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    HimaginsamaDa

    @HimaginsamaDa

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    HimaginsamaDa

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    エレイシャー君とフィールちゃんの出会いの話。

    delete 赤いマフラーが、白の大地を駆けるとき、たなびく――愛おしさが込み上げた。地上には夜は暗く、空が輝く。赤の星は走り、表情豊かな顔を見せる。
    「にいちゃん!」
    「……おう、どうしたんだ?」
    「いつか、いつかはさ」
     淡く輝く願いが心に訴える煌めきは、正しく星なのだと思った。

     やまぬ雨はないらしい。地上の言葉だ。
     この世界で雨が降るならば、それは偽物か、永遠に降るのだろう。地上の言葉を、地下で使うのは似合わない。
    「……ツケ、払ってないんだけどな」
     燃え盛る炎の体どころか、翻訳と嘯いた常連客はおろか、誰もいない。
     勝手に拝借した酒をグラスに注ぎ、一気に飲み干した。骨の体に巡る血はないのにも関わらず、カーッと体が熱くなって、胸の奥にある白のソウルが鼓動を忙しなく鳴らす。その感覚が心地よくて、幾らでも酒を飲んだ。いつしか溶けてなくなりたいと、体を支配する酒が言わせた。
     ごお、ごお、と体が燃えそうだ。
     首のマフラーを巻き直して、酒瓶を一つ手に持った。覚束ない足取りで店を出ると、無人の街をひたすら歩いた。
     灰に塗れた世界を歩いて、段々と自分の姿が曖昧になった。体が熱くなり、冷えるを繰り返す。
     ――この世界は、全てを復元することが出来るというのだ。ただし物に限られた話らしく、魂を持つものは等しく、死を迎える。それは王様が言った最大の嘘だ。魂あるものだろうと、この力は復元させられる。いつかの研究と実験で判明した事実なのだけど、偉大なる博士は世間に明かさなかった。王様が嘘をつくほどの真実を、我々がなぜ公表できようか? 全くもってその通りだ。あの、耳の大きい優しい王様が嘘をつくことを、裏切ることはできない。
     弟の灰を握り締めようとも、体が形成されることはない。
     魂が粉々に砕け散った。そうだろうとも、この世界では全てが復元されるはずだった。
    「……おおさま……アンタ、は」
     嘘はついていなかった。同時に真実を話していなかった。
     折れ曲がった背は歩くたびに真っ直ぐへ伸びゆく。世界を歩くたびに、赤のマフラーがたなびいた。
     何もない目の奥には、赤と青が眠っているのだと聞いた。地下に住む住民全ての瞳には、赤と青が眠っている。足りないのは緑なのだと聞いた。
     かつん、かつんと足音が響く。
     白の柱が連なる空間を見つめると、駆け出した。そばにいるニンゲンへと一閃を貫いた。

     ニンゲンは骨に塗れた。

     ブラスターで消し炭にされた。

     圧死にされた。

     串刺しにされた。

     ナイフを振りかざすニンゲンの攻撃を避ける。酒に浮かされた舌では、格好つけた台詞を言う間はない。
     焦燥の汗を滲ませたニンゲンは足を滑らせて骨に突き刺さる。赤いソウルが砕けた。
     ――最悪と言えるうちは、最悪ではない。
     テレビのスターは悲劇の王子だった。

     何回繰り返したのだろう。記憶はないけど、ニンゲンの顔から推察出来る。
     なぜ魔法と復元なのか。
     根源を絶たなければならない。いっそのこと世界をはじめからにすれば良いのではないか。
     魔法は数式でない、復元は数式だ。
    「……あ」
     確信を持ってナイフが振り翳される。
     ――手に握る、ヒヤリとしたガラスの感覚を咄嗟に振り翳されるナイフの前へと出した。随分と力任せに振るわれていたのだろう、酒瓶はバラバラに砕け散る。手には、鋭い凶器があった。
     機械は削除を行える。復元の理論があるならば、削除の理論もあるはずだ。
     貼り付けていたニヤついた笑みが、確信と愉悦の笑みに変わった。
     鋭い――割れた酒瓶を、ニンゲンの左胸に突き刺した。ふらりと倒れゆく姿を見た。

     たった一文字を消す為のデリートではあるものの、それこそは削除だ。
     ニンゲンの頭へ目掛けて酒瓶を振り下ろすと、鈍い音を立てる。しばし荒い呼吸で倒れ伏せたニンゲンの上へ跨ると、割れた酒瓶を眼窩に差し込み、眼球をもぎ取った。
    「……思いついたんだよなぁ」
     ナイフを持つ手を、酒瓶で刺しながら、開いた口から音を漏らす。
    「復元って、元に戻すってことだ。分かるか? 分かるよなぁ、お前は分かるよな、つまりはデータのロードだ」
     ニンゲンのポケットをまさぐり、余っていたらしい食べ物を、ニンゲンの口へ、手を突っ込んで喉へと入れる。
    「思いついた。思いついたよ、アイツの言ってたことがようやく分かったし、王様の言うこともようやく分かった。……なあ、ニンゲン、お前の悪行を止める為の策を思いついたよ」
     お前の背筋に罪悪感は募っているか。
     LOVEと言う馬鹿げた数値を目に見て微笑むか。
     酒瓶を遠くに投げると、ニンゲンの胸部と地面に手を付けた。復元の仕方は簡単だ、直したいと思って力を込めるだけ。
    「……!」
     ばたばたと暴れ出すニンゲンと、視界にちらつく世界、その色彩の変化。
     削除は、消したいと思って力を込めるだけ。
    「死んじまえ」
     魂を掴み取った。

