくてやってんだよ。」

    ふわっと微笑んだ白藤に目を細めた中山。
    そんな中山にお茶飲む?と問い掛けてきた白藤に頷いた。
    茶を入れて、ソファの方へ。
    湯呑みを持ってソファに座ればミモザとスミレがソファに上がってくる。
    そんな2匹にもクリスマスプレゼント。
    嬉しそうな2匹が遊んで遊んでと言うようにそのプレゼントを押し付けてくるので、2匹と目一杯におもちゃで遊ぶ。
    疲れて寝落ちた2匹はしっかりプレゼントを抱えて寝落ちたのでその可愛さをしっかりと写真に収めて、頭を撫でた。
    気持ち良さそうに鼻を鳴らした2匹に吹き出し、顔を見合わせた。

    「類。」

    名前を呼べば、白藤の瞳が閉じられる。
    中山がキスをしやすいように首を少しだけ傾け、唇を此方に向けるので、中山はその唇に自身の唇を触れさせた。
    触れるだけのキスをして直ぐに離れ、鼻が触れ合う距離で中山が問い掛ける。

    「風呂、入るか。」
    「うん。でも、本当にお風呂でえっちは駄目だよ?」
    「分かってるって。」

    2匹を起こさないようにそっと立ち上がり、中山は白藤の腰を抱いて風呂へと向かったのだった。
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