二度とない この世界には神がいる。平和、空気の神だと聞いた。詳しいことは検閲対象らしく、書店勤めの一国民たるフィールが、人生を賭けようと目にすることは叶わない。
棒付きキャンディを舌の上で溶かす。家の外、だいぶ遠くに離れた人間が銃で撃たれて弾けて遺体となったのを視界の端で捉えた。
弟は志願兵として、平和の為に特攻をかけて死んだ。一丁前に葬式の案内状が届いたのだけど、フィールを強制的に志願兵に仕立て上げる画策を失敗し、勘当した挙句に、代理として弟を死地に行かせたのは、紛れもなく家族達だった。勘当の意味を知らないのだろうかと、疑問が浮かぶ。
ディストピアの体現を目にした。
神はいる、それは事実、誠の真実だ。
賃貸の扉を強く叩かれ始めた頃、棒付きキャンディが溶け終わり、ゴミ箱に投げ捨てられた。
2030