     開いた穴に落ちたニンゲンを見送ることなく、その地面に続く道を歩く。
     暫く歩いた先には、王様がいるはずだった。大きな灰と、小さな灰が残されていた。
     すたすた、すたすたと歩く。
     ソウルの入ったケースを開き、六つ全てを取り込む。力が溢れる感覚など、何かに燃える心など、ない。
     地下を封じた魔法を解いて、地上へと上がった。
    「……は」
     地上は、空に、恐らく――太陽と思しき星が燦々と輝いている。周囲は荒野ばかりで、生き物の影は一つも無かった。
     ――地上を暫く、ある意味で消されていく世界から逃れるようにして走り回った。ない肺が壊れかけるほどに走った。
     太陽は上で輝くまま、海はない。
     譫言を、弟の名をつぶやいた。お前の願いは、叶いっこないものだったと、分からせられたような。
     ニンゲンよりもはるかに理不尽だと、思った。
     いっそのこと気が狂えば良かったのに、脳は正常な世界を映し出す。
     言いようもない色に塗り潰された地面に襲われた。
     ぼんやりと見上げながら、しばらく落下していた――と思う。実は上がっていたり、左右や斜めに投げ出されていたのかもしれなかった。まるで落下ではないような感覚で麻痺を起こす。
     経過した時間を気にすることはなかった。

     言いようもない色に包まれていた視界に、紫の閃光が走り抜けたのに気付いた。轟く音を立てたと思うと、気付けば視界は様々な色を形成していた。
    「あ……?」
     落下の感覚が鮮明に感じられる。
    「大丈夫かい」
     甘い匂いと共に、落下の感覚が終えた。ばさ、ばさと羽ばたきの音と共に、いつのまにか地面へ降り立っていた。
    「……あ、あんた、だ、だれ? 誰だよ!」
    「俺?」
     藍色のパーカーと、パンクロックな首輪と腕輪。右目を劈くように走る痕は、先程目にした紫の閃光のようだった。極め付けは、片方ばかりの黒い羽。
    「フィールだ……よろしくね」
     同じくスケルトンの姿をしている。それなのに異形だった。
    「……ふ、ふぃ? フィール?」
    「先日も、君と似たような……人間が落ちてきてた」
    「に、ニンゲン……ニンゲン? あ、ああ、あいつ、あの、あい、あいつ!! おいアンタ教えてくれ俺はそいつを殺さなくちゃならない違うあいつは唾棄すべき悪党だ生きているだけ世界に損失を与え――」
    「そう。なら協力しよう」
     随分と話が早い。裏があるのではないか、と勘繰った。
    「少し……そうだな、俺には敵とやらがいる。読み聞かせの最中に敵とやらが来たら、君がお灸を据えてくれないか」
    「は、は? 読み聞かせ?」
    「それも仕事だ。君の世界は崩壊したろう、ここに住むといい」
    「ど、いう、ことか、よ、くわからない……」
    「なら、家に行こう。そして一回寝ればいい。幸い、今日は読み聞かせではないからね」
    「……な、なん、で、他人だろ」
    「他人だ。今のは"利害関係の一致"というべき契約じゃないかな」
     頭が働かない。
    「お、おれ、おれの、利、が、おおすぎる! な、なに、なにか」
     フィールは小首を傾げた。
    「……よく分からないな。あー、そうだ、君、人間のデータを消したろう? データがないとなると、流石に探すのに手間取るんだ、時間がかかるだろう」
    「……そ、うなのか」
    「うん……君はとても疲れているな。冷静な判断ができないところで契約を持ちかけてすまない」
     腕を取られると、フィールの肩にかけられる。
    「家に行こう。……君が嫌だと思うなら、契約はしない」
     ――疲れていた。しばし歩き続けて、フィールの家とやらにたどり着いた。家の扉を開くと、広くも温かみのある家だった。
    「……アンタ、名前も知らねえ骨を家にあげるなよ」
    「名前なら知ってる」
    「……よく、分からない」
    「分かろうとしてくれているのは分かっている」
     ふらり、ふらりと再び扉を開けば、ベッドがあった。ベッドに座り、ごろんと寝転がる。
    「……寝てもいいのか」
    「その為に連れてきたんだろう」
     敵意は感じなかった。そればかりの理由で、眠気が訪れる。
    「おやすみ、サンズ」
     フィールとやらがほら吹きでないことを、意識が落ちる寸前に理解した。
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