マシュマロリクエスト・フェイス君 唯一という言葉がふさわしいのはと考えて、あーあと勝手に息を吐いた。
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どうやらフェイス・ビームスが一皮むけたらしく、なにやら別れを告げ回っているそうな。
大勢いる、いや、大勢いた彼女の一人としては、何故だか鼻が高かったりする。
彼にフられて傷ついた女の子食べられなくなったのはだいぶ痛い……! と性に素直な感想はさておき。たまたま今まで別れるタイミング無かった──言ってしまえば都合の良い存在を求めていた身としてはああ身内が先に成長してしまったな、という考えが前に出るのだった。
「あらお客さん。最近忙しそうなのに、大丈夫?」
「迷惑なら帰るけど」
「あははいいよいいよ、いらっしゃい」
聞いていいなら聞かせてよ別れ話列伝。
と囁けばこの色男は麗しの双眸を半眼にして見せた。大概の人間が襟を正したり開けたりしたくなるような、時代が時代なら国が傾いていた佇まい。美人は三日で飽きるというから、どうやらこの人間はその域を超えているらしい。
タワー寄り、ウエストセクターの端に位置する我が家はもともとイケると思った女性やとかりそめの恋人を――おチビちゃんがうるさくて眠れないとか、やっかいな相手と顔を合わせそうだからとか語るこの男を――連れ込むために磨いてある。いつでもどうぞが売りなのだ。
「そのあたり、ちょっと話があるから」
「……マメだねえ? 別に、わざわざ別れ話しなくたっていいのに」
「あのさあ……」
なので、突然の来訪なんかも大歓迎で。ちょっと居心地の悪そうなフェイス・ビームスがどうだ、という話だ。
別れ話、なんて面倒を済ませている身内だ。暖かく迎えるのが筋というものではないだろうか。
「俺、ナマエを切った覚えはないんだけど」
「……うん?」
「切るつもりはない、って話をするから、入れて」
後ろ手に。ドアを閉める音がやけに大きかった。